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017 旅路6 俺と幼女

 


 昨日は久々にシャワーを浴びてシャンプーして体洗ってさっぱり出来た。おかげで髪にキューティクルが戻ってきた。


 シャワーブースはみんななんだかんだ気に入って、使った後はさっぱりして戻ってきていた。とくに《煌めきの刃》の女子二人は大はしゃぎだった。


 シャンプーもコンディショナーもボディーソープも、一応俺なりに環境に配慮して微香性のものにしていたが、それでも喜んでくれたみたいだった。


 俺は幼女への気疲れもあって21時には寝てしまっていた。




 そして早朝。


 じっとりとした湿り気が背中から腰に掛けてを襲う。


「ん?…って…、えぇぇぇぇ」


 綿毛布をめくってみれば、いつの間もぐりこんだのか、幼女が俺のベッドにいて、しかもお漏らししている。


 俺の腕にしがみついたまま、まだ寝ている。


 俺は早朝からまた全力の【クリーン】を掛けた。


 イメージ次第で調整できる、ありがたい【クリーン】様。


 湿り気までしっかり取り除いてくれました。


 ベッドや寝具、幼女や自分にも掛けたので、昨日の夜戻ってきたはずのキューティクルがまたどこかへ行ってしまった。




 丁度いい時間だったので起きることに。


 この国の朝晩は肌寒い。

 せっかく魔道具化されたシステムキッチンを買ったのに使わないのもアレなので、温かいスープを作ることにした。


 まずは【異世界ショップ】で業務用超特大の多機能魔力圧力鍋を購入。

 サラッと中の釜を洗ってセットする。


 後はいつか使うだろうと買ってあった食材を出す。

 タマネギジャガイモニンジンキャベツウインナー。


 タマネギは皮を剥いて上と下の部分を切るだけ。ジャガイモもピーラーで皮を剥くだけ。ニンジンも皮を剥いて縦半分。キャベツは四等分にして芯を取る。


 その下処理をとりあえずたくさんする。


 途中、マーニが起きて、気付いて手伝ってくれた。


 下処理が終わったらあとは業務用超特大多機能魔力圧力鍋に全部入れ、水をひたひたになるくらいまで入れ、顆粒コンソメをサラサラ適当にひと袋全部入れ、サラッとかき混ぜ蓋をして、スイッチを入れる。


