013 旅路2 金 欠 !
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【異世界ショップ】Lv.11
食品スーパー解放
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【異世界ショップ】Lv.12
業務用スーパー解放
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【異世界ショップ】Lv.13
総合スーパー解放
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【異世界ショップ】Lv.14
外資系スーパーマーケット解放
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【異世界ショップ】Lv.15
家電量販店解放
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【異世界ショップ】Lv.10の単価上限解放のおかげで、一度に買える物の単価が上がったため、思いの外一気にレベルを上げやすくなっていた。
そして【異世界ショップ】のレベルを上げて行くうちに分かったのは使った金額でレベルが上がっていくこと。
レベルが上がるごとに一度リセットされ、そこからまた使った金額に応じてスキル経験値としてお金を使い、一定額を超えるとレベルが上がった。
というのを二人に説明した。
「レベルが15になったところで金欠気味なのに気付いて、そこからはレベル上げをストップした」
「なるほどー」
「便利だけど改めてエゲつねぇ仕様だな。金とMPないとレベル上げらんないとか」
ちなみにMPは商品1つに10MP必要ってのはずっと変わらなかった。
「ん? てことはお前……たった3日で金貨50枚使い切ったのか?」
ハルトのその発言に奴隷組がゾッとしたかのような表情を浮かべている。
いわゆるドン引きってやつ。
室内で結界も張ってあるので皆ローブのフードは落としていたので表情がよくわかった。
シュラマルが驚くってことはよっぽどだったのだろう。
あ、いや、よっぽどか。
レベル上げのことばかり考えていたからそこまで考えてなかったけど、金貨50枚って日本円で考えれば5千万くらいか?
いま思うことじゃないけど、金貨1枚で100万円の価値ってのもなかなかだよなぁ。
それに平穏な日常をブチ壊されてまで異世界に連れてこられて、たった5千万持たされて放逐されたとか、ひどすぎるな!
しかも後々消す予定でいらっしゃったってことは、その金貨も回収される予定だったのか……。
ひどいな! この国!
って今はそうじゃないか。
てかマモルもハルトも既にそれには気付いていたからあの時あれだけ怒ってたのか。
俺の気付き、遅すぎるぜ……。
「失礼な。あと金貨1枚と銀貨数枚は残ってる」
「大丈夫だよ。僕らもお金持ってるんだし、なんとかなるって」
「お前ら正気かよ!? もともともかなり金銭感覚ぶっ壊れてるとは思ってたけどこっち来てさらにひどくなってねぇ!?」
なんかハルトが失礼なことを言っている気がする。
「ちょっとー、僕とセージを一緒にしないでくれるかなー?」
ん?
なんかマモルにも失礼なことを言われている気がする。気のせいだよね?
「とりあえずアレだ。残りの金は全部シロネに管理してもらえ。お前はダメだ」
「それもそうだね。シロネ、悪いけどそれでセージの身の回りの世話やシロネの分やりくりしてくれる?」
「は、はいっ! 了解したっス」
俺を可哀想な目で見る二人の雰囲気に、これは本気でヤバい事なんだと切実に伝わり、俺は黙って渋々シロネに全額預けることに。
「まぁ、ほら。そんなに気を落とさなくてもセージには“アイテムチャージ”があるじゃない」
適当な事を言われてしまった。
けど考えようによってはそれで行けそうな気がする不思議。
