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028 旅路17 港町での休日2

 


 子供たちが獲ってきた大量の海虫は、シロネによってまた選別され、金を支払われる。


 これは子供たちの中でも計算の出来る子供も確認していたので、子供たちもまとめて金を渡されても疑うことなく受け取っていた。


 シロネが1つ1つ丁寧に査定し、金額をつけていたので、子供達も納得しながら買い取り作業をしていき、昼前には終わることができた。


「すっげ!こんな大金みたことねー!」


「だな!」


 大金を手に入れた子供らだが、ここでよくありがちな強盗とかに合わないのだろうか?


 テンプレ的には金を持ってる非力な子供がいたら、この状況を見ている悪しき心の者たちが黙ってないはず。


 …あれ?そうなると…子供たちから海虫買ってる幼女連れの非力な男子高校生はどうなるの?


 イイ感じのカモじゃない?


 いや、こういうのは考えてると「やっぱりな」的な事になるからこれ以上考えるのはやめておこう。


 フラグ的なやつね。


 俺は気持ちを切り替え、黙々と買い取った海の幸…もとい海虫を【ワンルーム】に突っ込んでいく。


 マモルが戻ってきたら全部また凍らせてもらってアイテムボックスに入れとこうっと。


 それにしても【ワンルーム】。

 昨日初めて使ったけど、万が一の避難所以外に結構使い道ありそうだな。


 物置き感覚で昨日も今日も使ったけど、魔力で拡張出来るって前に説明見たし、MP余ってる時拡張しておくのも良いかもな。


 で、中に生簀とか…と思ったけど、世話をするのも大変だよなー。


 ま、拡張しといて損は無さそうだし、適当に区切りでも作ってそこを物置代わりにすれば今回みたいなことがあっても使えるか。


「なーなー」


 またしょうもない事を考えていると、子供に袖を引っ張られる。


「なんだ?」


「冒険者ギルドに付いてきてくれよ」


「……なんで?」


「俺達だけでこんな大金持ってたらカモられちまうだろ?」


 おぉ…分かっていたのか。

 なんか急に子供らが健気に見えてきた。


「ギルドに何が?」


 冒険者でも雇って護衛か?


「ったく、そんなこともわからねーのかよー。これだから金持ちは…」


 ふぅ、とこれ見よがしにため息まで吐いて、子供たちがご説明くださった。


「ギルド口座に入れておくんだよ。俺達みたいな子供がこんな大金持って帰ったら家にまで強盗が来るじゃんか。そうならないために全部ギルドの口座に預けて必要な時だけ必要な分下ろすようにしてるんだ」


 マジか冒険者ギルド。

 こんな子供にまでギルド証発行してるのか?!


 すげーな。


 そしてそれをうまく活用しているこの子供らもすげーわ。


「冒険者ギルドは俺らみたいなガキでも登録してくれんだ。雑用だけなら俺らでも出来るしな!」


 お、おぉ。


「けどあんまねーんだよなー」


 なんとなくわかる。

 お前ら無双してんだろ。


「町の外はまだ俺らじゃあぶねーし」


 きちんとわかっているようで。


「出来そうな依頼はこないだ全部やっちゃったし」


 出来る主婦みたいな感覚で言ってない?


「でも今日たくさん稼げたからしばらくパンには困らないよな!」


 くっ、急に出してくる健気さ…!


「ってことで頼むよー」


 何故俺に頼む?!


 子供らは俺を護衛代わりにしようってことか?

 自慢じゃないが、俺は弱いぞ?


 シロネがいるから…いいのか?


 シロネに視線を向けると笑顔で頷いている。

 だからたぶんいいのだろう。


「わかった」


 そう返事をすれば子供たちは喜んで俺を冒険者ギルドまで案内した。


「言っとくけど、俺達だって誰にでもこうして頼んだりしてるわけじゃねーんだからな?」


 なんだろう。

 新手のツンデレカミングアウトだろうか。


 やめてほしい。


 ツンデレとかは二次だから許せるのであってリアルではアレだよね。


 いっそどうでもよくなる。

 急に興味を失ってしまう。


 今回は子供だからまだマシだが、これが駆け引きを覚えた年頃の女子にされたらもう、関わりたくないと思ってしまっていただろうな。


 少なくともコミュニケーション能力が著しく低い俺には難易度が高すぎて無理だと思ってしまう。


「俺達だって人見て声掛けてるしよ」


 俺、子供にもカモられてんのか…?


