019 旅路8 サイネラ王国と【異世界ショップ】レベル
「あとセージ、僕たちに何か隠してることない?」
急に話が変わった。
賢者の視線も変わった。
何故バレた?
シロネを見ると、そっと視線をそらされた。
でもとはあそこか。
まぁ秘密にしていたわけでもないし、口止めもしてないから別に良いんだけど。
でも素直にしゃべるのもアレだよね。
「……あるわけないよ?」
首をかしげながらそんな事を言ってみる。
「可愛く言ってるみたいだけど可愛くないよ?」
……イケメンから真顔でそんなこと言われると地味に傷付くんですけど。
こんなことなら素直に言っとけばよかった…。
「あ、うん」
「で?」
「……いや、なんか、ね。ここまでの移動中、あまりにも手持無沙汰だったもんで、シロネから売上金貰ってレベル上げしてた」
「おい」
ハルトからの素早いツッコミ。
「で?どうなった?」
マモルからの冷静な情報開示請求。
ええ。
きちんと答えましょう。
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【異世界ショップ】Lv.16
衣料量販店解放
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【異世界ショップ】Lv.17
ホームセンター解放
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【異世界ショップ】Lv.18
ドラッグストア解放
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【異世界ショップ】Lv.19
専門店解放
テイクアウトサービス解放
ラッピングサービス解放
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【異世界ショップ】Lv.20
百貨店解放
コンシェルジュサービス解放
アイテムチャージ=換金解放
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「なるほどねー。ショップレベル20まで。すごいね。ここまで来るとサービス系も使えるようになるんだねー。随分頑張ったみたいだけど…………お金は?」
「うん。シロネに金貨数枚貰って、後はアイテムチャージがイイ仕事してくれた。休憩の度にその辺に石とか岩とか土とか草とか木の棒とかを【アイテムボックス】に入れて“アイテムチャージ”しまくったら金貨600枚分くらいになって。それで余裕で買いまくれた」
とくに岩がイイ仕事してくれた。
当たり外れはあるが、あたりだと金貨40枚くらい。
きのこの類も地味に良かった。最低銀貨1枚からだったし。
毒のあり無しとかシュラマルやシロネにも聞いてみたけど、あまり詳しくないって話だったし、よっぽどの知識者じゃなかったらキノコには手を出さないと言うのがこの世界の常識らしいから、街道沿いにワサワサ生えてたし。
「「………」」
ハルトとマーニがドン引きしている。
シュラマルとシロネは俺が【アイテムボックス】任せにその辺で色々掬い集めていたのを知っているので、苦笑いと多少引いている程度に留めてくれている。
マモルはちょっと驚く程度ですぐに
「残金は?」
「金貨40枚と少し」
「おい、まてまて、じゃぁ金貨500枚以上この2日で使いきったのか?! 前回も2日でアレだったけど、今回も2日でコレなのか!?」
お金にうるさいハルトが正気に戻ったと思ったら急に半ギレ状態に。
アグレッシブ勇者め。
「えぇ、まぁ」
とりあえずちょっと照れ気味に応えてみる。
「なんだそのキャラ!?」
お気に召さなかったようで。
「そっかー。アイテムチャージ、かなり便利だね。レベル上げて換金まで行けばチート性能の錬金術になるわけか。これは早めに元手作って僕達もレベル上げした方がいいかもねー」
「そうか? セージがいればよくね? 必要なものがあれば俺達がセージから買えばいいんだし」
「確かにそうなんだけどねー。でもセージがいない時に必要な物が出来たらどうするの?」
「あー、まぁ、そっか」
「ゴブリンと戦っている最中に別な魔物が出てきて、武器を吹っ飛ばされた人を見てさ、その時は弱い魔物ばっかりだったからたいしたことなかったんだけど、戦いの途中武器を失うことがあるんだなって考えると怖いよね。あと混戦になってくると方角がわからなくなったのが怖かったかも。短時間だったし、近くにマーニがいたから見つけてもらえたけど、マーニともはぐれていたらと思うとねー」