昼休憩のときに試しに“アイテムチャージ”してみたその辺の石ころ、銅貨1枚になってたし。
うん。明日から石ころ集めようかな。
「なあ、こいつロクな事考えてねぇぜ?」
「うん、まぁ、絶対そうだけど、お金シロネに預けたし、大丈夫だよ。きっと」
なんかまた失礼なことを言われた気がする。
「それにほら、せっかく隊商に紛れ込んだんだし、周囲に商人たくさんいるんだから、レベル上げに買った商品いくつか売ったらもと取り返せるんじゃない?」
「それな!」
なるほど。それもそうか。
マモルの提案にハルトも明るく同意を示している。
「ってことで、シロネ。そっちの事もよろしくねー」
「了解ッス」
なんか話もまとまってしまった。
とりあえず皆に【異世界ショップ】製の寝具や日常で使えそうなアイテム、それからやっと買えたそれぞれのサイズに合った着替えを配る。
マーニには一応女性物で動きやすそうなパンツスタイル。
俺が下着を選ぶのも微妙だったが、カップ付きのタンクトップとなんの飾り気もない下着で我慢してもらう。
シロネは未だ性別不明なので男物の下着とズボンと白シャツ。
シュラマルも体に合ったサイズの下着とズボンと白シャツ。
全部ストレッチ素材で出来ているから動きやすいだろう。
たぶん。
その上からまたローブを被ればダイジョブだよね。
ちなみに着替えは2セットずつ用意した。
3人の靴も【聖女の勘】を駆使し、適当にサイズを選んだ。動きやすそうでしっかりめのブーツを。あと忘れちゃいけない靴下ね。
あとはシロネにそれぞれの尻尾やらなにやらの身体的特徴に合わせた調整をしてもらうために、裁縫道具を渡した。
シロネさん、裁縫スキルあるからさ。
それらの事も含め、ハルトとマモルはお金を払うと言っていたが、レベル上げのついでだったし、と断った。
そしたら「じゃぁせめてセージとシロネの宿代は僕とハルトで出すよ」とマモルが提案してくれたので、ありがたく乗ることにした。
それから二人は金策についても話していた。
「セージはあわよくば商売方面で金策した方がいいけど、僕たちはやっぱり冒険者とかかなー」
「なんで? ハルトもマモルも同じスキルあるじゃん」
「三人で共倒れ的に金欠になるわけにいかないでしょ? せめてもっとお金に余裕がないと今のセージのレベルまで上げるのは無理だよ。それに僕が欲しい物はまだ解放されていないっぽいから、それ以上にお金かかるみたいだし」
「欲しいもの?」
「今でも大体物は買えそうだけどよ、なんとなくだけどもっとレベル上がれば武器とか防具類も買えそうじゃね?」
「あー、なるほど」
「そ。だから冒険者でどれだけお金稼げるかわからないけど、なって損はなさそうだね」
そう言えば昼間マモルは《煌めきの刃》の人達ともしゃべってたな。
その時冒険者の事を聞いたんだろう。
商売のことだってもしかしたらゾーロさんに話を聞いているうちに聞いた内容と合わせて色々考えていたのか。
戦えるスキルがあるハルトとマモルには冒険者として稼ぐのが一番手っ取り早く金を稼ぐことが出来るのかもな。
で、俺は商売か。
金を稼ぐのに苦手だとか言ってられないけど、対人スキルが必要なやつだな。
どうしよ。
そんな話をしていると、扉からノックが。
「ゾーロです。良ければ皆さまも食堂で食事でもいかがですかな」
ゾーロさんからの食事のお誘いだ。
「え、オレ無理だぞ?」
「もちろん王都から離れてないこの町の食事も似たようなものなんだよね?」
「はい、匂い的にはそう変わりないかと」
「じゃ僕も無理かな。かといって今後の人付き合いを考えればここで断るという選択肢はないから……はーい! ぜひ! いま参りまーす!」
防音結界を解いてからそう返事しちゃってるマモル。
俺も無理そうなんですけどー。
「おいっバカ、どーすんだよ?!」
「たぶん大丈夫だからまぁみててよ」
やけに自信を湛えているマモル。
大丈夫なんだろうけど……大丈夫か?
