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016 旅路5 異世界キャンプ!

 


 本日野営予定の、街道沿いの森を一部開いた場所。

 予定通りの時間に着いた。


 予定しといて予定通り辿りつくのはあまりないそうで、いつもは辺りが薄暗くなったころにつくらしい、とゾーロさんは陽気に話していた。


 結構な広場になっている野営地は、大人数の商隊全てが丸っと収まってもまだ余裕があるほどの広さだった。


「うし、テントだな!野営セットに入ってたよな?」


 気合いを入れたハルト。

 マーニに預けたマジックバッグに入っている野営セットを引っ張り出し、マーニに教えてもらいながらテントを組み立てていた。


 そして出来上がったテント。


「…………ショボ」


 人ひとり、這って入って寝るのがやっとの三角テント。


「セージ…」


 ハルトに涙目で視線を向けられる。


「さっきのテンションどこ行ったよ」


「テント作ってる途中どっかに置き忘れたわ」


「探して拾ってこい」


「はいはい、じゃれてないで、現実見よ?コレじゃまともにキャンプ出来そうにはないけど。テントだけじゃなくてこの道具類全部ショボい感じだけど…」


「結構品質は良いと思うのですが…」


 ハルトがテントを張る際に散らかした備品を見て呆れているマモルに、マーニが元冒険者の視点で野営セットに対するフォローをしている。


「こっちの品質はまだ分からないけど、これホントに一人用だよね。この人数で使うには微妙だよね。せめてあれくらいは欲しいかな」


 そうマモルが視線を向けるのはゾーロさん達が張っている野営用の天幕だ。牛革みたいなので出来た大きなテント。4人くらい余裕で入る大きなテントが2つ。

 ゾーロさん達用と《煌めきの刃》用のテントかな。


 テキパキと作り上げていっている。


「あんな渋い感じのじゃないけど、大型テントなら買った。全員で作ればなんとかなるんじゃないか?」


【異世界ショップ】Lv.14の外資系スーパーマーケットが解放された時買ったやつだ。

 ついでに内装に使えそうなのも買ったな。

 そのひとつが昼間幼女を寝せるのに使ったビーズクッションソファーなんだけど。


 まずはテントを出す。


「買えるもので一番大きなテントを買ったんだ」


「……なんか、金使いの事とかいろいろ言ってごめんな、セージ」


 ハルトが殊勝な事を言ってきた。

 さっきから何なんだろう。ゾッとするんですけど。


 大型のコットンテント。

 暖炉とタープがセットになってるやつで、オプションで地べたに敷くマットとカーペットがあったのでそれも購入。

 全部で金貨1枚くらいだったかな?


 その他、グランピングに使える人数分のベッドや寝具、ベッドとして使えなくもないカウチソファー、テーブルや椅子、あった方がいいと思って魔道具化されてあるシステムキッチン、キッチン道具、食器、冷蔵庫、使うかわからないけどバーベキュー道具一式なんかも買ってみた。


 内装や家具、道具でも金貨2枚は使った。

 それだけじゃないけど、このおかげもあって【異世界ショップ】レベルが15になるのは早かったと思う。




 俺が出したテントの説明書をもとに、組立ての指揮を執るのがマモル、作業するのはハルト、マーニ、シュラマル、シロネ。


 力仕事は俺には向かないので免除。


 その甲斐あって初めて作る巨大テントでも小一時間ほどで完成。


 そこから始まる俺のインテリアコーディネート。


 といっても思った場所に【アイテムボックス】からそっと出すだけなので何の苦労もない。


 マモルのセンスやシュラマルやマーニの護衛の観点から、微妙に配置を変えて完了。


 出来上がったテント内を見て、薄々気付いていただろう仲間達が絶句。


 しかしすぐに好意的なコメントをくれたので良しとする。


「なんか、キャンプ感無いな」


「セージ、こうゆうとこだからね?」


「お貴族様の野営より豪華ッスね」


「わ、シロネ、コレすごいです!水が出ます!どこからも漏れてないのに流れていきますよ?」


「天幕内に暖炉とは…」


 ……好意的なコメントはシロネだけだった。


「あ、あと外用に簡易トイレと脱衣所付きのシャワーブース買ったんだ。使い方―――」


 と言いかけたところで


「う゛あ゛ぁぁーーーーん」


 という幼女の泣き声が。


「…起きたみたいだねー。セージ」


 そんなマモルの言葉と皆の視線が俺に。


「……行ってくるよ。はぁ」


「ん。トイレやシャワーの使い方は皆に教えとくからー」


 マモルに手を振られ、テントを出る。

 テント近くに止めてあった荷馬車へ行くと、中で幼女が泣いている。


 俺を見つけた幼女は立ち上がり、俺の首に抱きついた。

 俺がそのまま幼女を抱きあげると、ピタリと泣きやんだ。


 なんなんだ?