苦笑しながらそんな事を言うが、あの短時間でそんな事があったのかと愕然とする。
確かに専門店にはミリタリーショップもあるので、防衛する道具くらいは買えるかもしれない。
ホムセンのDIYコーナーには鉈や手斧、スポーツ用品店には鈍器として使えそうな金属バットやゴルフクラブだってある。
それらがこの世界の魔物にどの程度通じるかは分からないが、ないよりマシだろう。
「でもほら、今の内に少しでもショップレベル上げとけば、迷子になっても生きていけそうじゃない? それにセージのスキルで魔力50パーセント回復スキルがあるから、集中してレベル上げ出来そうだし。お金は減るけど、そこはゾーロさんという商人がいるんだから、うまく商売してもらおうよ。僕達は卸しに専念できるでしょ? それとももう少し様子見をしてこの国の影響の少ない国で冒険者登録して荒稼ぎとか?」
聖女のスキルでMPを半回復させる【聖女の慈恵】というのがある。
まだ低レベルな俺達にとってはかなり使い勝手のいいスキルではないだろうか。
俺もこのスキルのおかげでMPを気にせずレベル上げに専念する事が出来た。
あとはゾーロさんが夕食のお誘いに来たので、部屋にまた戻ってきた後に話そうということに。
ここでも酒だけを頼んで、食事は自分達で用意して食べた。
店の人には嫌そうな顔をされたけど、ゾーロさん含め皆気にしていない。
気になってしまったのは俺だけのようだった。
そして翌日。
「おはようございます。本日はよろしくお願いします」
あの兵士の二人組だ。
一昨日より昨日、昨日より今日、二人は丁寧に俺達と接している。
昨日俺は兵士さん達と接してはいないけど。
兵士2人が連れてきた騎乗用の馬竜にめちゃくちゃ心を引かれているハルトは昨日の約束を守ってか、既に忘れているのかは分からないが、兵士と仲良く会話したり、馬竜に乗せてもらったりしして程良く俺らと兵士たちに距離が出来るようにしてくれている。
その甲斐あってか、勇者は昼になる前には完璧に馬竜を乗りこなしていた。
興味なさそうにしていたマモルもちゃっかり馬竜の乗り方を覚え、楽しげに風を感じている。
二人とも異世界を満喫していた。
国境を越える直前と直後は盗賊が出やすいと教えてもらったが、今回遭遇する事はなかった。
商隊の人達も不思議がっていたが、たまにはこんなこともあるだろうと流してくれていた。
兵士二人もその辺りは緊張しながらしっかりとハーちゃんを護衛するように、俺達が任された幌馬車の両脇を馬竜に乗って挟むように並走していたが、何事もない事にホッとしつつ、不思議がっていた。
予定通りと言えば予定通りなのだが、想定されていた襲撃もなかったため、あっさりとサイネラ王国入りし、昼休憩からしばらくして、午後の休憩前には本日泊まる予定の町に着いた。
町に着くとハーちゃんはめちゃくちゃ身構え、俺から離されないようにしっかりと俺のローブの裾を抱え込むように握り締めて離れない。
町門に待機していた騎士に兵士2人が事情を説明したため、ハーちゃんは俺と離れないまま、町に入ることが出来てホッとしていた。
俺は確認と説明が終わるまでハーちゃんとずっと馬車の中で待機。
説明などは付き添いの兵士はもちろん、本当にハルト達が全部してくれたし、ゾーロさんもその説明に混ざってくれたのでありがたい。
商隊は町に入ったと同時に一時解散し、説明など時間が掛っていた俺達だけが兵士と騎士の引き継ぎもあり、しばし町門前に拘束されていた感じだ。
話が終わり、ここまでつきそってきた兵士二人は別れを、新たに護衛を任された騎士二人が挨拶にやってきて、あとはまた宿に案内される。
今度は騎士か。
昨日とは明らかに違う高級宿にゾーロさんの目がランランと輝く。
ゾーロさんの馬車に乗ってここまで移動してきているので、ゾーロさん達も当然帝国まで俺達と一緒の宿にお世話になる。
勇者と賢者がいるんだから貴族の挨拶とか貴族の家に招待されるというイベントが発生するのかもと身構えていたら、特にそんな事はなかった。
やっぱりハーちゃんがまだハーモニアお嬢様と決まったわけではないからという理由があるからだろう。
騎士を派遣したという最低限の事実があればそれでいいみたいだ。
「僕としたことが……」
騎士に連れられた高級宿の部屋。