 これはある意味衝撃的なカミングアウトだな。

 俺、ショックを隠しきれそうにないわ。


「それににーちゃんの護衛強そうだし!」


 子供ってよく見てるんだなー。


 自慢じゃないが、俺はシロネを見ても強そうには思えないんだけど。


 俺の目は節穴なんだろうな。


「ここだぜ!」


 動揺している間に冒険者ギルドに着いてしまったようだ。


「そうか。じゃぁな」


「え、一緒に中入ってくれよ。俺達がにーちゃんから稼いだ証明してくれって」


 えー、そこまでしなきゃならんの?


 俺冒険者ギルド入りたくないんだけど。


 テンプレ怖いんですけど。


 ハルトもサイネラではテンプレにあったとか喜んでたし。


 アレは勇者だから喜べる事案であって、普通の男子高校生の俺ではボコボコにされて終わりだろうな。


「いや…」


「いーからいーから」


 俺が渋っていると、またしても袖を掴まれ強引に連れ込まれてしまった。


 ここが冒険者ギルドである意味よかったな!


 シロネだっているし、ハーちゃんだっている。

 なんなら周囲に子供たちがいるんだからきっと大丈夫だろう。


 そんな情けない事を考えながら、「どうかテンプレ来ませんように」と祈りながら冒険者ギルド内を歩く。


 子供らは勝手知ったるギルド内らしく、目的の受付までズンズン進んでいき、あと言う間に受付嬢に声を掛けていた。


「ねーちゃん!口座に金いれてくれ!俺達全員!」


「あ、我々は違いますので」


 すかさずシロネが俺とシロネ、ハーちゃんを指して、子供らだけがギルドの口座を利用する事を伝える。


「はぁ。君たち、どうやってこんなに稼いだの?」


「このにーちゃんの依頼を達成したんだぜ!」


「ギルドを通さずに?」


「あー、まぁ、それは…」


「いいじゃねーか。別に悪いこともしてねぇし。生活のツイデってやつだよ」


 ジロリと受付嬢に睨まれたが、またしてもシロネが前に出て説明してくれた。


「子供たちの言う通りです。海産物を売ってもらいました。少なくとも子供らに損のないように対価を支払いました。危険なこともさせてないとは思うのですが、ご心配なら後で子供らから事情聴取でもなんでもしてください。我らは子供らがどうしても証明に必要だと言われたのでここまでついてきただけです。なにか必要な書類があるのならここで済ませますが」


「……いえ。失礼しました。子供達もどこも怪我をしてないようですし、いつもの人数で顔色も良いですし。書類などは必要ありません。ご足労ありがとうございました」


 受付嬢はシロネにも、そして俺にもぺこりと頭を下げ、後は子供たちの対応を始めた。子供達も各々がギルドカードを持っているようで、それを受付嬢にお金と一緒に渡し、戻ってきたカードを眺めて嬉しそうにしていた。


 子供らが手にした金は、平均して銀貨5枚くらいだろうか。

 昨日もいた子はもっと稼いでいるはず。


「自分のギルドカードに自分の魔力を通すと口座の残高が見れてちょっと嬉しくなるんスよねー」


 とシロネに教えてもらいつつ、俺達は冒険者ギルドを後にした。


 宿まで帰る道すがら、いくつか店に寄って、気になる物を買ったりして買い物を楽しんだ。


 途中で疲れたハーちゃんをシロネが抱っこしようとしたら、ハーちゃんが拒否。


 疲れてダダ捏ねモードになってしまったようだ。


 仕方なく俺が抱っこすれば彼女はご機嫌になった。


 昼を結構過ぎてから宿に着き、部屋で遅い昼食をとると、ハーちゃんはすぐに寝てしまった。


 シロネはゾーロさんに呼ばれてゾーロさんのとこへ行った。


 久々の一人の時間。


 新しいアプリでもダウンロードしてゲームでもするかな、と1人気合いを入れてると、荒々しく部屋のドアが開いて、そのまま俺がいる寝室までこれまた荒々しい足音が近づいてきて、ドンっと寝室のドアが開かれた。


「回復術師くん!」


 金髪あごひげおっさん騎士のバールが、焦った顔をして俺の所に来た。


「っ、な、なんですか?」


 ビビるでしょ。普通に。


 仲良くない人と1対1とか、どうしていいかわからんでしょ。


 どもるのだってしょうがないッスよね?


