014 旅路3 お茶の行方
夕方前に大きな農村に着いた。
街道に面しているだけあって町程ではないながらも数軒の宿があり、俺達もそこに泊まることが出来る。
早めに着いたので宿を取った後、村内を散策する事が出来た。
というか、散策するという建前を使ってゾーロさんから距離を取った。
朝からずっとロックオン状態で、今日は寝る暇もなかった。
シロネを伴い、マップ情報誌片手に村の雑貨屋を探す。
マップ情報誌によればこの村の隠れた名産として「ミーグ茶」なる物があるらしい。
おいしいらしいので買っておこうと思い立ったのだ。
決してゾーロさんから離れる理由を無理矢理探して買い物しに行こうなんていう適当な理由ではない。
店はすぐに見つかり、早速中に入り商品を探す。
「すみません。ミーグ茶というのを探しているんですが」
シロネが店番をしているおばあさんに聞いてくれた。
「あるよ。どのくらい欲しいんだい?」
「えーと、ちょっと待って下さいね。セージ様、どのくらい買いますか?」
情報誌には「時価」としか書かれていない。
それでも年間比較的リーズナブルで買うことが出来る、と書いてある。
お茶……家では母さんがよく飲んでいる。
小さな缶ひとつに少量入って数千円する、とか言っていた。
仮にもこれから商売しようとしている俺。
小さな缶ひとつ携えて商売なんて出来ないよな。
「金貨1枚分で」
「え?」
「金貨1枚分で」
全く同じセリフを繰り返した。
「ひえぇぇ、お客さん、本気かね? 冗談なら帰っておくれ。こんな婆でもバカにされれば傷付くってもんさ」
「シロネ」
俺がそう呼びかけると、シロネは諦めた顔をして、マジックバッグから金貨1枚取り出した。
「店のお方、これで買えるだけお願いします」
「バカお言い! そんなにあるわけないさね! ……うぅむ、本気とは……。そうさね、なんとかかき集めても銀貨30枚ってとこか。それでどうだい?」
そんなに希少なものなのだろうか?
そう思い、俺は頷く。
するとおばあさんは店の奥に引っ込んで、家の人にお茶の葉を集めるように指示を出した。
それから30分弱。
けっこう待たせるものなんだな、と思っていると、おばあさんに商品の用意が出来たから外に出るように言われ、不思議に思いながらも素直に外に出た。
おばあさんの後に続いて店の裏手に回ると
「えー……」
としか言えない光景が。
大きな敷布の上に大きな麻袋が数十個積み重なっていた。
「全部で43袋だ。一応中身も全部確認しておくれ。そのあとは宿にでも運ぶかい?」
「確認させていただきます。その後はこちらで運びますのでお気づかいなく」
そう言ってシロネが麻袋の中身の確認を始める。
俺も確認しようとしたら、じっとしているように言われる。
俺の出来ない子感が浮かび上がってくるんですけど。
シロネに任せること30分。
全て確認し終えたらしく、俺とおばあさんとその家族だか従業員の男性が居る所に戻ってくる。
「確認が取れました。品質にも問題は無いでしょう」
「当り前さ。くずもの以外全て村中からかき集めたんだ。これで今季はくず茶啜ってすごさにゃならん」
「でしたら少し置いていきましょう」
「……いんや。こんなただの茶でも金に換えられるなら換えたい。この茶だけは税で取られることもないからね、少しは村人の懐も潤うだろうさ」
込み入った事情を匂わされてしまった。
これはどうとらえればいいんだ?
