024 旅路13 シャローロ・ラ・スヴィケ王国
サイネラ王国内の旅も終盤に差し掛かったある日の休憩のこと。
「そーいえばさー、お前、ゾーロさん達に何かした?」
ハルトがなんか急に失礼なことを俺に問いかける。
「なに人聞きの悪いことを」
「あ、それ僕も気になったー。最近ちょっと変だよねー」
お前もか。
「何もないよ。ほとんどシロネやマーニが相手してたし、俺いるだけだったし。何もない」
堂々と何もしてない宣言をする。
ホントの事なので。
それにゾーロさんがちょっとアレなのは元からじゃないか。
俺の言葉の確認を取るように、ハルトとマモルが二人してシロネと、マーニに視線を移す。
移された方は、困った顔で答える。
「えー、とぉ、自室の中ということもあり、素顔を出してラフな格好でその…にこやかに対応されて以降、たしかにゾーロ様方はよそよそしさが増したように思えます」
ハルトとマモルは「あぁ…」みたいな残念そうな顔でこっちを見てくる。
「素顔晒してネタスキル発動したってわけね」
「たしか…“微笑み”がつくアレだよねー。うわー」
「し、仕方ないだろ。急なことで不安だったんだから。それにたぶん不可抗力だ。今思えばアレは無意識だったのかもしれない」
さらに痛ましそうに俺をみる二人。
「あと、たぶんスけど…ローブはおろか、内側に着ている物も真っ白だし、ボタンもシンプルかつ細かいものでシャツに合わせた、真珠のようなそうでないような不思議な色の白で全て均一な作り。普段人目に触れないところにも真っ白い物を身に付け、且つシンプルな作りの服に贅沢に高価なボタンを使う人は貴族でもそうそういないッスからビビったんだと思うッス。それに自分らにも似たような高価で独自性のあるデザインの服を着させているってのも引いた要因があるかもっス」
なんてシロネが報告した途端、ハルトは目に手を当てて天を仰ぎ、マモルも同様に目に手をあて、こちらはため息を吐きながら俯いた。
俺はぼんやりと遠くを眺めた。
そうだよね。
そこまで考えてなかったカルチャーショック。
「僕達、もう少し気をつけたり、周囲に気を使ったりした方がいいかもしれないね」
今さらですよね。
お前のあの時のテンションなんだったの?!
「着る物にまで気を使わなきゃなんねーとか、面倒だな」
逆の意味でそうなんだろうけども。
「まぁでも今の所そういう目で見られてるのセージだけだからいいか。オレ達だけ気をつけとこーぜ」
「だねー」
速やかに俺を切り捨てた二人はさすが勇者と賢者だと思う。
それから一日が経った今日、シャローロ・ラ・スヴィケ王国に入った。
この国は国境に関所をもうけてある。
そのため、つかず離れずで微妙な距離感を保って護衛を続けてくれていたサイネラ王国の騎士二人とはここでお別れである。
「いやぁ、今回もこんなに早く国境を越えることになるとは、いやはや、騎士様方から発せられる、気高いオーラのおかげでしょうか、ははははは」
ゾーロさんは一応騎士たちに気を使っているようできちんと別れのあいさつみたいなのを交わしていた。
関所は町門も兼ねてあり、ここをくぐればシャローロ・ラ・スヴィケ王国の南関所町に入ることが出来る。
その後、これまでサイネラ王国内を共にした護衛の騎士達が、関所の騎士達にハーちゃんを連れている事を説明してくれた。
すると関所の騎士達は魔法か何かをとばして、どこかへ報告。
しばらくしてその何かがまた関所の騎士たちに戻ってくると、確認が取れたのか、騎士同士で話し合い、何か書面にサインしあっている。
それからサイネラ王国側の騎士とはここでお別れとなった。
結構あっさりしたお別れだった。
それを見届けてから、シャローロ・ラ・スヴィケ王国側の騎士が俺達に申し訳なさそうに報告する。
「申し訳ありません。こちらが予定していた日時より早く商隊がこの関所についてしまわれたため、こちら側から護衛に着くはずの者が間に合わないとのこと。この町でしばらく滞在する事は可能でしょうか」
「商隊を遅らせるわけにはいきませんし、かといって今から商隊から離れて行動というのも今までお世話になった方々に対してどうかと思いますので、護衛の方々の到着を待つということだけでここにしばらく滞在というのは出来かねます」