 まだローブ脱ぐ前でほんとによかったと思った。


 もしかしてこれからはローブのまま寝た方がいいのかもしれないと本気で考えた方が良さそうだな。


「ちょっと来い!」


 強い力で腕を引っ張られ、連れ出される。


 あれ、俺なんかヤバい事したかな?

 実は海虫食べちゃダメだったり?


 そしたら昨日爆笑されてないよな。

 子供らから買ったのが悪かったのか?


 そしたらやはり昨日の段階で何か言われてるよな。


 とすると…今日立ち寄った店でよからぬ物を買ったとか?


 いや、普通にシロネが知っている一般的なものを買っただけなんだけどな?


「チッ。遅ぇ」


 バールが俺に舌打ちしたかと思えば、俺は俵担ぎされていた。

 腹が苦しい。


 食後にこれはキツイ。

 頭に血も上ってきてツライ。

 ヤバいな。

 吐きそう。


 吐くか吐かないか、あとどれくらいガマン出来そうかとか考えているうちに、目的地に着いたらしく、降ろしてもらえたが、今度は急に立たされて、貧血気味になりフラついた。


「マジ貧弱かよ!そんな貧弱してる場合じゃねぇんだって!これ見ろ!頼む!回復術師だろ!」


 そこはさっきお暇したばかりの冒険者ギルド。


 中はたくさんの怪我人であふれかえっていた。


「この町の回復術師はもう魔力切れで動けねぇ。たまたまこの町に逗留中のお前だけなんだ。頼む。出来る限りでいい。助けてくれ」


「いや、でも…」


「金か?!だったら!」


「いえ、そうじゃなく」


「なんだよ!早く言え!」


「ギルド証を持ってない。ゾーロさんから聞いた。この大陸では本来、魔術師ギルドか教会に所属していなければ他人に回復術はかけてはいけない、と。仲間内ならまぁ良しとされているって」


「っ?!お前…!教会所属じゃなかったのかよ?!」


「…はい」


「なんなんだ。ほんとお前なんなんだよ!クッソぉぉ…。ここにゃ冒険者だけでなく、騎士も兵士もみんな怪我したやつらが集められてんだよ」


「……あとで不問、ならびに面倒な事を言わないのであれば速やかに手伝いますが」


「~~~っ、よし!俺の権限で許可する!だから、頼む!出来る限り助けてやってくれ!」


 広い冒険者ギルド内にいったい何人の怪我人がいるんだろう。


 数え切れないくらいいる。


 なんでこんな事になったんだとか、考えている暇はきっとないんだろうな。



 ふーー、と息を吐いて、聖女スキルの使用に集中する。

 範囲をギルド内に絞り、この中全体にスキルが行きわたるようなイメージをしながら【聖女の癒し】を発動。


 室内全体が淡く柔らかな光に包まれ、そしてそれは一瞬で引いていく。


 今までにない回復魔法っぽいエフェクトに、自分でびっくりする。


 …なるほど。

 もしかして今までは集中力が足りなかったのだろうか?


