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015 旅路4 勇者と賢者、幼女連れの帰還

 


 荷車の外、すこし離れたところでシロネとゾーロさんがホクホクしている。


 交渉成立のようだ。

 目録を作って後で商品と金銭の受け渡しをするらしい。


 俺は周辺で適当に石や草、木の棒なんかを【アイテムボックス】の収納を駆使して拾った後、さっさと荷馬車に入って休んでいる。

 なんか疲れたので。


 何もしてないのに。




 そろそろ休憩時間が終わるだろう時間。

 ハルト達が帰ってきた。


 めっちゃイイ仕事した顔で。


 ハルト達と森の中に入った護衛の人達もそれぞれの依頼主の所へ戻り、報告している模様。


 その為に休憩は少し延長し、その分昼の休憩を削るそうだ。

 と言っても10分程度だけど。


「おかえり」


 と俺は荷馬車から出て出迎える。


「「ただいまー」」


 元気よく答える二人と、一拍遅れて「ただいまです」と遠慮がちにマーニが返事をする。


「どうだった?」


「お? 早速聞いちゃう?」


 ……めんどくせぇな。


 俺の「なにこいつめんどくせぇ」という視線をハルトに向けているのに気付いてなのか、そうでないのか、ハルトじゃなくマモルが答える。


「ゴブリンの集落があってね、テンプレに張り切ったハルトが突っ込んで大半を倒しまくり。そんなハルトに驚いて逃げ出したゴブリンを他の護衛者の人達が掃除に奔走、ゴブリンキングがあばら家から出てきたところを僕が魔法でズドンして全部終わり」


「経緯はわかったが、酷い内容だな」


「ちょ、ちげーって! オレを残念な目で見るな! キングが出てきたのは予想外だったみたいだけど、普通ゴブリン程度では連携とかしないで、好きに切り込んで終わらせるって説明だったから、そうしただけだって!確実に殲滅させるって事だけを念押されて、それだけは注意したんだって!」


「たしかにあの説明は雑すぎだよね。たとえゴブリン相手でも連携は取るべきだと思う。けどそのおかげで人より多くゴブリン倒せたからハルトは結構レベル上げられたし、僕もキング一匹だけだけど、ハルトより多くレベル上がったから、レベル上げに関してはラッキーだったかなー?」


「そ、そうか」


 レベル上げに関してはっていう言い方がちょっと生々しい上に引っ掛かるんですけどなんですか、ツッコミ待ちですか?


「……魔物でも生き物を殺すってどうなんだろうって、ゴブリン見る直前まで思ったけど、あれを目の前にするとそんな事考えてる暇あったら倒さなきゃこっちが死ぬって思った。弱いと言われているゴブリンだけど、ガチでこっちを殺しにかかってくるからほんとに怖かった。その分罪悪感みたいなのはあまり覚えずに済んだかも」


 急にハルトが真面目になって言った。


 そうか。「魔法でズドン」もなかなかだとは思うけど、ハルトは実際剣を握って切り伏せてる分実感あるか。


 そう思ったらちょっとなんか心配になって来た。


 一応【聖女の守護】でどんな攻撃も受け付けないとなっているけど、万が一でもどっか怪我しててもアレだし、……アレだな。

 回復くらい掛けといた方がいいかな。


 そう思い、俺は【聖女の慈愛】と【聖女の癒し】のセットをハルトとマモルとマーニに掛けた。


 ……ん?


「マーニ?」


「ふえ? あ、はい!」


 初めて本人を目の前にして名前を呼んだかも。


 呼ばれた本人もまさか俺に名前を呼ばれるとは思ってなかったのか、油断していた感じだった。


「それ……」


 マーニが腕に抱えているものを指す。

 その腕の中にはぐったりした様子の幼女がいた。


「あの……はい……」


 と困った顔をしながらマーニはハルトを見た。


「人攫いロリコンめ……お前一体何を……」


「お、おい、変な事言うな! ゴブリンの食糧庫っぽいところに袋に入れられてたのを助けたんだよ」


 え。それいろいろ大丈夫なの?