 すると30分ほどで出来上がるので、大きめウインナーを数袋どさっと投入して余熱で数分温めればテキトーポトフが出来上がる。


「おはよー、良い匂い。できたの?」


 マモルが起きてきた。

 見ればシロネも起きてしっかり支度を整え、立ってこちらを見ていた。


 気付かなかった。


「おはよ。うん。出来た。もう食うか?」


「みんなと食べるよ」


 そのあとすぐハルトも起きて、ハルトが着替えている間にゾーロさん達もやって来た。


 シュラマルは朝も見張りをするらしいので朝食も後でひとりで食べることになる。


 一応人数分以上は作ってあるが、シュラマルの分はよけておいた方がいいよな。


 てことで、配膳はシロネとマーニに任せ、俺は幼女を起こす。


 名前を知らないので声をかけづらい。

 かといってとんとん肩を叩いて起こすのも幼児相手に微妙だし。


 とか考えている間に幼女がもぞもぞ起き出した。


 手探りで俺を探し、居ない事に気づき、ガバリと起きあがって半泣きで周囲を見渡し、すぐ近くに俺が居たことに安心したのか、大泣きすることは不発に終わった。


 しかしぐすんぐすんした半泣きはしたままだ。


 半泣きしたまま俺に抱きついてくる幼女をまた抱っこして昨日のようにカウチに座らせた。


 するとすぐに俺の分と幼女の分のポトフがマーニによって運ばれてくる。

 幼女の分は幼女サイズに小さく切られ、量もかなり少なく盛られている。


 パンも添えられているが、これはハルトかマモルが【異世界ショップ】で買って付けてくれたんだろう。


 食事を見ると、幼女の腹がきゅるりと鳴った。

 きちんと腹が減っているようで何よりだ。



 今朝はきちんと自分で自分の前に出された食事を食べている幼女。


 俺も食べ始め、ちょっと味が薄いかなと顔をしかめてしまう。

 それでも野菜にはしっかり味がしみ込んでいるので、ま、いいかと思うことにする。

 減塩だと思えばいい。


「わ、おいしいですね。野菜も全部くたくたになってて、でもひとつひとつ大きいので食べごたえもあります。優しい味がしみ込んでいて、口の中がずっとおいしいです」


 うん。

 マーニはなに食べてもおいしいと言うとてもいい子だ。

 あとでなにかお菓子をあげようと思う。



 早く朝食を食べ終えたハルトが、シュラマルと交代で見張りをし、シュラマルが朝食を始める。


 その様子を見ながらおかわりする人はどんどんし、多めに作ったテキトーポトフは完食となった。

 おかしいな。

 30人前くらいは作ったんだけどな…。


 でも良かった。

 薄味については誰からも文句言われなくて。



 後は洗いものをして、室内をさっと片付ければ終わり。

 テントは組み立てたまま、家具を置いたまま【アイテムボックス】に入れてしまえば出立の準備完了である。


「ほーーー、相変わらず【アイテムボックス】持ちはすごいですなー。実に羨ましい限りです。それにしてもハルトさんもそうですが、セージ様も随分大きな容量の【アイテムボックス】ですなー」


 昨日の夜、ゾーロさんに商品を買い取ってもらった際に俺のアイテムボックスの容量に気付いたゾーロさん。


 そして俺が出した商品をまたハルトにお金を払ってハルトの【アイテムボックス】に保管してもらい、改めてハルトの【アイテムボックス】の大きさに感心していた。


 それをまた今朝になって感心しているご様子のゾーロさん。

 その顔にはなにか算段があるように見える。


 逆カモされないうちにさっさと撤退しとこう。




 荷馬車に乗り込み、いつもの角の端っこを陣取…れない。

 幼女が居る。

 幼女でワンクッション置いた隅っこに留まる。


 みんなも乗り込み、商隊が動きだしたのか、乗っている馬車も動き出す。


 すると幼女、馬車の振動を不快に思ったのか俺の膝の上に乗って落ち着き始めた。


「ふふふ、すっかりなつかれてしまいましたねぇ。まぁその子の気持ちも分からなくもないですから。私も何故かセージ様の傍にいると落ち着きますし、何故かこう…森に包まれたような、実家に居るような、母に抱かれているよな、そんな気分になるのです」


