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021 旅路10 商売繁盛?

 


 早朝、宿の外に出ると、騎士達が待っていた。

 昨日とは違って冒険者のような格好をしている。


 そして俺達の格好に微妙に驚いている。

 ゾーロさん達も。


 軽く朝の挨拶をし、隊商の集合場所まで行く。


 冒険者風騎士達登場のおかげで俺達の格好はさほど目立つこともなかった。


 というかあまり変わってはいないはずだ。


 色こそ変われど基本全員ローブのままなので。




 いつも通り朝日とともに隊商は出発。


 一部ピシっとした騎士二人が並走するが気にしない。


 荷馬車の中は走りながら色々変えた。

 まずは中の半分を占めていたゾーロさんの商品を、全てハルトが【アイテムボックス】に収納。


 もちろん目録はしっかり作って。


 そして荷物の無くなった荷車内を、快適に過ごせる空間に仕立て上げる。


 カーペットを敷いて、いくつかソファーを置いた。


 マーニは完全にハーちゃんの面倒を見る専門の人になってもらった。


 そのかわりハルトがマーニの代わりに周囲の警戒という名目で荷車の上に行く。


 荷物を全て仕舞いこんだ分、車内は広くなっているのだが、気を使ったようだ。


 柔らかなソファーの出現にゾーロさんは大喜び。

 ついでに大事な荷物もハルトの劣化せず、なにかと安全な【アイテムボックス】に入ったことにも喜んでいる。




「ところでセージ様」


 カーペットやソファー、ビーズクッションに、息子のミケロくんとキャッキャしていたゾーロさんだったが、急に何かを思い出したかのようにハッとし、それから佇まいをなおして俺に声を掛けた。


「はい」


 今度はどれだ?


 このソファーか?

 それともこのビーズクッションか?

 それとも両方か!?


「セージ様から仕入れさせていただいた商品ですが、昨日、全て売れてしまいまして。それで急遽また仕入れることは出来ませんでしょうか、というお話でして」


 キリッとした顔で、いつもとは違い、端的に語るゾーロ氏。

 いつもと同じなのは勢いと圧だ。


「そうですか」


 ゾーロさんの勢いと表情に及び腰の俺は、そうとしか答えられない。


 ビビりつつ、マーニに視線を向けると、マーニは心得たと言わんばかりに頷き、


「失礼します、ゾーロ様。少々お時間をいただけないでしょうか。シロネを呼んできます」


「あぁ、そうでしたな! まずシロネ殿に対応を求めるのが筋でございました……。直にセージ様に対応して頂くなど失礼にもほどがありました。なにとぞご容赦を……!」


 え……そこまで!?

 俺ってゾーロさんの中でどんな立ち位置なの!?


「あ、あの……普通に接してください」


「そんな恐れ多い! しかしながら私のようなものにその様に心砕いてくださり、感謝の極みにございます!」


 どこでどうなって恐れ多いの!?


 分からず、マモルに目を向けると、角度的に俺にだけわかるようにニヤリと悪い笑みを浮かべていた。


 ゾーロさんに何か言ったのか?

 これも何かの作戦か?


 そう訝しんでいると、シロネが荷車の上からマーニと共に中に入ってきた。


「お待たせいたしました」


「さっそくで悪いけど、ゾーロさんから話を聞いて下さい。追加で商品が欲しいそうです」


 俺もシロネにつられて余所いきにしゃべってしまった。

 既にゾーロさんにはハルト達に対する砕けた口調はバレているはずなんだけどね。


 なんでだろうね。


「承知しました。……ではゾーロ様、早速お話を」


 そして始まるゾーロさんとシロネの商人会話。

 それをじっと聞いているマモルとミケロくん。


 新しい服と可愛いリュックにご機嫌で俺の隣に座っているハーちゃんと、それを優しく見守るマーニ。


 俺?

 話を振られまいとただただじっとしていますよ?


