022 旅路11 子犬、登録、謎マナー
10分少々で発注書を持って俺達のもとまでやって来たシロネ。
「こちらの内容ですが、よろしいでしょうか」
ゾーロさん達がいる手前、余所行きのしゃべり方をするシロネ。
俺に見せたメモの内容は
―――――
ハチミツ(小)銀貨1枚・・・800
ハチミツ(中)銀貨5枚・・・500
ハチミツ(大)銀貨10枚・・・200
カレー粉(小瓶)銀貨1枚・・・200
しょうゆ(200ml)銀貨1枚・・・100
ペットボトル飲料(500ml)銀貨1枚・・・500
メモチョウ 銅貨50枚・・・500
ボールペン 銅貨50枚・・・500
タオル(小)銀貨1枚・・・300
タオル(中)銀貨5枚・・・200
タオル(大)銀貨20枚・・・100
クッション 銀貨5枚・・・50
ブランケット(薄手)銀貨1枚・・・100
ブランケット(厚手)銀貨5枚・・・50
―――――
だった。
ゾーロさん破産しない?
大丈夫なの?
幸いというか、結構頑張ったというか、そのおかげでシロネに預けてあるマジックバッグには発注書に書かれてあるものは大体入っている。
足りない物もあるので、その場で買い足し、シロネに預けた。
これからゾーロさんと一緒に商業ギルドへ行くそうだ。
ゾーロさんは商業ギルドからの依頼だったらしい。
ゾーロさんを経由するのでゾーロさんもホクホク。
彼もなかなかの値段を付けて売りこんだみたいだ。
それでも売れたんだから商人としてはすごいのかも?
シロネとゾーロさん達を見送り、また静かに部屋で過ごす。
17時。
マモルが【ミニチュアガーデン】から出てきた。
「わー、セージ久しぶりー」
いえ、2~3時間ぶりですが?
「うん。久しぶり、マモル」
合わせることにした。
たぶん、あのなかで物凄い時間を過ごしてきたんだろう事を察してみた。
「あ、そうだよねー、こっちではあんま時間経ってないんだった。ごめんごめん」
賢者も賢者で察してくれたようで。
「いいよ。おかえり。どうだった?」
「物凄くのんびりできた。たまってたラノベ読みまくれた!明日は朝からまたガーデンこもって中を拡張したり、魔改造したり、魔法の練習なんかやってみようかなって思ってる」
「そうか。気をつけてな」
「うん」
素直に返事する賢者。
純粋に嬉しそうな顔で言う割に、内容がマッドなんですがね。
そこへ
「たっだいまー」
元気に帰りを告げるハルト。
その出で立ちを目視して、俺は愕然と言葉を発す。
「ウソだろ?」
と。
マモルは苦笑いしている。
マジでマジかよ?この勇者。
商隊から離れたことで【堅牢なる聖女の聖域】は解除してしまっている。
それが影響してしまったんだろうな。
そうだよ。
これは俺の失敗だ。
ハルトが暴れたくてうずうずしていたので、安全が確保できる【聖女の守護】だけかけてあとはストレス解消にと冒険者ギルド行けばとかいっちゃった俺のせいでもあるんだろうけども。
「いや、違うんだって!時間余ったから冒険者ギルドで初依頼なんて受けてみたわけよ。そしたらたまたま受けた討伐依頼でたまたま大量の魔物を倒してるとき、他の魔物に襲われている死に掛けた魔物が、我が子を守るようにうずくまっててさー、なんていうの、直感?そう、オレの直感が告げたわけよ。この魔物はオレに我が子を託そうとしてるってさ!で、討伐も終えて、親っぽい魔物がかばっていたこの子犬…コイツを連れてギルドに戻ったら受付嬢が言うわけよ、『信じられない…!初めての討伐でこんな数の魔物を、しかも上位ランクの魔物を相手にするなんて…!それにその子、フェンリルの子供ですよね!?どういう状況ですか?!え?!しかも従魔登録ですか?!フェンリルですよ?!フェンリルの子供を育てて従魔にするなんて前代未聞です!!』ってな」
言い訳なげーよ!
フラグ回収勇者め!