どこに出しても恥ずかしくない賢者が、答えた。
関所番の騎士が少し迷った末、明日の商隊出発時まで、担当護衛騎士が到着しなければ、担当と合流するまでこの騎士さんが護衛としてついてきてくれることになった。
こういう時って、騎士とか偉い人って、無理に商隊を止めたり、商隊から離れさせたりするもんだと思っていた。
何か理由があるのだろうかと思っていると、後からゾーロさんが教えてくれた。
商隊の到着を待ちわびる人というのはたくさんいるので、無理じいは出来ない。早く着かせる分には問題はないが、到着を遅らせるというのは、顰蹙を買うモノだ、と。
それに商隊から無理に離脱させるというのはハーちゃんの家の貴族家としての品位や常識を疑われる行為に当たるらしい。
それじゃなくとも、さらなる誘拐の可能性も疑われるのでそういうことはしない方がいいらしい。
ハーちゃんちの人が迎えに来て、商隊やゾーロさんに手厚い礼をした上でハーちゃんを引き取るなら話は別らしいが。
色々あるんだね。
でもそれもそうか。
そんな話を聞きつつ、今回も俺達は町の騎士に宿へと案内される。
国も違えば宿も変わる。
サイネラ王国は形式張ったカッチカチの御大層な高級宿だったが、こちらの王国の高級と言われる宿は、余裕がある感じの宿だった。
お客様は誰であっても分け隔てないお客様と言わんばかりの態度でありつつ、アットホームさもある。
他のお客さんに迷惑さえかけなければ、結構客の自由に振舞わせている。
価格も他の国の高級宿と比べてリーズナブルなのか、ちょっと稼いでいる商人なんかも気軽に泊まれるらしい。
それでも一級のサービスをしてくれるこの宿はなかなかのものだと感じた。
さて、シャローロ・ラ・スヴィケ王国。
漁業が盛んな国らしく、なんとなく国境を越えた途端、海の匂いがしなくもない。
懐かしい感じがする。
日本も島国で海が近かったし、こんな匂いだった気も…?
たぶん気のせいなんだろうけど。
港まで1週間近く掛るみたいだしな。
ゾーロさんの話では、この国は活気もありつつ長閑さもあり、せわしない割には時間にはルーズな人が多いんだとか。
海を挟んで帝国と近いことから、交易ももちろん盛んなのだが、そういった気風があるため、基本はどんぶり勘定。
なのに商売はうまく行っているという不思議な国なんだそうだ。
「サイネラもそうですがこの国も小国ながら豊かな国ですからねぇ。物はあるだけ売れるのですよ。特に王都ではリンゴ酒が売れます。売った分この国で葡萄酒を購入して帝国に行けばそこでは酒をあるだけ買ってくれますから、この国では買い物もしていきたいところです。この国の王都までの道すがら、立ち寄る町や村で葡萄酒を買いこんで行こうと思います。あぁ、でもせっかくハルトさんにご協力いただいているのですからここで果実酒を売るのは我慢して帝国で売るというのもありますな!いやぁ、ハルトさん達に出会えて本当に良かった」
改めてしみじみ言うゾーロさん。
俺達が召喚された国、ローザング聖王国もワインで有名らしいが、この国もワインが有名らしい。
しかもまとめ買いすれば聖王国よりも安く手に入るとか。
味もそこそこで、若者や女性に好まれる味なんだとか。
「それにしても此度の旅は順調極まりないですなぁ。魔物や盗賊の襲撃らしい襲撃もなく、見かけたので仕方なく、といった討伐が1度あったきり。ここまで順調な旅は初めてでございます。いつもなら必ず国境あたりで魔物や盗賊の襲撃はあるのですがねぇ。名のある冒険者でも通った直後なのでしょうか。それにしてもそういった噂を聞きませんでしたが。不思議ですねぇ」
なんかすいません。
魔物も盗賊もフラグも怖いので出来る限り遠ざけさせてもらってます。
俺とハーちゃんとテンちゃんは基本ゾーロさん達と馬車の中に居る。
ハルトとマモルはずっと馬車に乗っているのも飽きると言って、交代で商隊から離れて、見回りと称し、【堅牢なる聖女の聖域】の範囲外で魔物を狩ってレベルをあげていたりしていた。