 ゾーロさんがあの町で売ったのはハチミツだった。

 高額であってもあっという間に売れてしまったらしい。


 不純物の無いハチミツはとても珍しいらしく、夕方のあの時間でも、露店を開けばすぐ売れた。


 商業ギルドの方からも欲しいと言われ、取っておいた大きい方を全部卸すことになってしまったとか。


 とりあえずハチミツだけでもまた数を売ってくれないかとのこと。


 “とりあえず”というのが引っ掛かったが、話を受け入れることにした。


 この話し合いでシロネがメモしていたのは


 ―――――

 ハチミツ(小)銀貨1枚・・・・500

 ハチミツ(中)銀貨5枚・・・・300

 ハチミツ(大)銀貨10枚・・・200

 ―――――


 だった。


 前よりかなりの数になるんですけど。


 ちょっとゾーロさんが心配になった。


「それではよろしくお願いいたします」


「はい。本日の宿場に着き次第取引ということで」


 そんなやり取りを見つめながら、俺は【異世界ショップ】でハチミツを買いまくり、【アイテムボックス】にストックしておく。


 ハチミツの話が終わってからは、昨日の夕食の調味料の話になり、それも出来れば購入したいと、ゾーロさんはシロネに言っていた。


「それとなのですがね、出来ればその、本日、ハー様が身に付けている、シルクやレースのリボンなども在庫などございましたら取引させていただけないかと…」


 ゾーロさんは見てないようで見ていたらしい。




 昼休憩になると、ゾーロさんを始め、何やら商人達と護衛達が話し合いを始め、しばらくすると、ゾーロさんが戻ってきて教えてくれた。


「今日も何やら順調に進んでいるらしく、予定では本日野営のはずでしたが、このまま次の町に行った方がいいとなりました。閉門ギリギリの到着にはなりそうですが、もし閉門となってもこういった場所よりも町の門の前での野営の方がはるかに安全でしょうという事です」


 そういうことらしい。

 今日はちょっと長めの行程のようだ。


 騎士達も頷いているので、特に問題はなさそう。


 本日の騎士さん達はだいぶ若い。

 と言っても年上なんだろうけど。

 二十歳くらい?


 素朴な感じ。必要以上にこちらに接してこない。

 ハーちゃんにもはじめの挨拶以外はとくに話しかける様子もない。


 楽な人達で良かった。





 それから1つの町、3つの村を経由し、サイネラ王国王都に着いた。


「飽きた」


「もうしんどい」


 旅をはじめて二週間が経過していた。


 案の定でた言葉。

 ハルトの「飽きた」、マモルの「もうしんどい」。


 ハルトは単調すぎる旅に飽きてしまっていた。


 ゴブリン以降、魔物や盗賊の類は一切現れていない。

 野鳥やイノシシはいたらしいが、本職の方がサクッと狩って馬竜の餌にしていた。


 マモルはひとりの時間がなくて精神的に参ってきている。

 いつも常に誰かいる状態。

 寝るときだって万が一のことを考えると自分だけひとり部屋がいいとは言えないようだった。


 もし言えば俺が不満を訴えるからだろう。

 ハーちゃんがずっと俺にくっついているため、俺が一番ひとりにはなりづらい状況で、マモルだけひとりになりたいとは言えないもんな。


 昼を過ぎたあたりから、王都に入るために並んでいる人々の列に並ぶ隊商。


 この町は王都なのに、出入りする門が一か所しかないのでかなりの行列をなしている。

 貴族門は隣に併設されているが、貴族家の紋章も無しにそちらからは入れない。


 まぁ、この並んでいる時間のこともあって、「飽きた」「しんどい」なんて言っているのかもしれない。


 じりじりと進む行列が、半分くらいになった時に、ゾーロさん達は後ろの馬車に移った。


 荷検めがあるので整理するらしい。


 なのでこの荷車内は俺達だけとなっている。


「王都に着いたら冒険者登録して暴れてきたら?」


「……え? ……いいの?」


 雑にハルトにそう言ったら、物凄く純真な眼差しで「いいの?」って言われた。


「この王都では明日一日休み取るみたいだし、いいんじゃない?」


 マモルに視線を移せば頷いている。

 それをハルトも見て


「マジか! やた!」


 とたいそう喜び、それからぶつぶつと楽しそうに自分なりの今日から明日にかけての予定を立て始めたハルト。


 そして今度はこのほぼ死んだ目のマモルか…。


「たしかマモルの魔法に時間の加速や減速が出来る、俺の【ワンルーム】の上位互換の魔法があったよな?」


「うん。【ミニチュアガーデン】だね」


「あ、そういう名前なんだ……。現実では数時間や一日の経過でもそれ使って中を加速世界にすれば、その中で何日かひとりで過ごせるんじゃないか?」


「っ……!! ……セージ。そういうトコだからね?」


 なにが!?