ゾーロさん達と階下の食堂へ向かう。
商隊のおかげで繁盛しているらしく、食堂内は混んでいた。
それでも予約席としてゾーロさんが取っていてくれたらしく、大人数が座れるテーブル席に着くことが出来た。
ゾーロさんはこの町に来ると、いつもこの中ランクの宿に泊まっているらしく、慣れた感じで注文していた。
俺は少し悩んでスープだけを注文した。マモルも俺と同じくスープだけで、ハルトは無理とか言いながらも店主におすすめされた定食を注文。
シロネ達は好きなのを好きなだけ注文していいと言ったら、俺とマモル同様にスープだけの注文にしていた。
ゾーロさん達とまとめて注文したためにテーブルの上にはかなりの料理が並べてある。
「おや、マモルさんたちはその程度で大丈夫なのですか?」
「えぇ、なかなかこの国の食事には馴染めなくて」
おおぅ、堂々と言いやがった。
「ああ、なるほど。わかります。私もはじめはなかなかなじめなくて苦労しました」
「ゾーロさんたちはこちらの方ではなかったんですか?」
「はい。私も息子もジックも、それから《煌めきの刃》の方々も西大陸出身でしてね――――――」
そこからまた長い話が始まった。
俺はほとんど聞いていなかったが、マモルは相槌を打ちながら器用に俺達に知らせてくれる。
俺達の所だけ、顔から下を【隠蔽魔法】でごまかした、と。
なるほど。こういう使い方をするのか。
マモルがゾーロさん達の気を引きつけている間に俺達はここで出された料理をタッパーに詰めて【アイテムボックス】にしまいこんでいく。
空いた皿などはまとめて中央に寄せておいてから、あまり匂いの気にならなそうな食事を【アイテムボックス】から出して皆の前に置いた。
これで普通に食事している感じになるんだろうな。
今晩は中華丼と中華スープにしてみた。
もちろん獣人組には二人前、三人前を用意させていただいた。
ゾーロさん達との夕食は、ゾーロさんの長話もあって一時間以上もかかった。
それでも息子さんが急かしたためにこの程度で済んだみたいだった。
部屋に戻った俺達。
とくに俺はすることもなかったのでゲームアプリを起動……することは叶わず、これからの事を考えてアイテムボックス内にある売れそうな物の目録をシロネと一緒に作ることになった。
「あのー、セージ様」
「うん?」
「これ、売っても大丈夫なんスか?」
俺が在庫の多いものを一通り出してみたところ、シロネ的にはどれも微妙な物らしかった。
それでも何とか常識と照らし合わせて売れそうな物を選出してくれたシロネさん。
「これとこれは別の容器に移し替えれば売れそうです。こっちは……」
俺はシロネにメモ帳とボールペンを渡し、あとは丸投げした。
俺にはどれが売れてどれが売れないか分からない。
シロネが大丈夫と踏んだ物だけ商品名と在庫を教え、その他はまた仕舞いこんでいく作業を2時間ほどしてその日は就寝となった。
今日もアラームの音と振動で目が覚める。
時刻は4時。
この世界も1日24時間という認識でいいようだ。
ハルトとマモルも自分でアラームをセットしていたみたいでモソモソと起きあがる。
音に敏感な獣人であるマーニとシロネ、鬼はどうなのかわからないが、シュラマルもアラーム音に反応して起きたみたいだ。
支度をし、忘れ物がないか部屋の中をチェックし、宿を出て集合場所へ行くと、既に半数以上の商人たちが集まっていた。
数分もすると全員が集まったようで、また夜明けとともに出発だ。
誰ひとり寝坊が居ないのはすごいな。
馬車に揺られながら食事をとる。
ハルトに頼んで御者や警戒にあたってくれている獣人組にも配ってもらう。
今朝は片手でも食べられるようにバケットサンドにした。
もちろん俺達はハーフサイズ、獣人組には一本丸々で。
飲み物はペットボトルのストレートティー。
ゾーロさんも自分が用意した黒パンと干し肉を食べ、革袋の水筒に入った飲み物を飲みながらこちらを見ている。
「セージ様も【アイテムボックス】をお持ちなのですねぇ?」
油断していた。
【アイテムボックス】の事は黙ってはいたが別に隠しはしていなかった。
ただ朝から名指しで声をかけられるとは思ってなかった。
てか、ゾーロさん、俺にだけ様付けなんだよな。
チラリとマモルをうかがえば、微かに頷いていたので答える。
「ええ。まぁ」
「ほほー! それは羨ましい限りですな! 仲間内でお二人も貴重なスキルをお持ちとは! 昨日も昼時にチラリとみてしまったんですがね、そうですかそうですか! いやー、マモルさんからお話をうかがったところによればセージ様方は東大陸の小国のご出身だとか。もしかしてなんですがね、セージ様のその【アイテムボックス】に、セージ様のお国の物なんか入っていたり、ましてやそこから私どもに買い取らせて頂ける物などあったりはございますでしょうかと思いましてねぇ、ええ」
これはまずい。
あ、いや、商機と言えばいい風向きなんだろうけど、どう切り出せばいいんだ?