「そう言えば、この国に入ってから急に馬車の揺れが少なくなりましたね」
ふと、マモルが気付く。
そう言えばそうだな。
それでもクッションを外すことは出来ないぐらいには揺れるけど。
マモルの疑問にゾーロさんが嬉々として答える。
彼はしゃべることが出来たり、自分の知識を披露できる場があると嬉しいらしい。
ミケロくんはこの旅で早々に父の話やツッコミ役に飽きて、ジックさんに御者を教えてもらっていた。
少年は成長が早いなぁ。
ゾーロさんの話では、帝国の道はここ以上にほとんど綺麗に舗装されていて、帝国と仲がいいこの国の王がそれをマネして似たような感じに国中の道を舗装してはいるが、帝国の技術には劣るようで、これが精一杯らしい。
それでも商人たちからは好感を得ているんだとか。
馬車が揺れづらくて舗装されているのなら商人じゃなくても好感は持つ。
比較的余裕がある国だから出来るんだろうな。
関所の町で一泊するも、担当の護衛という騎士はまだ到着出来なかった。
仕方なく、昨日関所の門番をしていた騎士が、早朝俺達を迎えに来て、事情を説明。
そのままハーちゃんの護衛に就いた。
順調に商隊は進み、シャローロ・ラ・スヴィケに入って2日目に、大きな町に着いた。
ここで関所の騎士さんとはお別れで、やっともともと予定していた騎士さんと合流となった。
騎士同士、事務的な会話をした上で引き継ぎの騎士とも顔合わせし、本日は解散。
毎度ながら実にさっぱりしたものである。
ここからの騎士は仲の良さそうなおっさん2人組だった。
「いやー、若いのと違って俺ら足腰がもうアレだからなー、商隊でのんびり護衛とか、支給された金で高級宿とか最高か!とか思ってよぉ。聞けばお嬢さんのお世話とかいらないんだろ?クッソ重いプレートメイルじゃなくて軽装の装備で出かけられるってのもいいよなー」
「そうそう。他国の侯爵様の金で飲み食いし放題だし、多少の責任はあるが隊を指揮する程の責任もなく、ただ商隊についていけばいいだけで、帝国まで行けるたぁ最高じゃねぇか。お土産たくさん頼まれちった」
チャラい感じのおっさん騎士たちは旅行気分らしい。
どういうつもりでこんな感じに俺達に聞こえるようにしゃべっているのかは分からないが、明らかに今までの騎士達とは違うノリ。
この国大丈夫か?
ハルトはおっさん騎士が来た時点で何故か冷やかに対応。
マモルももとより俺ほどではないにしても人見知り。
それでもここに来て自分らがしっかりしなければならないってことで、仮想ビジネスモードで対応するくらいには人と話している。
今回の騎士二人にも安定の事務的な会話をしている。
そして俺だが、会釈程度で通常運転。
不可抗力な無言を貫いている。
右手はハーちゃんと繋いで、左腕にテンちゃんを抱いている。
俺は忙しいのだ。
言葉はいらない。
ただ見た目が忙しいのだ。
それでいいんだ。
これで見逃してもらおうと思う。
金髪であごひげのおっさん騎士がバール。
茶髪に無精ひげなおっさん騎士がコニーと言った。
サイネラ王国の騎士たちとのギャップがすごい。
あっちはピリっとした感じだったのに、このゆるさ。
お国柄もあるのだろうが、本気で大丈夫だろうかと思わなくもない。
それでも最低限の護衛はしてくれるし、こちらに必要以上に干渉するようなことは無さそうだ。
ほどほどの距離と対応さえしてくれればそれでいい。
とかなんとか、俺が偉そうに言えたことではないんだけどね。
ほとんどマモルかハルトが応対してくれるだろうし。
ハーちゃんはまた別な騎士の登場で警戒を始めている。
左手で俺と手を繋ぎながら、右手で俺のローブをしっかり握っている。
極めつきにニコリともしない。
クールな女な感じの幼女だ。
おっさん騎士達もそんなハーちゃんには軽く挨拶する程度にとどめ、また明日の早朝、出発の時に、と言ってどこぞへ戻っていった。
そんなおっさん達を見送りつつ、マモルがぽつりと言う。
「今度はまぁ大物が出てきたみたいだね」
「大物?」
勇者と賢者に倒せない相手なんているのだろうか。
もしかしてこんなチャラけていてもまさかの隊長クラスの騎士だったりするのか?
