025 旅路14 おっさん騎士めんどくさい
「アイツらマジめんどクセぇんだけど」
「まさかここまで大人げないとは思わなかった」
ハルトがここまで他人に辛辣になるのは見たことがない。
マモルがちょっとうんざりしているのはまぁ見慣れているけど。
ハルトの言う通り、おっさん騎士達はとにかくめんどくさかった。
ハルト達がまた魔物を探しに行こうとすると、片方は必ず付いてきて横取りする。
狩った物は魔石だけ取り、放置し、魔物を探すが自分では探せず、ハルト達が見つけた魔物をまた横取りし、の繰り返し。
途中魔石を取るのも面倒になったようで、その作業をハルト達にさせたり。
自分たちの乗っている馬竜なのに、世話は人任せ。
といっても対価を支払っているので、お互いがそれでよければそれでいいんだが、なんとなく断らせない雰囲気があるのでそうは思えない。
昼食のときだって彼らが見て気になった食べ物を昼食に食べようとしている商人に、半ば強引に金を支払い、それを昼食として、あーだこーだ言ってまた次のターゲットを探し歩くという、迷惑行為を行っている。
俺達からしたら迷惑行為に見えるが、もしかしたら、商人たちにとってはこんな休憩場所でも商売が出来たと喜んでいるかもしれない。
いや、どう見ても食べ物が金に変わって複雑そうな顔をし、ひもじい昼食時間となっている商人も見えるけど。
商人のサガなのか、商品に手を出してまで腹を満たそうとしないと言うのはすごいと思う。
そして騎士達のターゲットは商人たちだけに飽き足らず、テンちゃんにまで及んだ。
テンちゃんの食べているささみジャーキーにまで手を出してきた。
「犬っころがうまそうなもん食ってるなぁ」
テンちゃんにはハードタイプのジャーキーをおやつ時や昼食時にあげている。
朝晩は子犬用のドッグフードだが。
「…セージ、テンちゃんが落ち着いて食べられないから、騎士の方々にも1枚ずつ差しあげろ。まだあるんだろ?」
さも騎士達をうるさそうに言っているが、ハルトはたぶん、犬用フードを食べさせて内心で嫌がらせをしてスッキリするつもりなのだろう。
この人達相手にそううまい事運ぶだろうか。
俺は仕方なく、ハルトに2枚、ささみジャーキーを渡す。
自分で渡そうとしないのが俺チキである。
結局ハルトの手から騎士たちにジャーキーが渡り、それを早速騎士達は噛み締める。
「んん?味が薄い。色も薄いと思ったら、鳥か?!」
「うまいな。塩味はほとんどないが、これ普通の干し肉よりうまいぞ!なんだよ、こんなうまいのを犬っころの餌にしてんのかよ!」
ほら見ろ。思うようにならないだろ?とハルトを見れば、彼はガッカリ感と敗北感で悔しげな顔をして騎士達を眺めていた。
それをマモルもため息をつきながら見ていた。
日本でもたまに犬の餌を食べたことがあるとか言ってる人がいたり、さらにそれをおいしいとかも言ってるじゃんか。
それにテンちゃんに与えているのは【異世界ショップ】の専門店のちょっとお高めなものばかりだ。
人間が食べてマズイわけないと思うぞ、たぶん。
そういうのもありつつ、騎士達は賑やかに一日を過ごす。
商人にはもちろんだが、ハルトやマモルにまで事あるごとに話をねだり、あらゆる情報を引き出そうとし、シロネ達にまで色々聞いていた。
その日場所を借りる村などでは商人たちに混じり、酒盛りをしている。
この国のだいたいの村は酒も作っているので、こういうことが出来るんだろうが、それにしてもハーちゃんの護衛という体面は既にどうでもいいのかなと思えなくもない光景。
酒飲んだらまともに護衛勤まらないでしょ。
そんなおっさん達を見る俺らの視線は渋い物となっている。
ダメな感じの大人を体現している人達が目の前に居る。
「あーーー、しこたま飲んだったぜ。こら最高最高」
「この村のワインは出来がいいなぁ、商人から買ったシードルもうまかった。何も混ぜられてないものがこんなにうまかったとはなー。まだ飲めるぞー」
「ぶははは、飲めるぞーって、飲めるぞー!あはははは」
「飲めるんだから飲めるぞーだろ、あれ、どこ行った」
おっさんたちはべろんべろんになって村の宿まで商隊の商人の護衛人に連れてこられている。
残念なことに、このおっさん騎士2人の希望で、おっさん騎士2人と俺とハーちゃん、マーニが一緒の部屋になってしまっている。
こんなおっさんたちのダメな姿を幼女に見せていいのだろうか。