 って顔を俺はきっとしてたんだと思う。

 ハルトはさらに焦ったように言い募る。


「ゴブリン殲滅し終わってすぐ帰るのかと思ったら、倒したゴブリンは穴掘って埋めなきゃなんないってんで、それをマモルが魔法でサクッと埋める穴作って……」


 その中にみんなで倒したゴブリン放り込んでからマモルが高火力の火魔法で燃やして灰にし、念には念を入れて水魔法と氷魔法でダメ押ししたのちに土魔法で穴を埋め戻した。


 予想外に一連の作業が早く終わったため、時間いっぱい使ってゴブリンのいなくなった掘立小屋の家探しをしようという事になった。


 キングがいたんだから何かしら溜め込んでるだろという理由もあって。


 動物や魔物の骨や人骨っぽい骨に混じって、武具防具や装飾品、金などもあり、それは討伐に向かった全員で分けることにしたとか。


 旅人とかも襲っていたのだろう、そういった荷物も多くあり、使えそうな物は持ち帰り、後は集落化していくつかある掘立小屋を壊し、ベテラン冒険者たちが、さぁ商隊に戻ろう、となった時。


 現場初心者で家探しにまだ慣れていないハルトが担当して見回っていた掘立小屋の食糧庫っぽいところで件の幼女をみつけた、という話だった。


「他に生きてる人はいなかった。この子だけ。……たぶん食料として置いておかれたか、袋の中に隠れていたかして…随分弱ってるっぽくてさ。でも生きてるからさ。ほっとけなくて。これから行く村か、そこでダメなようなら次の町でこの子のこと保護してもらうから、それまでオレ達で面倒見ようぜ、な?」


 何やら必死な様子。

 勇者だからほっとけないのだろうか?

 それとも発見者だから?


 酷い言い方かもしれないが、俺たちじゃなくてもこういった事に慣れてる他の護衛人に任せればいいと思うんだ。


 慣れない異世界、慣れない旅、慣れない状況の俺達に、慣れない子供の面倒を見れるんだろうか。


 まぁ、村に着けば保護してもらえるっぽいからいいのか?


 いや、まてまて。

 今日と明日は野営って聞いたけど?!


 大丈夫なの?!


 てかハルトのやつ、「オレが面倒みる」じゃなくて「オレ達で」って言ってたよな?


 聞き間違いではないはず。


 ジト目でハルトを見れば焦りまくって、吹けない口笛を吹いている。


 口笛は繊細なんだよ。そんなんじゃ吹けねェよ!




 ちなみに今回見つけたゴブリンの集落は全てぶっ壊したあと、マモルの風魔法で中央にざっくりまとめ、仕上げの高火力の火魔法でそこにあったもの全て、一瞬で燃やしつくしたという。


 そうしてからこっちに戻ってきたので、完璧な仕事だったとか。


 ゴブリン自体には小さな魔石以外は何のうま味もないが、傭兵ギルドや冒険者ギルドに所属しているものが遭遇した場合は必ず倒す、倒せなくてもすぐ知らせるというのはもはや義務と言っても良いらしい。


 商業ギルドに登録している人も、人が利用する場所の近くで魔物を目撃した際は報告が義務付けられている、とは後からゾーロさんに聞いた。


「ハルトが面倒をみて、マモルがそれでいいってんならいいんじゃないか?」


「わかった。あ、でもくれぐれも言っとくがオレはロリコンじゃねーかんな! たまたま生きて見つかったのが幼女だったってだけだかんな」


「お、おう」


 そこまで必死そうに言われると、逆にガチっぽくていたたまれないんですけど。


「ちっ、忘れんなよ。……この子にも回復掛けといてくれよ」


「もう掛けてあるぞ」


 マーニに回復掛けた時、いっしょに掛ったっぽい。


「……ありがと」


「お前のデレとかいらねぇよ!」


「貴重なオレのデレをいらねぇとかなんてこと言いやがる」


「はいはい、その茶番もういいから、こっちはどうだった?何事もなく?」


 これから俺とハルトが改めて友情を確かめ合い、そして笑い合うまでがセットなのに、そこまで見るのもめんどくさかったんだろうマモルは話をぶった切り、薄々予想していただろう俺達の様子をうかがってきた。