 マモルは「その手があったか!」みたいな顔して照れくさそうにそう言った。


 賢者は色々考え過ぎて自分の事は考えられなかったようだ。




 大人しく行列に並ぶこと3時間。

 俺達の番になり、荷検めされる前に追従していた騎士二人が事情を説明。


 その後、一応馬車の中を検められたが、荷車内を見た門番の騎士が驚く。


 荷馬車の外観と全く違う内装に一瞬ビビったようだ。

 アレからまたさらにモノも増えたし、壁面を布で覆ったりしてよりすごしやすい空間に整えた結果が広がっている。


 その中に優雅にソファーに座って寛ぎ、飲み物を飲んでいるローブのフードを目深にかぶっている俺達。


 マモルが「こういう演出は大事だよ」とか言うので、堂々と、内心びくびくしながらお茶していた。


 そのおかげか、特になにを言われるわけでもなく、「失礼いたしました」と言う言葉ともに、検めは終わった。


 ゾーロさんの方も、ハーちゃんを送る商人だと伝えたら、特に詳しく荷車内を検められることなくあっさり門をくぐることが出来た。


 そして案内された、サイネラ王国王都、貴族街にある宿屋。


 まだハッキリと貴族とわかったわけではないのに貴族街に入ることが出来てしまっているけどいいのか?


 と思ったら、この国には北大陸帝国の大使館あるのだそうで、そこに駐在している貴族がこの宿を取ったとか。


 その貴族から何らかのコンタクトがあるかと構えたが、接触はなかった。


 これにはマモルも不思議がっていたが、「ま、いっか」で終わらせていた。

 自分の時間が取れる方法を見つけてから、マモルはちょっと機嫌が良くなっている。




 宿に着いて、部屋を確認してから皆バラバラに行動を始める。


 ハルトはゾーロさんと《煌めきの刃》と共に、商業ギルドへ行ってゾーロさんに頼まれていた荷物をおろしてから、《煌めきの刃》のゴートさんに付き添ってもらって冒険者ギルドに行くといっていた。


 マモルは少し買い物に出かけた後、【ミニチュアガーデン】にしばらく籠るらしい。

 時間を決めて出てくるらしいので、それまでは連絡がつかないと言っていた。


 マーニ、シュラマル、シロネは俺の行動に合わせるらしい。


 俺が部屋から出ないと言うと、「ではその様に」という返事が返ってきた。


 考えてみたら、あの国から離れているにしてもまだこの大陸で獣人ひとりが行動するのは難易度が高そうだ。

 他の大陸へ行った時にでも自由に出歩くんだろう。


 サイネラ王国王都の貴族街にある高級宿屋の部屋。

 マモルの推測では下級貴族用ではないかとのことだった。


 それでも室内はバストイレ付でリビングと寝室に分かれていて、護衛や側仕え用の部屋まで完備されていた。


 マンパワー方式の風呂とトイレ(壺)なんだけど…。



 俺一人、することもないので部屋を見てまわってから、リビングにあるソファーに座り、スマホでゲームを始める。


 ハーちゃんもよってきてじっと画面を見ている。


 シロネ達は…と部屋を見回すと、3人集まってスマホの勉強をしている。


 先日ついに彼、彼女らにスマホを渡した。

 初日は電話を受ける、電話をかけるくらいしか出来なかったが、使い方の本を渡したので、暇を見つけては勉強している。


 今は文字の打ち方を勉強しているっぽい。


 途中、マモルが買い物から帰ってきて寝室に入り、【ミニチュアガーデン】入りした以外は何のこともなく。


 そんな感じでまったり過ごす俺たちだったが、せわしなく部屋の扉をノックする音で、まったりした空気がキュっと引き締まる。


 シロネが対応すると、ゾーロさんと《煌めきの刃》のエイルさんがシロネに伴われて部屋に入ってきた。


「っ、こ、これはこれは…お休みのところ大変失礼いたしました」


 俺の姿に一瞬息をのんで、今までで一番恐縮そうに声をかけてきた。

 エイルさんに至っては口をあんぐり開けている。


 そんな風になるほど俺の格好は不思議だろうか?