幸いにしてハーちゃんは寝てしまっているが、テンちゃんは酒臭いおっさん達をめちゃくちゃ威嚇し、酔っ払いの勢いでテンちゃんを撫でようとした茶髪無精ひげのおっさん、コニーをガブリとしていた。
酔って痛覚が少し麻痺しているのか、テンちゃんに噛まれたにもかかわらず、ゲラゲラ笑ってテンちゃんに何かしゃべっていたが、舌がもつれ、くだが巻かれ過ぎて内容は理解できなかった。
至近距離で息を吐きかけられているテンちゃんはさらにコニーの鼻を噛んで、俺のもとまで逃げてきて、シーツに鼻を擦りつけ、そのまま中に鼻を隠した状態で悶えている。
コニーは「いってぇーー……」と言って倒れてそのまま床に寝てしまった。
それを見てバールが爆笑し、ベッドに転がった拍子にベッドの枠に頭をぶつけてそのまま就寝となった。
……二人とも息をしているのできっと大丈夫だろう。
それを見たマーニが
「きちんと寝かせた方がいいんですよね?」
と俺に聞いてきたが、その言い方だと、「ほんとは嫌だけど、お前が言うならコイツらきちんとベッドに寝かせてやんよ?」と聞こえる。
安眠妨害とテンちゃんへのある意味虐待もあったことだし、
「いや、そのままでいいと思いますよ?」
と返事をして、さっさと寝ることにした。
翌朝、おっさん達はとても静かだった。
一応夜明け前には起きることが出来たようで…というか、マーニが優しく起こしてあげていたが、昨日と打って変って仏頂面で一言もしゃべらない。
それでもバールのおっさんはコニーの姿を見て笑おうとし、頭を抱えて呻いた。
「笑かすなよ、頭痛てーんだから」
「こっちだって頭いてーんだよ、勝手に笑ってんのそっちだろ」
「ぶっは!…っいって…」
静かにうるさくなってきた。
「くしゃい」
普段おとなしいハーちゃんが珍しく寝起きに鼻を押さえてつぶやいた。
ハーちゃんの言う通り、この部屋はおっさん達の酒臭さが充満していた。
程なくしてハルト達もこっちの部屋へとやってきて、扉をあけた瞬間鼻をおさえていた。
「くっせ!」
とはついうっかりハルトが口を滑らせていた。
ハーちゃんの言葉と相まって、おっさん達は多少なりとも心にダメージが入ったようだ。
大人しく沈んでいる。
さぁ、出発という段階になって、
「動けん」
「頭が痛い」
とおっさん達は言いだし、微動だにしない。
二日酔いらしく、身動きできないとか言い始めた。
このままでは歩くことはもちろん、馬竜に乗ることなんてとてもじゃないが出来そうにないから、出発を遅らせくれとまで言い始める始末。
「しかたない」
ほんとうに仕方なさそうにマモルがおっさんたちに歩み寄り、水の回復魔法を掛けた。
あれたぶん微弱で最低限の回復魔法ってやつだな。
「お?頭痛が…収まったようなそうでないような?」
「これならまぁ、動けなくもないか」
てことで、なんとか集合場所に行くも、商隊に参加する何人かが動く屍のような体となっている。
おっさんたちに付き合わされたんだろうなと察しはつくが。
これじゃぁ埒が明かないとばかりに、マモルが
「今回だけ、特別タダで最低限の回復を掛けましょう」
と言って、希望者に水の回復魔法を掛けてあげていた。
そうしてやっていつもより30分程遅い出発で商隊は動き出す。
昨日とは打って変わって、静かに隊は進んでいく。
後でマモルから聞いたことだが、やはり全回復させずに、微妙に残る程度に二日酔いの症状を緩和させたらしい。
毎回こんな事されたら帝国に着くのが遅くなるし、万が一のとき使いものにならないのは困るだろうからこの辛さをきちんと身に沁みさせときたい、ってのと、無料だし?との理由である。
「何事もほどほどじゃないとねー。ほんと、子供にこんな大人見せたくないよねー」
とも言っていた。
その日、おっさん騎士達はマモルから説教を食らっていた。
「飲みすぎたらハーちゃんと同じ部屋にはさせられない」としっかり言われていた。
水をちびちび飲んで、昼ごろには回復したらしいおっさん騎士二人は、もそもそと手持ちの干し肉を噛み締め、黒パンを水で流し込んで食べていた。
「なぁ、ぶっふぉ、やっぱそれウケんだけど」
「うっせー、何がだよ。くっそー、なんか顔の真ん中が痛ぇ。右手もなんかに噛まれた痕があるしよー」
「顔もなんかに噛まれた痕だぜ?顔面噛まれても気付かないとかアホだろ、マジうける……ってぇ、寝違えたのがまだ首筋治らねぇ。魔術師くんの腕イマイチだなー」
「……イマイチで結構です。次は二日酔い程度じゃ絶対治しません」