騎士と顔合わせが済み、高級で安全な宿に案内し終わった騎士はまた明日の朝、商隊が出発する時間に来ると言って帰っていった。
案内された部屋に着くなり、マモルが愕然とした表情でそんな事を言った。
そして瞬間的に俺とハルトの周囲に防音の魔法をかけ、今更且つ盲点だった事を話す。
「スキルの鑑定を使えばよかったんだ……」
「おい、今さらかよ!」
速やかに察したハルトがすかさずツッコミを入れた。
きっと勇者の反射神経のなせる技なのだろう。
「勝手に他人を鑑定するってのは、モラルに反するとか個人情報がどうとか、人には使えないとかなのかと思って使わないんだと思ってた」
「ううん。ド忘れ」
「でもお互いに鑑定とかしてない時点でプライバシー的な何かだと思って俺も言われないから使わなかった」
「いや、言ってよ! ほんと忘れてたー」
「でもプライバシーは大事だよな。オレだけ鑑定持ってないから勝手に見られるのはちょっと嫌かも」
「だよな。俺も見られたら嫌だ。マジで」
笑いものにされそうで。
「うん、まぁ、たしかにそー……なのかな?」
「そういう事にしとこーぜ。ほら、オレたち結構忙しかったし、そこまで頭回らなかったじゃん?」
「……そーだよね。うんうんそうだそうだ」
心なしか悲しそうに自分に言い聞かせるようにそう呟くマモルがちょっと残念に見えてしまった。
俺もハルトもここに来て考える系のことはほとんどマモルに任せてきてしまったので、別段責めることはしない。
逆に今まで押しつけてしまって申し訳なく思う。
特に何もなくとも報告連絡相談は大事だな、と改めて思った。
で、早速ハーちゃんを鑑定した結果、ハーちゃんはやはりハーモニアお嬢様だと判明した。
たぶん。
ハーモニアって名前でお嬢様ってのは合っていた。
―――――
侯爵家令嬢 ハーモニア・ハーヴィス・フェンディロット Lv.2
HP 42
MP 33
スキル 水魔法
―――――
スキルに水魔法があったためにあの状況でも生き残れていたのかもしれない。
それにしてもこんな幼女が既に水魔法を習得できているのはすごいな。
さすが貴族ってやつなんだろうか。
あと地味に俺よりレベルが高い。
「まぁ、ねえ。やっぱりねー、てやつだよねぇ」
最近までのしっかりした感じのマモルがあの頃に逆戻りである。
ふわっとしすぎ。
「うん。じゃぁハーちゃんもお嬢様だってわかったことだし、あの国出れたし、これで少しは安心出来るか? ……それとも他国だからこそ危険になるのかなー? でもま、買い物ぐらいは解禁してみよっかな!」
マモルはあの国では宿代以外、お金を使ってはいなかった。
ハルトは謎の好奇心が暴走して屋台で何か買って自爆してたけど。
俺は謎テンションで茶葉とか買ってたなぁ。
たった数日前なのに懐かしく思ってしまう。
現在、ゾーロさんは宿の部屋を一通り見た後、ハルトからいくらかの荷物を出してもらってから、さっさと商売に出かけた為、ミケロくんとジックさん共々いない。
《煌めきの刃》もそれに付いていったようだ。
時間はまだ夕方。
ゾーロさん達はまだ戻らないだろう。
マモルとハルトは夕暮れまでには戻ると言って出かけて行った。
ということで、俺はベッドに寝転がってゲームを始めた。
この宿は高級と謳っているだけあって、【異世界ショップ】で買ったいつも使っている寝具ほどではないものの、充分弾力があったので、今回はそのまま使う。
俺がゲームをしていると、ハーちゃんもベッドにのぼってきて俺がしているゲームを眺めている。
興味津々なようだ。
シロネとマーニとシュラマルは、そんな俺達を眺めつつ部屋にあった高級宿の室内を見てまわっている。クッションの座り心地を確かめたり高級な家具を眺めたり触ったり開けてみたりして高級宿を満喫しているようだ。
もうほとんど日が落ちているだろうという時間になって、ハルト達はやっと帰ってきた。
「いやー、冒険者ギルドでテンプレあってさー」
「午後であまり品数は少なかったけど、市に面白い物売ってたよー」
二人とも楽しげに話す。
ハルトのいうテンプレ、その場に俺いなくてよかったと心から思う。
てかそんなトコなにしに行ったんだよ!?
マモルの市って市場だよな?
なんで市場に行った事をそんなマッドな笑顔で語るんだろう。
いったい何が売っていたのだろうと不安をかきたてられる、そんな笑顔だ。
そして二人が最終的に語ったのは、
「服買おうぜ!」
「服買おうよ!」
だった。