「そうですか。では遠慮なく全て買わせてもらいます」
そう言って銀貨43枚、シロネはおばあさんに渡した。
1袋銀貨一枚だったようだ。
おばあさんに銀貨の枚数を確認してもらい、OKが出たので早速茶葉が入った40何個かの麻袋を【アイテムボックス】にしまう。
全部まとめて収納するイメージを作ったら一瞬で入ってしまった。
めっちゃ便利。
「おやあ! 【アイテムボックス】持ちかい。荷運びにどんな迷惑をかけられるかと思っていたが、なんとまぁ」
おばあさんも店の男性も驚いた顔をしている。
荷運びにどんな迷惑っていうのも気になるが、気にしないでおこう。
きっとさっき言っていたの税のなんたら含め、役人に何か嫌な目に遭わされたとかだろう。
この国のトップがアレなんだからあり得る。
後は特に欲しいものもなかったので雑貨屋を後にする。
適度に時間も潰せたし、あとは適当に石などを拾いながら宿に戻ることにした。
宿の部屋に戻ると、ゾーロさんが居た。
俺に気付くと急にキリッとした顔をして言った。
「あの日、ハルトさんには自分の食料は自分で用意して下さいと言った手前、心苦しいお願いとは存じます。ですが、ですがっ! なにとぞ、私共含め《煌めきの刃》共々セージ様の恩恵に与ることは叶いませんでしょうか」
……。
「あ、セージ。おかー。ゾーロさんたちも一緒に飯食いたいって。その分カネ払うからってよ」
あ、そういう……。
恩恵とか与るとか叶うとか何の事かさっぱりだったぜ。
いや、一瞬自分のスキルを思い出しましたけども。
すんません。
「それは……」
とチラリとマモルを見れば、
「口に合わない物があっても文句ないってさ」
と答えが返ってきた。
なら、いいのかな?
パン類、おにぎり系、弁当類、汁物系、麺類、惣菜など、どうせ旅で食べるだろうと、レベル上げにまとめて色々買ったし。
足りなくなってもシロネからお金もらえば何とかなるだろうし。
「それなら大丈夫です。わかりました」
「おおっ! では早速今晩からお願いできますか!?」
それに返事をすると、彼は喜んで俺達の部屋を後にした。
日没になったらまた来るらしい。
「おかーり。どこ見てきたの?」
「ただいま。雑貨屋で商品仕入れてきた」
「……シロネ、説明」
もはや俺よりシロネへの説明を求めるようになったマモル。
この分じゃハルトもそうなるのに時間はかからなそうだ。
「はいっス。この本に書かれたこの村の隠れたおすすめを見て雑貨屋に買い物にいったっス。そこで商品を仕入れて北の大陸で売れば商人みたいなこと出来るとふんだっス」
そう、このミーグ茶、この大陸では大した珍しいものでもなく、一般的に親しまれているお茶なのだが、富裕層は紅茶や酒ばかりを飲んで、平民が飲む茶など見向きもしない。
しかしこのミーグ茶、北の大陸では人気らしい。
帝国のカジノがある周辺では高価な物しか流通しないが、それ以外では比較的安く手に入る他大陸の銘茶として好まれている、と記事に書かれていた。
カジノを通り越して販路を広げた商人が売る物に困ってこれを売ったところ、売れたらしいが、小麦などのついでに仕入れるものなのでそこまでの流通はされていないようだ。
小麦や野菜の方が儲かるらしいしな。
ん? そうだよな。この記事読む限りでは、ここで安く穀物や野菜を買いあさってこれから行く北の大陸へ行けば商売になるんじゃ……。
いや、それはもう誰かがしているのか。
いやいや、それでも俺には【アイテムボックス】というアドバンテージが。
より新鮮な物を運べるから他を出しぬけるんじゃ……?
……ないな。これだけ隊商組んで商人が行き来してるんだ。鮮度を保ったまま運ぶくらいいくらでも方法があるだろう。
魔道具とか。
ヤバいな。
異世界で金を稼ぐって難しくないか!?
やっぱコツコツ石拾うしかないのか……。
「ああ、意外にまともな事してたんだ」
「マモル、セージがまともな事するか?」
「……それもそうだね。で、どうだったの?」
「ええっと、それからセージ様は目的のお茶……ミーグ茶という茶葉を買ったんっス。はじめは金貨一枚分と言ってたんスが、この村で用意出来るのは銀貨30枚分…それでも結構足元見られて多めに取られたとは思うんスけど。麦用麻袋で43袋ほど。一袋銀貨一枚として銀貨43枚支払ったっス」
それを聞いたマモルとハルトが俺をジト目で見る。
「販路もないのに豪儀だね」
「お前のマップ情報誌に対するその絶大な信頼はどこから来るんだ?」
それから程度を覚えるように注意を受けたところでゾーロさん達が部屋にやって来た。
助かったとも言えない状況に、俺は内心項垂れるばかりだった。
旅が始まり3日目。
隊商は順調に進んでいる。
今晩と明日は野営の予定になるとゾーロさんから教えられている。
少し遠回りすれば各村や町を巡って毎日宿に泊まることは出来るようだが、なるべく最短コースを取るこの隊商は野営もしていくようだ。
荷車の中で、そのスケジュールと夜番の担当と時間を決めていく。
その上で何故か俺は免除となる。
後からマモルから聞いた理由としては、俺は戦闘系スキルを一切持っていないから。
そしてずっと【堅牢なる聖女の聖域】という結界スキルを使っているから。
戦闘系スキル云々はともかく、【堅牢なる聖女の聖域】や仲間達各個に【聖女の守護】という別の結界スキルをずっと掛けっ放しで仕事をしているからいいよ、という認識らしい。
こちらはそのスキルに関しては全く苦にはなってないのでなんだか申し訳なく思う。
が、ずっと寝ていられるならお言葉に甘えて寝ておこうと思う。
午前の休憩のことだった。
両脇を森に囲まれている道の端で、朝からずっと座りっぱなしだった体をほぐしている俺達。
「マモル様、少しよろしいでしょうか」
珍しくシュラマルがマモルに話しかけている。
声量を抑え、周囲には聞こえないように。
マーニもシロネも何か知っているのか、こちらを見ている。
え? 俺?