「うそ、うっそー。朝っぱらから動けるようになったのは魔術師先生のおかげだよー」
「感謝してる!でもどうせなら本気出して回復掛けてほしかったってだけでさ」
「え、手ぇ抜いてたの?! 魔術師くん酷くない?!」
最初にマモルは「最低限」と言っていたはずだが、それすら耳に入っていなかったらしい。
「……チッ」
イライラしすぎて舌打ちを返すマモル。
めっちゃおっさん騎士たちに絡まれてる…。
俺ならメンタル耐えられない。
それを舌打ちで返せるマモルは何故勇者ではなく賢者なのか。
今日は町の宿で宿泊し、明日が宿場町、その次が王都であり、港町でもある王都シャローロ・ラ・ナチュピケに着く。
通称ナチュピケらしい。
このまま順調に行けば、あと3日で着く感じだ。
ゾーロさんの話ではそのナチュピケから船で2日行った先に帝都があるらしいのだが、その船がまだどうなるか確定ではないらしい。
定期便に乗れればそれでいいのだが、それも順番になるため、必ずしもすぐ乗れるというわけではないらしい。
それに大荷物がある商人では余計あぶれてしまうとか。
あとは商業ギルドで募集を掛けたり、掛けてあるのを探して、何人かの商人が船を借りて運んでもらうというのもあるらしい。
しかしそれだと場合によっては割高になるので、出来れば定期便に乗りたいとゾーロさんは言っていた。
シャローロ・ラ・スヴィケ王国での旅もある意味順調だった。
魔物を狩りたければ少し商隊から離れればいるのでお好きにどうぞ状態だが、安全に越したことはないので、誰も商隊から離れて行動を取る人はいない。
もっとも、俺も聖女スキルで魔物にも盗賊にも遭遇しないようにしているとは言っていないので、皆不思議がりつつも、いつ遭遇するかわからない魔物や盗賊に備えて警戒はしている。
俺のスキルで魔物などに遭遇しないことを知っているハルト達も、おっさん騎士たちが狩りについてきて横取りしまくるので、大人しく商隊から離れないようになった。
たいがいの宿泊予定地には早めに着くので、ゾーロさんは俺からシロネ経由で手に入れた商品を商業ギルドに卸したり、市場で露店を出してそこで売ったりして順調に稼いでいるらしく、なんかキラキラしている。
途中、何組かの商人たちとお別れし、数を減らした商隊でさらに北へ向かい、この国最大の港町で、王都でもあるシャローロ・ラ・ナチュピケを目指す。
立ち寄った町や村でもゾーロさんは細かく商売をし、ホクホクしている。
ホントに彼は楽しそうに商売をしている。
俺達はおっさん騎士達の絡みが面倒で、極力距離は取っているものの、日に数回は捕まり、話し相手をさせられる。
俺の反応があまりに薄いため、おっさんらは早々に俺を諦めてくれ、彼らの対応のおおかたをハルト達がしているわけだが……いつの間にか仲良くなっていてびっくりした。
「あのおっさん達も意外といいとこあるよな。町で武器見てたら色々教えてくれてさー」
「年の功もあるんだろうけど彼らの博識な部分はちょっと尊敬するかも?はしゃがなければ良い付き合いは出来そうな気がするんだけどねー」
なんて二人は言っていた。
歴戦のおっさん達の処世テクニックの前に勇者も賢者も手も足も出ないってことか?!
まぁ、二人が嫌な思いをしないで相手してくれるならいいか。
深く考えても俺には分からないし、俺には対応出来かねる。
二人にだけ相手をさせて申し訳ないと思う気持ちも軽くなったし、よかったよかった。
「で、今更なんだけど、お前回復術師くんなんだって?回復術師がなんでこんな商隊に?あの剣士くんと魔術師くんの仲間だってのはわかるけど…教会で馬車とか騎士とか用意してもらえるだろうに。帝都見物なんて行くならなおさらだよなー?」
全然よくない…!
唐突に話しかけられた!
でもって教会ってなんだ?!
マモルに視線を向けるもわかってない様子。
なんて答えれば?!
『まぁ、いろいろありまして』なんて言ったら、余計な事を疑われそうだし、『教会ってなんですか?』なんてもっと言えそうにない。
『見聞を広めるために?』なんてお前何様なことも言えない。
見聞もなにもこの旅の間、馬車か宿にほぼこもりっきりなので。
「…特に理由はありません」
これが一番無難だよな?!
「あれか、お年頃ってやつか!そのくらいの年頃の男子だったら何でもかんでも一人でできるとか思っちゃう、そんなやんちゃな年頃だもんなー。うんうん、わかるわかる」
わかられてしまった?!
むしろ教えて!どういうこと?!