見た目年齢で言えば中堅っぽいしな。管理職くらいにはなってるだろう。
「どんなつもりで護衛をするのか分からない。チャラけてる風だけど、内心どうなのか。何のためにこんなことしてるのかさっぱり分からない」
マジトーンで賢者がそういうこと言うって、なんか怖いんですけど?!
「案外そのまんまだったりな」
「だったらいいけど」
そんなこと言ってフラグとか立てないでほしいんですけど。
「えー、商隊ってこんなに遅いもんなのー?」
「せっかく馬竜に乗ってるんだから早駆けとかしたいよなー」
おっさん二人は朝から絶好調なくらい文句たらたらだった。
暇を持て余して商人やその護衛などにちょっかい掛けてみたり、商品に興味を示してみたりとマジ自由人している。
ハーちゃんのことはもうどうでも良さそうな雰囲気もある。
「おっさん騎士って時点でなんか裏ありそうで嫌なんだけど。でもこないだの二人よりは接しやすいのか?あー、でもやっぱ裏ありそうで嫌なんだよなー」
勇者のカンとかいうヤツだろうか。ハルトが寒気でも感じているように自分の腕を抱いている。
「騎士って言い張るだけならいいんだけどねー。なんか僕は憂鬱だよ」
賢者は何かを察しているらしく、ご機嫌は麗しくなさそうだ。
ゾーロさんは気さくな感じの騎士に聞かれるままに話をしている。
新しい話し相手が出来て喜んでいると思いきや、なんだか緊張しながらの様子。
もしかしてハルト同様、騎士に対してはあまりいい感情は抱いてないのか、単に雰囲気にのまれているだけのか。
マモルの言い方から察するに、ただの騎士ではないだろう。
だとしたら、貴族の可能性もあるよな。
あれ?そもそも騎士って貴族なんだっけ?
よく話を聞いとけばよかったな。
まぁとりあえず、アレだ。
これは完全に俺は関わらない方が良さそうだ。
てか関わりたくない。
いや、関わり方が分からない。
偉い人とか無理!
武器を所持している権力者相手に会話なんて普通の男子高校生には無理だろう?
それに掘り返すようだが俺達3人の中で俺の成績は一番下だ。
クラスの女子を含めたってクラス内ビリ。
まぁ、とにかくあれだよね、普通の人とも緊張してまともに話せないのに、緊張と頭の悪さも相まって騎士や貴族と普通に話せるわけないよね、ってやつだ。
「うええぇぇぇぇーん」
俺が寝たフリしながらどうでもいい事を考えている間に、騎士の一人が馬車の外からハーちゃんの持っていたぬいぐるみ型リュックを取り上げていた。
マモルが幼女にはこれだよ!と言って持たせていたやつ。
ハーちゃんは割かし気に入っていて、馬車の中ではこれを抱きしめていた。
「ほー、随分凝った作りの人形だな。お?この隙間から物を入れられるようになっているのか。なるほどなー」
「おいおい、子供泣かせてまで見るようなものかよ。寝ている時にでも見せてもらえばよかっただろう。バカなの?大人げないの?バーカバーカ」
茶髪で無精ひげのコニーがハーちゃんを泣かせ、それを金髪あごひげのバールが適当にたしなめているが、本気ではなさそうだ。
むしろこちらもふざけている。
なんなんだ?
騎士貴族云々よりこんなチャラい感じの人達、そもそも無理なんですけど?!
怖いんですけど?!
てかハーちゃんはあんたらの護衛対象なのになんで泣かせてんの?!
ハーちゃんははじめこそ取り返そうとしたが、馬車の中からじゃ無理だとわかると、俺にしがみついて泣き始めた。
これは…「お前が取り返してこいよ」という幼女の圧力だろうか?
無理ですよ?
騎士、めっちゃ強そうだもん。
諦めよう?
という思いも込めて、俺はハーちゃんの頭を撫でる。
するとハーちゃんはピタリと泣きやみ、くすんくすんしながらびっくりした顔をして俺を見て、それからニコリと笑って俺にまた抱きついた。
それはもう、ぬいぐるみリュックなんてもうどうでも良いように、嬉しそうに。
「幼女キラーかよ」
「幼女テイマーかもしれない」
なんでハーちゃんが泣き止んだのかイマイチピンときてない俺に対して、ハルトとマモルがなんか失礼な視線と言葉を俺に向けたあと、二人がおっさん騎士の行動を一応たしなめ、無事、ハーちゃんのもとへぬいぐるみリュックは戻ってきた。