「マーニは僕とハルトをそこへ案内して。シュラマルとシロネはここで荷車とセージを頼むよ」
「承知しました」
「セージ、僕達はちょっといってくる。なるべく休憩時間内には戻ってくるけど、時間内に戻ってこなくても後から追いかけるから隊商の指示に従って」
そう言うとすぐにマモルはハルトとマーニを連れてゾーロさんに何やら話し、それから《煌めきの刃》の人達ともしゃべったあとに他の商人の護衛の人達とも何やら話し始めてから森の方へ出かけた。
隊商もちょっとざわついている。
急いで何かを確認しに行ったのはわかるけど、もう少し俺にも説明してくれたって良いじゃないかと思わなくもない。
「休憩に入る前、隊商の前の方の人達がゴブリンの集団を見かけたみたいッス。ゴブリンは見つけたらなるべく速やかに駆除しないとあっという間にとんでもない数に繁殖するッスから。隊商に付いている護衛何人かで様子見に行くことになったみたいッス。ついでにそのままの人数で殲滅できそうならしてくるらしいっス」
やきもきしかけていたらシロネがそう教えてくれた。
「そうだったんだ。ありがとう」
「へへへ」
俺が礼を言うと、何故かシロネは照れ臭そうに笑った。
さて。
どうやら異世界に召喚された勇者や賢者系の人達が回収するイベントが発生したようだ。
隣を見ると、ゾーロさんは慣れっこなのか、こちらを見てニコニコしながら向かっくる。
……マモルがいない今、俺が相槌マシーンをしなければならないようだ。
「いやー、ハルトさんは行かれるだろうなと思っておりましたが、マモルさんも行ってしまいましたなあ。なぁに、心配する事はありませんよ。隊商の護衛に慣れた者が数人向かったんです。ハルトさん方も無事何事もなく戻ってくるでしょう。それにこちらに残った護衛も半分以上居るのですから、こちらも問題ありますまい」
「そうですか」
やべえ。これ以上どんな会話を続ければいいのか分からない。
いや、会話よりゴブリンて言った!?
そう言えばシロネ言ってたよね!?
ゴブリン? マジゴブリン?
おなじみのあのゴブリン?
シロネやゾーロさんの言葉から察するに、フレンドリータイプのゴブリンではなさそう。
え、マジ大丈夫なの?
ハルトとマモルは無事に帰ってこれるの?
レベル1の勇者と賢者だよ?
詰んでない?
あ、でもゾーロさんは慣れた護衛が居るから大丈夫って言ってたから大丈夫なのか?
信じてるよ、ゾーロさん!
「ところでセージ様」
ゾーロさんがいくぶん声のトーンを抑えて、改まった表情と声で、それでいて楽しげにこちらをうかがう。
本格的に俺をターゲットにした感じだ。
どうしよう。
「……はい」
「昨日の夕食時、ハルトさんが使っていたアレなんですがね」
あ、これカモ認定されてる?
何かを買わそうとしているんじゃなくて目ぼしいものを買おうとしてる?
うっそ、マジ俺交渉とか取引とか無理よ?
あ、だからカモなのか!? そうなのか!?
あとマモルが居ない今なら俺がポロっとしゃべるだろう的なアレだな、きっと。
アレってなんだ?
昨日何食べた?
皆同じ物食べたよな?
ハルトだけ何したっけ?