 と思いながらも幼女を抱っこしたままテントに戻るとゾーロさん達が居た。


 そしてソファーに座ってくつろいでいる。


「あぁ、これはこれはセージ様。ご苦労様でございます」


 俺はいったいいつからゾーロさんにそんなに気遣われる人間になってしまったのか。


 そうだな。

 ハルトに幼女を丸投げされた時くらいからかな。


 いや、もっと前か。

 何故かはわからないが。


「ゾーロさんがな、オレらのテント見てみたいって言うからさ」


「我々もそれに便乗して申し訳ない」


 そうです。《煌めきの刃》の方達もいました。


「い、いえ。どうぞ。夕食のこともありますから」


「あ、夕食といえばよ、肉以外で頼む」


「ん?いいけど…」


「あー、わかる。なんかゴブリン見てから今日はちょっと肉遠慮したい気分だよねー」


 あぁ、そゆことか。


「そう言えばハルト達は初めて魔物と戦ったと言っていたか。…とても初めてとは言えない戦闘ではあったが」


「うんうん。ハルトのぎゅぎゅんって身のこなしも凄いし、一閃の威力もすごかった、マモルの魔法の火力なんてあり得ないくらいヤバかったもんねー」


 ゴブリン集落の殲滅に同行した《煌めきの刃》のサブリーダー・ゴートさんと狩人のエイルさんが話に乗ってその時の事を話してくれる。


「ってことで、今日は肉食えねーかなーって感じなんだわ」


 明日はたぶん大丈夫だからさ!と申し訳なさそうに言うハルトだが、ゴートさんとエイルさんに褒められて照れている感じもうかがえる。


「わかった。じゃぁ魚介系ってことで」


 今日の所は何のツッコミも無しに流してやろうと思う。

 レベルアップのお祝ってことで。


「あ、ゾーロさん方や《煌めきの刃》の皆さんも肉無しでいいですか?」


 気のきく賢者が俺の代わりに聞いてくれた。

 ありがとう。


「はい、もちろんですとも。こんな大陸のど真ん中で魚介が食べられるなど、なんて贅沢なんでしょう!嬉しい限りでございます」


 ということで、今夜のメニューは豪華海鮮天丼と赤だしとカニ茶碗蒸しにした。


 結構大きなテーブルセットを買ったつもりだったのだが、ゾーロさん達と一緒となるとどうしても席が足りない。


 ということで、不本意ながら幼女の世話をすることになってしまっている俺と、弟や妹が居て、よく世話をしていたと言っていたマーニがカウチソファーの所にあるローテーブルで食事をすることになった。


 呼び名がないと声をかけづらいということで、マーニが声を掛けるがずっと俺にしがみついて俺のローブで顔を隠している幼女。


 マーニや周囲の人が声を掛ければかけるほど、泣きそうになっていく幼女。


 ぐすんぐすんが始まったところで、とりあえずそっとしておくことにし、食事を始めた。


 赤だしをゆっくりと味わい、豪華な具材がてんこ盛りの海鮮天丼を味わう。


 うむ。

 うまい。


 冷めないうちにカニ茶碗蒸しでもと思ったところで、幼女が俺の手元をジぃっと見つめているのに気づいた。


 茶碗蒸しをスプーンですくって幼女の口元へ運ぶと、なんの迷いも無しにパクリと食べた。


 ちゅるんと喉を通る茶碗蒸しにびっくりしている。

 俺が茶碗蒸しとスプーンを渡すと、それを受け取り、自分で食べ始めた。


 良し。

 これで一安心かな?