「ねー、ハルト。それ全然ちがくなくない?テンプレもいいとこじゃん」
さすがの賢者も勇者にツッコミを入れている。
それには俺も同意である。
「いやー、なんかもう、途中からレベル上がるの楽しくなっちゃってさ。人間を見た瞬間に襲いかかってくる魔物の習性とか気になったり、知性が高いといきなり襲ってくることないんだなー、なんて観察もできて楽しかったって言うか、とても有意義だったってか途中から忘れてたって言うか。な?……ってことで、コイツの回復たのまぁ」
なにが「な?」だよ。
言葉の最後、謎の江戸っ子キャラになったハルトが、腕に抱いた魔物だという子犬に似た、ぐったりして意識がない様子の生き物をずずいと俺の前に差し出す。
「オレの回復魔法じゃ効かないみたいでさ。呪いかなとは思って解呪の魔法も使ってみたんだけど効かなくてさ。ただの呪いじゃねーかも?」
また面倒なことになりそうだというため息をつきながら、“いつものセット”化している、あらゆるバッドステータスを回復させる【聖女の慈愛】とあらゆる怪我や病気を治し、HPを回復させる【聖女の癒し】を、それからついでに【クリーン】も一緒にその生き物に掛ける。
すると、【クリーン】効果で白くてふわっふわになった子犬のような生き物は、聖女スキル効果が効いたのかすぐに目を覚まし、自分を抱いているハルトに驚き威嚇し、ハルトが「だいじょう…」ぶ、という前にハルトの腕を噛んで腕から飛び退き、絨毯が敷き詰められた床へ着地…しようとして出来なくて、全身強打して一瞬動かなかったが、それでも一応生きていたみたいで、伏せの状態になり、そこからその場で歯をむき出しにして俺達を含め、ハルトを威嚇している。
「なんか僕、このパターン見たことあるかなー」
「奇遇だな。オレもだ。泣きそう」
そんな事をいって、マモルとハルトは俺に悲しそうな視線を向けた。
「セージ、頼むよ」
「今ので全身打撲状態かな?内臓も少しいってるかも?」
冷静かよ!
「はぁぁぁ。きちんと面倒…」
「見る見る!今度こそ!」
現状、ハーちゃんの面倒を見てないことはしっかり自覚があるらしい。
かくいう俺も特にハーちゃんの面倒を見ているわけでなく、俺に付いてくるハーちゃんをマーニが面倒見ている感じなのだが。
仕方なく、その場から“聖女の癒し”を子犬っぽい生き物に掛けた。
聖女スキルの便利なところは遠距離でも飛ばすことが出来るとこか。
寝転がりながらでも適当に使えるからなんだかんだお気に入りかもしれない。
ながらサポート的な。
「また余計な事考えてそうだけど、ありがとな、セージ」
「あ…」
ハルトが俺に礼をいい、生き物を観察していたマモルが何かに気付いたようで声を漏らす。
マモルの視線を追えば、子犬がすくっと立ちあがり、俺の足元に寄ってきて、尻尾を振りながら「きゅーん、くぅーん」とよじ登ろうとか抱っこしてもらおうとかするような感じで縋ってくる。
「おぉぉ?懐いてる、のか?どれ」
と、ハルトが手を出そうとしたら
「ヴゥゥゥゥゥ」
とめっちゃ威嚇した。
「おぉぉう、マジか…デジャブか…」
ハルト達の表情で、俺がこの生き物の面倒をみることになるのかと確信し、諦めの境地で俺は生き物を抱え上げた。
一応鑑定してみたが、子犬はやっぱりフェンリルという魔物だった。
シュラマルから聞いた話では、この世界では厳密には魔物という分類ではなく、聖獣という枠に入るそうだ。
知能が高く、人を滅多に襲うことはない。
襲うにしても何らかの理由があってのこと。
なかにはしゃべれる個体もいるようだ。
とりあえず俺は俺の腕の中でキュンキュン言いながら指を舐めている子犬に餌を与えて大人しくさせることにした。
子犬用の餌と子犬用ミルクを与えれば、勢いよく食べる子犬。
食べ終わったらすぐ俺の膝の上で寝た。
「…ドッグフードでいいんだな」
とても残念そうにハルトは言った。
ドッグフードはドッグフードでもきちんと子犬用の栄養価の高い物ですよ?
ついでに子犬用のおやつでも買っておくかな。
なんだか子犬の割には歯もしっかりしてるし、おやつは少しかたいヤツにしてみようか。
「フェンリルって犬ではないはずなんだけどね。食性が近いのかな?でも聖獣だよね?普通の生物と考えていいのかな?」
もう犬でいいよ。
なんでもいいっすわ。
ん?もしかして首輪とかリードも必要なのか?ケージとかペットシーツも。
ブラシや爪切りとかおもちゃやクッションなんかも…。
ハッ!
なんだ俺、飼う気満々になってる…?!