「ええ、なんでしょう」
何のことかは思いだせないが、出来る男っぽく返事をしてみる。
無駄なあがきとわかっていても、格好つけたいお年頃なんですよ。
「あの時食卓に並べられたたくさんの小瓶はいったい何だったのでしょう。いえね、あの時は食事中に、聞きほじることは無粋の極みとして聞くに聞けなかったのですが、あれは何かこう、金の匂いがぷんぷんするような類のものに見えたのです。ええ、これは私の直感ですとも。同じ食事にもかかわらず、心なしか食事の香りまでお金の匂いがしてくるようでしてね。いえ、実際、なんとも芳しい香りをしていたようにも感じました。お金の匂いと言うのは、そのままの意味もありますが、言葉の綾でもありまして、そうです、スパイスの香りです。胡椒はこの国で結構な量を仕入れ、普段も使うことがあるのですがね、ええ。その香りもしましたとも。しかし、それ以外のなんとも言えない、食事が終わったにもかかわらず、食欲をそそられる香りがもう、プンプンと! それで、あれらの小瓶はいったい……?」
俺が一人になる所を狙ってこういう話題を振ってきたのだろうか。
さっきマモル達にはこんな話してなかったのに。
陽気でおしゃべりなおっさんだと思って油断していたが、商人をしているだけあって、したたかというか。
あとたぶんやっぱ人を選んでいるんだろうな。
くっ……。
なんて答えたものか。
調味料の事はシロネと決めていなかった気がする。
あと昨日ハルトなにしたっけ?
昨日の夜はチャーハンと餃子とウーロン茶で、ハルトだけ味変したいとか言いだして、最初に胡椒、その次にカレー粉振りかけて……山椒とかラー油も掛けていたな……。
その事を思い出し、出そうになるため息を堪えつつなんて説明をしたものかと考えあぐねていると、俺の斜め前にスス……っとシロネが出て、ゾーロさんに答えた。
「失礼いたします。主にかわって私が」
お前誰だよ、とは突っ込まないからな!
シロネが出来る秘書みたいになってる。
「おや、シロネ殿」
まぁ、シロネに任せるけども。
ゾーロさんもわかっているのか、シロネと話し合う気を見せている。
チラリとシュラマルを見たら、彼は馬車の傍でピシッと立ったまま警戒にあたっている。
こういうことを織り込んでマモルはマーニだけ連れて行ったのかな。
交渉事はシロネに任せ、護衛をシュラマルに任せる。
良い采配だ、マモル。
さすが賢者してるぜ。
よし。ここはシロネが代わりに説明してくれる様だし、完全に任せてしまおう。
俺はそっとシロネとゾーロさんから距離を取ることにした。
せっかくシロネが説明に回ってくれたんだ、またこっちに話を振られても困るからな!
あとアレだ、戦略的撤退ってやつだ。
うん。
俺はきちんと護衛されるために、シュラマルの傍で待機する事にして、ハルト達が戻ってくるのを待つことにした。
午前の休憩は30分。
果たしてその30分程度でゴブリンってのは殲滅出来るものなのだろうか。
ゾーロさんや隊商の他の人達の表情を見る限りではそこまで切羽詰まった様子はない。
そんなに難しい戦闘とかではないのだろう。
残った護衛の人達の方がちょっとピリッとした感じで周囲を警戒しているようには見えなくもない。
シロネが戻ってきた。
ゾーロさんはジックさんと息子のミケロくんとともに自分が雇った護衛達の近くで、他の人が戻ってくるまで待機するらしい。
離れても何故か俺に熱い視線を送り続けているのはなんでだろう。
怖いので俺はその視線から目をそらしてはいるが、見られているとわかると落ち着かない。
「そんな事よりセージ様、聞いてくださいッス!」
そんな事とか言ってるけど、熱い視線こそ送られ続けているが、それでもゾーロさんの相手をしばらくしなくていいとわかった俺の心の安らぎはかなり大事なものだからな。
あとその意気込み、ちょっと圧があるんでやめてほしいです。
「なんですか」
「え、なんでまた急に距離のある話し方ッスか!? 自分等にももっとこう……ハルト様方に話すような砕けた感じの、適当な態度でいいんスよ? なんなら威張り散らしてたくさん命令してくれたっていいんス」
ここにきてまたグイグイ来るんですけど、どうしたんですかシロネさん。やめてください。
「善処します」
そういうプレイはハルトにお願いしてください。
「うーん、まあ…いまはいいや。んでですね! また商談、とってきたッスーーー!」
あまり周囲に聞こえないように声を抑えつつ、興奮しながら、ちょっとどやった感じにそう報告してくる。
商談をとってきたとは?