 マーニもホッとした様子でこちらを眺め、それからやっと自分の分を食べ始め、おいしそうに平らげていく。


 あちらのテーブル席に居るゾーロさん達もおいしいおいしいと食べていた。



 その後、ゾーロさん達はテント内をいちいち驚きながら内見し、外のタープの下に出してある簡易トイレやシャワーブースに驚き、大興奮。


 その間に俺はシロネのメモを見ながらゾーロさんが買いつけたいという商品の数を揃えて出していく。


 結構な数だ。

 これをゾーロさんが確認して、お金をもらう。


 そのあとゾーロさんがハルトに頼んでハルトの【アイテムボックス】に入れてもらうんだそうだ。


 なんか二度手間な気がしなくもないが、そういうのはきっちり仕分けておきたいらしい。


 商品とお金の受け渡しが済んでもなかなか帰ろうとしないでめっちゃしゃべるゾーロさん。


 テントやテント内の備品、外のトイレやシャワーブースに大興奮しっぱなしだ。


 そんな大興奮の父を引き摺るように息子のミケロくんはジックさんとともにテントに帰ってくれた。


 で、残るは《煌めきの刃》のお方がた。


「せ、セージ様。お願いがあります!」


 急に声を掛けられてびくっとしてしまう俺。


 たしか魔法魔術師とかいう変わった職業のチェザさんという女性。


「はい」


「あの、わたしっ、わたし達にもあの……お、おトイレとお湯の出る…しゃわー?を使わせていただけないでしょうか?!」


「どうぞ」


「ふえ?……あ、いいのですか?」


「はい」


「あっ、ありがとうございます!」


 あとはキャッキャしながらシャワーの順番を決めてやっと自分達のテントへ戻っていった。


 さて、そのシャワーの順番。


「セージはその子が寝てからかな?」


 というマモルの無体な発言により最後になった。




 幼女は無言で茶碗蒸しを二杯食べた。

 天丼と赤だしは拒否されてしまった。


 茶碗蒸しだけではアレだと思い、幼児用の野菜ジュースをプラコップに注ぎ入れて渡すと、ゴクゴク飲んでいた。


 次に幼女、もよおしたらしく、もぞもぞし始める。


「あの…セージ様。この子もしかして用を足したいのでは」


 うん。

 俺も歳の離れた妹が居て、その面倒を見ていたからなんとなくわかる。


「じゃぁマーニ…」


「や!やーあ!」


 何かを察したらしい幼女は俺から離れまいと必死に俺のローブにしがみつく。


「…仕方ないか」


 俺が幼女をトイレに連れて行くしかないか。

 そう思って幼女を抱っこして移動し始めたとたん、ショワァァァ…という微かな音。

 それに続く湿り気からの生温かいびしょ濡れ感。


「うえぇぇ、うえぇぇぇぇん」


 幼女お漏らし。

 からの大号泣。


 俺は全力で【クリーン】を掛けた。

 自分と幼女、それからテント内。


 そして急いで外に出て、簡易トイレとシャワーブースの隙間に入り、【異世界ショップ】のチャージ金額ギリギリで買える「おまるトイレ」を買って出し、幼女をそれに座らせれば案の定、大の方。


 子供あるあるだ。


 幼女の様子はマーニに任せ、俺は幼女にローブを握らせたまま背を向け見ないようにしている。


 やむを得ない事情とはいえ、事案になりかねない現状である。


 半べそを掻きながらもきちんと用を足すことが出来た幼女に、また【クリーン】を掛けてテントに戻る。


「うぐっ、ぐすっ」


 ボロボロの格好だった幼女だが、【クリーン】のおかげでちゃんとした幼女に見えるようになった。


 服も汚れすぎてて分からなかったが、どことなく品質は良さそうな?


 しかし【クリーン】を掛けてもひっかけて切れてしまったり穴があいてしまっているところはどうにもならない。袖も片方無くなっているみたいだし。


 改めて見る幼女は、靴も靴下も履いていない。

 マーニが確認したところ、下着も穿いていなかったという。


 幼女をなだめるように抱っこしたままでいると、急に重たくなった。


 見れば寝てしまっているようだった。


 幼女をカウチに寝せ、俺はシロネに声を掛ける。


「金が欲しい」


 と。


 シロネはマモルを見て、マモルが頷いたところで、マジックバッグから金貨一枚出してくれた。


 それを受け取って早速全額【異世界ショップ】にチャージ。

 子供用の服やら下着類やらを買っていく。


 買ったものを出して、マーニに預け、幼女が寝ている間に着せてもらった。


 後をマーニに任せてマモル達が座るテーブルへと行き、俺も椅子に座った。


「おつかれさん」


「おつかれー」


「お疲れ様っした」


「うん。疲れた。…あれ?シュラマルは?」


「野営地に着いたのに全員で食事するわけにいかないでしょ?見張りを買って出てくれたから、甘えることにしたんだ。軽食にパンとお茶持って行かせたから大丈夫。あと一時間くらいしたら戻ってくるからその時改めてシュラマルだけ夕食かな。その時交代でシロネと僕が夜中まで見張りをして、次にハルトとマーニが3時まで、3時から朝までシュラマルが見張りだよ」


 ちなみにシュラマルの夕食はハルトの【アイテムボックス】に入れてあり、温かさをキープしてあるんだとか。


「あ、うん。ありがとうございます」


 俺だけ免除されているやつ。

 申し訳ないです。

 グッスリさせていただきます。


「セージ、なんかほんとゴメンな。全部任せきりで」


「いいよ。その分他で頑張ってくれてるし」


「あ、いや。よく考えたら俺、何もしてないことに気付いてさ。セージは常時皆に結界掛けっ放しにしてくれてるし、俺達の為になるようスキルのレベル上げしてくれたってのに、金遣いに文句言うだけでその恩恵にあずかりっぱなしだし、あげく自分であの子の面倒見るって言ったクセに、泣かれてどうにもならないからって、セージに任せきりにしてさ。ほんと、ゴメン。俺にできることなら何でもするから!」


 いや、お前すごくよく働いてくれてるけど?!

 人付き合いとか、人付き合いとか人付き合いとか夜の見張りとか!


「き、気にするな。けど、その時は頼む。頼りにしてる」


「僕のことも頼ってね」


 なんだ、どうした二人とも。

 やけに優しく接してくるじゃないか?

 罠か?


「え、あ、うん」


「それにあと2日でしょ?次の村に着いたらあの子預ければいいって話だし」


 そう。

 旅の途中迷い子を見つけたら、大抵は近隣の村や町に引き渡す。

 そこで役人が親を探すなり、その土地の孤児として育てたりするという話だった。


 なので俺もちょっとは頑張れる。

 あと2日の辛抱なのだ。


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