一応この子犬はハルトの従魔として登録しているらしく、この状況をみて俺に登録し直そうという事になった。
「え、今から?」
「うん。こういうのは早い方がいいと思う。冒険者ギルドも商業ギルドもまだやってるみたいだからいいんじゃない?」
ってことで、登録の変更をするために、冒険者ギルドはちょっと怖いので商業ギルドへ行き、そこで「え?フェンリルを従魔に、ですか?」と若干引き気味に対応されつつ無事…というかどうかはわからないが、この子犬は俺の従魔となった。
ちなみに名前はハルトが最初に既につけていた「ジョン」ではなく、「梵天」にした。
耳掻き棒のあの白いふわふわみたいに、ふわふわ白くて丸っこいので。
あと、ぜったいジョンよりいいと思うので。
梵天てなんか強そうだし。
などなど。
色々連想してみた結果そんな名付けになった。
町の暗がりの中、ぞろぞろと移動し、宿に着いたら、宿の人が待っていた。
「お食事の準備が整っております。ゾーロ様方は既に席へとご案内しております」
そのまま案内されるまま、食堂の個室に入った。
先ほど商業ギルドで登録を行っている時、起きた梵天も、今は俺の腕の中でうとうとし始めている。
それを膝の上に乗せ、改めて室内を見ると、まず目に入ったのは、物凄く緊張した様子のゾーロさん達。
《煌めきの刃》なんかは冷や汗までかいている。
どうしたんだ?
「すみません、お待たせしてしまったようで。…どうかされたんですか?」
マモルが代表して聞いてくれた。
さすがです、賢者様。
「あぁ、はぁ、いえ…その、我々はこういう格式ばった食事というのは初めてでして…その…」
ゾーロさんの言葉を聞いてテーブルに目を向けると、なるほど、と思えた。
フルコース料理の前触れのような仕様だ。
皿にナプキンが置かれ、その左右にはカトラリーが並べられている。
「…我々の他には誰か招かれているのでしょうか?」
色々察したマモルが、室内に居る従業員にたずねると、「ここにいらっしゃる方々でお揃いです」と返ってきたので、
「なら大丈夫ですね。ゾーロさん、カガクさん達も、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。練習だと思って気楽に食べましょう」
そうして大体のテーブルマナーを教える。
マモルとハルトが教えているところで飲み物が運ばれてきた。
ゾーロさんがここに来た時聞かれていて、あらかじめ注文していたらしい。
皆が一口飲んだくらいで、料理が運ばれてきた。
ゆるい口調のマモルに混じり、ハルトの大雑把な説明もあってか、だんだん緊張が和らいできてるゾーロさん達。
マーニ達も同じテーブルに着かされているため、必死にマナーを覚えようと緊張しながら食べている。
ちなみにゾーロさんたちは違うが、俺達の格好は、マーニ達の事もあるので、皆ローブを着てフードをしっかり被って食べるという暴挙に出ている。
逆に堂々としていることで何も言われないでいる。
俺に至っては動物膝に乗せてるし。
ハーちゃんだけは普通にお嬢様な格好なのでそれで許してほしい。
そしてそのハーちゃんは、コース料理も難なく食べている。
好き嫌いはあるみたいで、それでもどの料理も一口は食べている。
こんな幼女でもしっかりお嬢様してる。
俺もなんだかんだ無難に食べ進められている。
母さんがこういった料理好きだったからってのもあるけど、うちの学校、こういうのに力入れてたから。
母さんの言う通りあの学校入って良かった。
卒業は出来なそうだけど…。
なんてしんみり考えているうちに食事は終わった。
最後の紅茶が運ばれてくる。
「まぁ、セージは無難に食べられる事はわかってたけど、ハーちゃんすげぇな」
同じ学校ですものね。
ハーちゃんのことはハルトも感心している。
「セージだからね。でも初心者には結構意地悪なメニューだったね。でもここでは普通なのかな?ハーちゃんも難なく食べてたし」
「豆料理、貝料理、頭つき魚料理、骨付き肉、葉物サラダ…授業でも要注意になってた料理のオンパレードだったな」
そう言えばそうだったな。
てかこんなマナーみたいなの作ったの絶対転移者だよな?
なにやってんだよ。
こんな面倒なの持ち込みやがって!
こんなのやるんだったら馬車のサスペンションやタイヤだろ!
って、これ前もなんか思った気がする。
あと調味料とか料理の味付けとかさ!
「だねー。でもこれがクリアできればあとは大丈夫じゃない?」
「あはは、確かに。ゾーロさんも《煌めきの刃》の皆も箔がつくんじゃない?」
「な、なるほど。そう考えればそうですね。ここで実践的にひとつひとつ丁寧に教えてもらいながら練習できたのは僥倖でした」
ふー、と息を吐いてやっと気を抜いたゾーロさん達。
でもアレだな。
量的には微妙だよな。
貴族ってもしかしたら小食なのか?
この中でハーちゃんの次に小食な俺でさえちょっと物足りないんだけど。
そんな感じの微妙な夕食を終えて部屋に戻った俺達は、部屋に帰ってカップ麺をすすった。
ゾーロさん達にもサンドイッチの差し入れをしておいた。