商談して、なんか契約取ってきたってこと?
なにをどんな商談してきたって?
「ふふん。自分の交渉術でなんと、カレー粉をあの小瓶1本分、銀貨1枚で買ってもらえる事になったッス!」
なんと恐ろしい交渉をしてきてんだこの人!
というかシロネにそんなスキルあったっけ?
小瓶入りのカレー粉なんて、銅貨1枚の物を銀貨1枚(1万円)とかぼったくりもいいとこじゃないか!?
恐ろしい錬金術もあったもんだなぁ!?
いや、そう言えば昨日のハチミツやタオル、筆記用具も大概だけどもさ!?
驚き、ちょっと怯えてしまった俺に、シロネはさらに報告してくる。
今日俺が馬車内でこっそり使ってるのが何故かバレてたっぽいクッション、昨日まで使っていたブランケット、そして餃子のたれに使った醤油、飲料の有無にかかわらずペットボトル。
それらを出来るならば言い値で譲ってほしい。
出来ればたくさん。
「ってゾーロさん言ってたッス」
シロネはマモルに、もしマモルとハルトが俺の傍にいない時、ゾーロさんに俺が商談を持ち掛けられている時は割って入って代わりに受け答えしといてと言われていたらしい。
そして出来るだけぼったくるように、とも。
ゾーロさんに話しかけられている俺がポンコツになるとわかっていて、シロネになんとかするように言ってくれていたのはありがたいが、そこまであくどい指示を出していたなんてな。
ありがたいことに、俺の為ではあるんだろうけど。
さすが賢者。
伊達にラノベを読んでるわけではないようだ。
俺も多少ラノベの嗜みはあるが、いざ異世界が現実になると、とっさの判断力も応用がきかない。
知識を活かせない。
……そうか、それが勇者や賢者と男子高校生の違いなのか!
俺がハッとして職業の違いに衝撃を受けていると、シロネがどうするのかと話を続ける。
「一応モノは多めに持っているけど出す数と値段は主に聞いてみます、ってな事をもっともらしくいっといたッスけど、どーします?」
「……ちなみにマモルはなんて?」
「なんでも売って構わないけど、自分で商売するのなら売るのは控えて今後に取り置く事。それともゾーロさんを御用商人として重宝するのであれば足元だけは見られる事は無いようにって」
そこまで予想してるとか賢者すげぇな。
「御用商人て?」
「貴族家などに出入りを許され、取引出来る商人の事…スかね。たぶん」
「貴族家でもなんでもないんだけど」
「似たようなもんッスよ。この大陸では分からないッスが、北、西、東大陸では高貴なご身分ッスよ?」
地域にもよりますよね?
シュラマルの故郷では善き隣人とかだったし!
「売るテイで話してきちゃったんスけど、迷惑でしたか?」
そうだった。
どうしよ。
「迷惑では全然ない。代わりに話してくれたんだし。そうだね。ゾーロさんに売る方向で」
「了解ッス! ……値段はどうするッスか?」
俺は話に上がった商品を出しながら、入手金額をシロネに教えていく。
―――――
カレー粉(小瓶)銅貨1枚
しょうゆ(200ml)銅貨1枚
ペットボトル飲料(500ml)銅貨1枚
クッション 銅貨10枚
ブランケット(薄手)銅貨1枚
ブランケット(厚手)銅貨10枚
―――――
それを聞いてシロネがメモしたのは
―――――
カレー粉(小瓶)銀貨1枚
しょうゆ(200ml)銀貨1枚
ペットボトル飲料(500ml)銀貨1枚
クッション 銀貨5枚
ブランケット(薄手)銀貨1枚
ブランケット(厚手)銀貨5枚
―――――
だった。
随分あこぎな商売をなさるようだ。
「カレー粉のこの配合は唯一無二の気がするッス。しょうゆは微かに豆の匂いがしますがそれ以外製法はわからないので希少価値はあると思うッス。飲料は主に容器の値段ッスね。クッションは軽くふっくらしていてそれを覆う生地もしっかりしていて美しい染めや織りで作られているっスから価値は高いッス。ブランケットも薄手とはいえなめらかなこの手触りは他にはないはずっス。厚手のものはそれを上回る手触りっスからね。これでも安いくらいッス」
………うん。まかせるよ。