 白のスクシャツに細身の黒のズボンにスリッパ。


 ローブとブーツは部屋で寛ぐにあたり早々に脱いでしまい、部屋用にスリッパを履いている。


 スリッパか?

 とも思ったが、この部屋に来てからゾーロさんとエイルさんはずっと俺の顔から眼をそらしていない。


 ……あ。

 もしかして、いままでローブのフードを目深に被っている姿でしかゾーロさんと顔を合わせてなかったからかも。


 そう思うとなんだか急に今まで以上に緊張して来たな。


 ハルトやマモルと違って普通顔だから驚いたのかも。


 あれ、ちょっとへこむんですけど?


「いえ、えーと、こんな恰好ですみません。こうして顔を見せるのは初めてでしたでしょうか。改めまして清司です」


 とか急に自己紹介してしまった。


 ゾーロさん達もなんでかわからないけど、テンパっているようで、改めて同じように自己紹介してきた。


 なんだかおかしな空気になってしまった。


 変な無言の空間になり、それでも帰ろうとしないゾーロさん。

 なので意を決し、こちらから声を掛けてみた。


「あの、どのような用件で?」


 ふふん。

 なかなかに大人っぽい言い方ではないか?


 さながらドラマとかで見る大会社の受付嬢みたいな。


 とっさに出てしまった言葉だが、空気を変えるにはいい感じの滑り出しではなかろうか。


「あぁ!そうでした!その…そうです!それが、セージ様から仕入れさせていただいた商品全て売れてしまいまして。それで急遽また仕入れることは出来ませんでしょうか、というお話でして」


 要件を思い出したようで、興奮しつつも懇願の表情で言う。


「そ、そうですか。ではまたシロネに詳細をお願いします」


 ゾーロさんの勢いと表情に、またしても及び腰の俺は、そう答えるばかりだ。


「そうでした!あぁ、またこのような事をしてしまい、大変申し訳ございません。今までにない大きな取引だったもので、つい興奮していしまいいして。それに、そう、こう言っては何ですが初めてセージ様の御尊顔を拝見いたしました衝撃もありますれば、自分でも感情も考えもまとまらず、つい勢いに任せて失礼な態度をとってしまいました。どうか、なにとぞご容赦を…!」


 うん。

 だからゾーロさん、なぜそこまで恐縮してるんですか。

 前よりひどくなってない?


 御尊顔とか言っちゃってるけど、ゾーロさんの中では俺はいったいどんな立場なの?!


 てか衝撃ってやっぱり、思っていた以上に普通顔で驚いたってことなんだろうか?


 怖くて聞けない。


 ……よし、流そう。


「あ、あの…前にも言いましたが、どうか普通に接してください」


「あぁ、そんな…!いえ、セージ様の御慈悲、ありがたく受け止めさせていただきます」


 なにを言っても謎人物設定によってまともに受け取ってもらえてないっぽい。

 御慈悲とか言われたし。


 ゾーロさんの後ろでエイルさんが若干顔色を青くしながら跪いてるし。


 ねぇ、どうしてさ?!

 誰か説明してくれよ?!


「………シロネ」


 困った時のシロネさーん!

 お願い!無力な俺をどうかたすけて!


「はい。…それではゾーロ様、あちらでお話を」


 そう言って、ススッと前に出たシロネが、さっきまで自分等がスマホを勉強していたテーブルへ、ゾーロさん達を案内した。


 かわりにマーニとシュラマルがこちらに来てソファー横に立っていた。


 いつの間にかシロネもマーニ、シュラマルもローブのフードをしっかり被っていた。


 ……俺もそうすればよかったのかも。


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