 ギルド内にはもう怪我人など誰もいないだろう。

 持病の腰痛や昔の古傷だってきっと治っているはずだ。


「終わりました。それでは」


「は?え…?」


 バールを置いて俺は宿に帰ることにした。


 シロネに何も言わずにここまで来てしまった。

 今頃焦っているかもしれない。


 部屋にはハーちゃん1人、部屋専属メイドは居るが、あまり安心はできない。


 ハーちゃんもみなきゃならないし俺のことも探さなきゃならないとか混乱するよなー、シロネさん。


 とりあえずシロネのスマホにメッセージ入れとくか。


「おい、待て!」


「っぅわっ」


 冒険者ギルドから出て、宿に向かっててくてく歩いていると、後ろから肩を掴まれ、ビビる。


 俺の肩を掴んだのはバールだった。


「な、な、なん、なんだよ、アレは!」


 どもるおっさん。

 ごめん、可愛いとは思えない。


「…範囲回復魔法です」


 たぶん。

 それに類似するものだとは思うが詳しいことはわからない。


「瀕死の、内臓はみ出てたやつまでいたんだぞ? !治らないまでも、治療された痕跡でもあれば、そいつも浮かばれるだろうと思って…!」


 うわ、マジか。

 まだグロ耐性スキル生えてないんで目に入ってなくて良かった。


 あの場で吐いてたら格好つかないよな。

 あと感じ悪いだろうし。


「そうですか。それはよかったです。では、これで」


 頼まれた事は出来たはずだ。もう用事は無いだろう。


「いやいやいやいや、まてまて。ちがうだろ」


 俺の言葉にまだ納得する様子のないバール。


 だが残念。


 俺に説明を求めたところでこれ以上何もない。


「すみません。不問というのと、面倒な事を言わないというのは…ウソだったんですか?」


 俺ショックなんですけど?!

 俺だまされた?!


「ウソじゃねぇって、ちがわねぇ。だけど、アレは…どう見たって普通じゃねぇだろ?!」


 あぁ…そうか。

 なんてこったい。


 こうなるってわかってたらもう少しハルトとマモルの範囲回復魔法でも見ておくんだった。


 普通ってどんなんよ?!


 てかアイツ等が範囲回復魔法とか使ってるの聞いたことはあるが、実際見たことねぇし。


 今となっては後の祭りかー。

 しくったなー。


「回復術を掛けろと言うから掛けただけで、そんな風に言われると傷付きますね…そうですか。普通じゃないとまで言われるなんて…結構ショックです」


 もう人前で回復スキル使うのやめよう。



 …ん?でもその場合、俺に何のスキルが残るっけ?

 回復系はダメだったら…無属性魔法でも極めるか?


 でもあれMP使うんだよなー。

 聖女スキルならMP使用無しだから使い勝手いいんだよなー。


「違う!そうじゃねぇ!俺が言いたいのは、助かったってことだ!あと、別にお前をせめてるわけじゃ…そう、責めてるわけではない。感謝している。助かった。私は、少し混乱していたようだ。…宿まで送ろう」


 急に口に手を当てて、口調も変わり、静かになるバール。


 無言がツライ。

 けど話題もない。


 こちらから話しかけるスキルは持ち合わせていない。

 困ったなー。


 俺がしゃべるとたぶんロクなことにならないだろうし。


 ハルトやマモルだから俺の言いたい事を理解して脳内変換してくれる。


 言い方悪いってよく言われるけど、自分じゃよくわからない。

 空気を呼んで発言したつもりでも違う時あるってよくあるんだよな。


 1人になると俺ってこんなにダメなのか。

 シロネでもいれば少しは変わってたか?


 くそ…全然わからん。


 でも1人1人回復してたら絶対死ぬ人出てただろうし。


 あ、でも死んで1時間以内だったら蘇生出来るスキルもあったような…?


「では、これで。先ほどは本当に助かった。…その…また、回復術を頼むこともあるかもしれないが…」


「…そちらが問題なければこちらとしても問題ありません。しかしこちらの回復術に関して説明を求められても困ります。普通がどうなのか把握していないので」


 うん。

 ここは正直にお伝えしておこう。


 回復魔法で稼ぎを出せるならそれに越したことないし。


 手に職ってやつ?

 商売一本じゃ不安だったんだよねー。


 今のところ俺の販路はゾーロさん一本だし。


 あれ、そう考えたらこれから不安になってきた。


 なんだかゾーロさんと離れがたいな…。


「そ、そうか。それはまた…。あぁ、いや。わかった。それで頼む。今回のことは、一旦こちらで考えてみる。悪いようにはしない。ではな」


 気付けば宿まで来ていた。

 宿の前には寝ているハーちゃんを抱きかかえたシロネが俺を探していたようで、俺を見つけてこちらに向かって歩いてくるのが見える。


 シロネとは逆に、バールは俺から離れ、また冒険者ギルドの方へ向かっていった。



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