「あぁ、ゾーロさんに改めて他の商品の商売持ちかけられたな。ある意味身の危険を感じたのでシロネに任せた」


「なるほど。めんどくさくなって丸投げした、と。」


 おぉう。


「いやぁ……その、な」


「どこまで交渉したの?」


「さぁ?」


 ガチで丸投げしたので……。


 そういう意味を込めてシロネに視線を向けると、俺の代わりにシロネがマモル達に説明に回ってくれた。


「ぇぇぇぇ……」


 内容を聞いたマモルが何故かドン引きしている。


「おいおい、さすがにオレも引くけど」


「なんだよ。シロネに任せるのが正解だろ?」


 俺は開き直った。


 いや、そうじゃない。堂々としていればそれが正解になることを知っている。

 だからそうした。


 ……という感じを醸し出す。


「確かにっ! 確かにそうだけれども! 違うだろ?! ここはテンプレするところだろ?!」


 なぜハルトが力説する?


「セージ……これは商隊。周りは商人だらけ。ある意味テンプレイベントと言えるこの状況でソレなの?」


「出来ただろ?! 商人たちがいて、売れる商品があるんだから! 俺達は冒険者パートで、お前は商人パートで無双して成り上がる! テンプレだろ?!」


「いや俺高校生だから。その影響か分かんないけど、全然そういった事に食指が動かねぇってか、な」


 そもそも30分チョイでシロネを通して1件でも商売したんだからすごいと思うぞ?


「な、じゃなくて。ヘタレを前面に出したもっともらしい事言ってるけど、単に人見知り発動してただけでしょ。今日日高校生だって起業してたりするからね? ……はぁ。予想してたから良いんだけどさ。もっとテンプレしよーよ」


 マモル、お前までなんだそのテンション。

 討伐ハイか?


「お前らチート組と一緒にすんなよ。こっちは平穏無事に過ごせればそれで良いんだよ。無難がいちばんなの」


「はいはい」


 マモルはため息をつき、ハルトは可哀想な人を見る目で俺を見てる。


 お前らはバイトもした事がない、いち男子高校生に何を求めているんだよ。


 ほか、詳しくはシロネに聞いてくれと言って俺はさっさと馬車に乗り込んだ。


 なぜならゾーロさんがこちらに向かってきたので。


 俺は別にゾーロさんを避けているわけではない。


 そろそろ移動を再開する時間だろうと予測して早めに準備をしただけなのである。




 商隊は少しだけ興奮気味に進んでいく。

 聞こえてくるのは、ハルトとマモルの無双がすごかったという内容の声。


 話題の二人はちょっと照れ臭いのか、大人しくしている。


 なのでガッツリとゾーロさんの話し相手として機能しているので俺は安心して端っこで瞑想出来ている。


 そんな俺の瞑想と絶好調なゾーロさんの語りぶったぎり、妨げたのは幼く可愛らしくもけたたましい声だった。


「ん……れ? やぁあ! こっち、めー! ……うわぁぁぁぁぁん」


 幼女の泣き声が荷車の中に留まらず、周囲にまで響く。


 幼女が起きた。

 で、パニックを起こしている様子。


「わ、大丈夫だよ、泣かないで、お兄さんたち怖くないよ」


 ハルトが焦って声を掛けるも、幼女は構わずギャン泣きである。


「泣かないで」なんて逆効果にも程があるだろう。


『泣く』という単語に敏感なお年頃ってのもあるけど、泣いてる最中に周囲で騒ぎ立てれば立てるほど、パニックになってる子供はそこから逃げようとするものだ。


「え゛ーーーーんんんんん」


 なんだか泣き声のボリュームまで上がった気がする。

 アイツらなにしてんだよ。

 と、薄目を開けて様子をみると、すぐ目の前に件の幼女がいた。


 なんで俺のローブの裾握ってんの?!


 やめて、そんなことされたら俺が面倒みなきゃなくなっちゃう!


 無理だから!


 家族や慣れた友達以外、たとえ幼女であっても俺人見知りする自信あるんだから!


 俺が本気出せば犬や猫にでさえ人見知り発揮出来ちゃうんだからね?!


 あぁぁぁぁ、やーめーてー!

 抱きつかないでー!

 これどうしたらいいの?!

 なにが正解なの?!