 はい、それスキル効果ですね。

【高潔なる聖女】ってやつ。

 パッシブのやつなんでどうにもならんのですよ。


 それにしても母に抱かれているようなとは…。

 何故か複雑な心境になってしまう。


 それを思えはこの幼女の懐きようにもこのスキルのせいなのかもしれないな。



 ゾーロさんから話しかけられたのはそれだけで、あとはまたマモル達が聞き役に徹してくれた。


 幼女の座る場所は変更してもらった。

 またビーズクッションソファーを出してそこに座ってもらう。


 改めてその感触に触れ、気に入ったようで、今は大人しく座っている幼女。


 午前の休憩時、また幼女のお腹が鳴っていたので、おやつを出す。


 幼児用乳酸菌飲料とビスケット。


 ストローがよく分からなかったみたいだが、俺達も幼女と同じおやつにしていたので、俺達の様子を見てすぐに覚えて飲んでいた。


 このころから幼女はマーニに慣れたのか、マーニに触られても泣かなくなっていた。

 ただし、まだ俺が離れるのはダメらしかった。





 そして何事もなくその日のキャンプも終え、翌夕方。


 本日滞在予定の村に着いた。

 早速ハルト達とともに村長に話に行ったのだが、幼女はこの村の子ではないことがわかる。


 そしてこの村では幼女を受け入れることが出来ないとも言われた。


 小規模な村で、村人たちも自分達の子供以外、他の子の面倒をみる事は出来ない。

 孤児院のような所もないので無理だと言われた。


 この辺の村で孤児が出来てしまっても近くの町にある孤児院に引き取ってもらうらしいので、次に着く町で預けたらどうかと言われた。


 てことは明日泊まる予定の村でもきっと同じような事を言われるんだろうな。


 ハルトをチラリとみれば、あっちもこちらを見て、それから申し訳なさそうな顔をした。


 村の事情はわかったし、そういうことなら仕方ないと受け入れる。


 …といっても俺がしているのは幼女に付いて歩かれる程度だが。

 今ではほとんどマーニが世話をしている。




 村に一軒しかない宿屋。

 商隊に参加している全員は泊まれない。


 しかし商隊の人達は慣れているのか、ほとんどが村の広場で野営する。


 井戸や囲いがあるだけでも村の中に居るので、安全に野営出来る。

 商隊の人達も慣れているのか誰も文句を言わない。


 むしろ宿代がかかるので宿に泊まる人はあまりいない。


 ということで俺達はすんなりと宿を取ることが出来た。

 部屋は四人部屋と二人部屋を案内された。


 諸々を検討した結果、マモルとシュラマルが2人部屋を使うことに。


 マーニが幼女の世話をすることが出来ると言っても基本幼女は俺から離れない。俺のローブのどこかしらを握っている。


 離そうとすると泣くので仕方なく初日からずっと俺と一緒に寝る羽目になっている。


 しかしながら多少の進展もあるにはある。

 今日になって幼女は、マーニ以外とも意思の疎通が出来るようになった。


 といってもうんとかすんとか系のやつだけど。


 そして俺を盾にしながらだけど。


 こんな無力な男子高校生を捕まえてなんて恐ろしい幼女なんだと戦慄したのはつい数時間前の事だ。



 宿に泊まるのは俺達の他はゾーロさん達だけだ。

 それでも宿的にはほぼ満室となっている。


 夕食は宿の食堂の席を借りる。

 食堂の方は結構繁盛している。


 村人も数人いて、あとは商隊の商人はその護衛の人達でにぎわっていた。


「すみません。パンも肉も品切れで…、スープも残り数人分でこのテーブル全員分は出せそうにないのですが」


 と宿のおかみさんが申し訳なさそうに言う。


「いえいえ。急に商隊で押しかけてしまったのです。仕方ない事でしょう。でしたらお酒などはまだ大丈夫でしょうか?」


 メンバーを代表してゾーロさんが受け答えをしてくれた。


「はい。ございます。エールとワインがございますが」


「でしたら…ハルトさん達は如何します?」


「オレとマモル、セージは酒を飲みません。マーニ達はどうする?」


「あ、はい、いただきます!」


 マーニの返事にシュラマルとシロネも頷く。

 飲むようだ。


 もちろん幼女には酒は飲ませないのでノーカウントで。


「ではワインを9人分お願いします」


 俺達の話を聞いて、ゾーロさんがまとめて注文してくれた。


 そして間もなくテーブルに届けられた木製ジョッキ入りのワイン。


 大ジョッキくらいはありそうだ。


「これで一杯銅貨2枚というのだから驚きですよね。この国はとにかく酒の品質が高いのに安い。こうして旅の途中でも遠慮なく飲めるのが嬉しいです。これで食事さえうまければいいんですけどねぇ」


 店員さんが去った後、ゾーロさんはそんな事を言っていた。


 で、大人たちがワインを飲むということは、少なくとも酒に合う食事を出した方がいいだろう。


 ということで今日の夕食はパスタにした。

 大容量のパーティーサイズのパックに入っていて取り分けて食べるヤツ。


 それを3種類。ミートソース、カルボナーラ、ペペロンチーノ。

 無難な味を揃えてみた。

 副菜でカプレーゼ風サラダと焼き極太ソーセージを出せば十分だよね?

 食器類も俺が用意した。


 今日は宿に泊まるので見張りは無い。

 みんなで食事だ。


 夜番もない。

 村の人が毎日交代でしているから。

 万が一の時だけ手伝えばそれでいいらしい。


 なので気兼ねなくみんな酒を飲んでるみたいだった。

 シュラマル達もマモルに遠慮なく飲んでいいからと言われている。


 ホントは俺達に夜の見張りとかは必要ない。

 俺の【堅牢なる聖女の聖域】があるので大丈夫なのだが、商隊に対する体面上ってやつ。…ってのをマモルが言っていた。


 俺もハルトもその辺あまり考えていなかった。


「今日も変わった食事ですが、これもまた美味ですなぁ!はぁ、私はなんと幸せなのでしょう。きっとハルト様が幸せを運んできてくれたのでしょう。私はあなたと出会えた事を心から感謝しています―――――」


 アルコールが入っていつも以上に上機嫌で饒舌、そしてうっとりした瞳でハルトと俺を見つめる40代のぽっちゃり系マッチョダンディー。


 俺はなんだか見ちゃいけないようなものを見た気がして、視線を変えた。


 変えた先は幼女。


 カルボナーラソースのパスタを黙々と食べている。

 ミートソースとペペロンチーノは最初にちょっと味見したようだが食指が動かず、今はひたすらカルボナーラを食べている。


 口の周りをソースでべたべたにしているが、おいしそうに食べている。

 サラダとソーセージも一口食べただけだったので、彼女の今晩の飲み物は幼児用野菜ジュースにし、俺達は無難にアイスティーにした。


 シュラマル達はマモルに言われても遠慮したのか、ジョッキでワインを2杯飲んだだけで酒はやめ、あとは水を飲んでいた。


 というか、俺達とそんな歳のかわらなそうなマーニもそれくらい飲んでいる事に驚いた。


 本日はアルコールがある分さらに話の長くなったゾーロさんだったが、幼女がうとうとしてきたところでようやく夕食は解散。


 ゾーロさんと長い付き合いだという《煌めきの刃》も苦笑いしていた。


 ゾーロさんは荷馬車の空きスペースにはうるさいが、金払いはイイらしい。こういった食事代も払ってくれるんだとか。


 それを思えば彼らもゾーロさんの長話に付き合うくらいは吝かではないのか?




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