 え、ちょっとまって、無理矢理! やめてっ!

 あっ、あーーーーーーっ!


 幼女は何を思ったのが、荷車の端っこにぴったり寄っている俺と荷車の壁面の間に入ろうとしている。

 これは、譲るべきなの?

 俺も端っこは心と体のよりどころなんですけど?!


 意外とグイグイ来る幼女によって荷車の隅っこを取られるのはあっという間だった。


 幼女は角を取りつつ俺にしがみついて離れない。

 俺という盾を使って騒ぎ立てる大人から隠れる感じ?


 どうしたものかと、ハルト達の方を見れば、衝撃を受けた表情や、複雑な表情、心配そうな顔などが俺や幼女を見ている。


 俺にアドバイスをしてくれそうにない。


 角を取ったことで幼女は少し安心してギャン泣きからぐすんぐすんになっているが、たまにハルトが声を掛けるとまた泣き声あげたりする。


 ……。はぁ。寝るか。




 結局ずっと俺にしがみついてぐすんぐすんしている幼女のおかげで眠ることが出来ないまま、昼休憩の時間となった。狸寝入りの時間は一旦おあずけである。


 みんなは馬車の外に出て行ったが、その途中で俺や幼女に声を掛ける者はいなかった。


 馬車に取り残される形となった俺と幼女は、気まずい。


 たぶん気まずく思っているのは俺だけっぽいけど。


 二人きりになって、これからどうしようと思っている間に、幼女は大人しくなった。


 この機に俺も外に出ようと立とうとしたら


「いっちゃやっ、やぁあ、うあぁぁぁぁぁぁん」


 と泣かれたので、また元の場所に腰を落ちつけるハメになった。


 俺の方が泣きたい。


 いや、ちょっともう涙出てるけど。


 それを抱きつかれてない方の手でぐいっと拭い、さらに溢れ出そうになる涙を、顔を上に向け我慢する。


 そうだ。幼女になんて負けてられるか。


 ここで幼女を説得し、交渉の場を設けてハルト達と和解してもらう。


 そして改めてハルトに面倒を見てもらうようにするのだ。


 助けたのはハルト達だ。

 助けられた本人が助けた人たちを怖がってちゃ助けた人たちがちょっと切ないだろうが。


 かといってなんて声を掛けていいかわからない。


 あれだけ泣いたんだから、たぶん喉渇いてるよな。

 と、【アイテムボックス】からプラコップと100パーセントのリンゴジュースを出し、コップにジュースを入れて幼女に差し出す。


 幼女は俺の顔をじっと見つめてから、コップに視線を向け、やがて両手で受け取り飲み始める。


 全部飲んで、まだ飲み足りなそうだったのでまたジュースを注ぎ足した。


 それもまた全部飲んだ幼女はコップを俺に返し、またじっと俺の顔を見ている。


 この間ずっとお互い無言だ。


 次は、食べ物か。

 何を出そう。


 と言ってもこちらの様子をチラチラ見ているゾーロさん達の手前、変わり種は出せそうにない。


 なので何の変哲もないコッペパンを装った、あんバターサンドを出して幼女に差し出した。


 もちろん無言で。


 幼女も無言で受け取り、またじっと俺を見てくる。


 その視線に耐えきれず、俺もあんバターサンドを出して食べ始めると、幼女も食べ始めた。


 幼女に声を掛けることも、目を合わせることも出来ない俺は、ただただあんバターサンドを見据えてもぐもぐするしかない。


 俺がもぐもぐしている姿をチラチラ見ながら幼女もあんバターサンドをもぐもぐしている。


 幼女以外の他の視線を感じそちらの方向を見てみれば、馬車の外ではみんなが微笑ましそうにこちらを見ていた。




 たくさん泣いて、力いっぱいしがみついて、周囲を警戒しまくって、それでもおなかが少し満たされて安心したのか、あんバターサンドを食べている途中で幼女は寝てしまった。

【アイテムボックス】から【異世界ショップ】で買ってあったビーズクッションソファーとブランケットを出し、幼女をそのソファーに寝かせ、ブランケットを掛けてから馬車を出た。


「おつかれさん」


 馬車から出てきた俺をハルトとマモルは苦笑いで迎えた。




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