早速商品見せた方がいいのか?
でもそうなると売り急いで見えるから足元みられて買いたたかれる感じか?
やべぇ、商売の奥深さに今気づいちゃったよ!?
どうせ売るなら儲けたい。
儲けが出なくても赤字は出したくない。
ってのは高望し過ぎだろうか?
「……シロネ」
困った時は身の回りのお世話をお願いしているシロネさんに頼ろう。
「はい」
いつもの「なんスか?」ではなく、慎ましやかに返事をし、荷車の上から降りて歩きながら俺達がいる荷車の中に顔を出すシロネ。
状況を察したハルトが「オレ代わりに警戒に当たるわー」と出て行った。
たぶん面倒な話になると思いイチ抜けした勝者ってやつだな。
それを見て、マモルがゾーロさんに「従者を中に入れる事をお許しいただけますか?」と許可を取る。
え、なにこの連携?
俺聞いてないよ?!
ゾーロさんの許可を得て、ハルトと入れ替えにシロネが荷車の中に入り、俺の隣に座る。
それからは俺の代わりにシロネが商談に入ってくれた。
「シロネ、ゾーロさんが商品になりそうな物は無いかと」
獣人の耳からしたら聞こえているだろうけど一応。
「はい。では失礼して……ゾーロ様はどういったものをお望みでしょう?」
「さ、様? え、あ、はい、こちらはどういったものでも。珍しい魔物の毛皮や希少な酒、日持ちするものであれば食べ物なんかも。魔道具の類などもあれば。東の大陸は魔道具で栄えている国が多いと聞きますからねえ。ああ、それにシルクでも有名でしたか」
シロネの謎人物設定に翻弄されるゾーロさん。
親近感がわく。
「なるほど。当家といたしましても他大陸で商売でも、と考えての旅ですのでそう簡単に売れるような物は無いのですが……ゾーロ様には旅の同行としてお世話になっている身であれば、なくもないですね」
どこから目線でそんな事を言っているのか不明だが、ここはシロネに合わせた方がいいのか?
「当家」とかいっちゃってるけど、それどこの家?
そんなこと言っちゃって大丈夫なやつ?
「おほぉっ、それでは……!」
……ゾーロさんから「おほぉ」でました。
めっちゃ期待してるみたいなんだけど!?
「はい。こちらなどいかがでしょう?」
シロネが出したのは俺がシロネにあげたメモ帳とボールペンだった。
え……。
それ?
確かにいろいろ使うだろうと思ってまとめ買いはしてあるけども。
それぇ?
「ほぉぉぉぉっ、これは!?」
なんだろ。ゾーロさん的にはなにかささるものがあったのか。
高ぶったテンションが維持されたままだ。
「簡易的な筆記用具です。木の板にメモをするよりも気軽に扱える上に持ち運ぶのも便利です。木の板や木炭筆よりも値は張りますが、色々な意味で値段以上の価値はあるかと」
そう言ってメモ帳の一部を見せるシロネ。
そこには
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ハチミツ(小)銀貨1枚
ハチミツ(中)銀貨5枚
ハチミツ(大)銀貨10枚
メモチョウ 銅貨50枚
ボールペン 銅貨50枚
タオル(小)銀貨1枚
タオル(中)銀貨5枚
タオル(大)銀貨20枚
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と書かれていて、その中の「メモチョウ・ボールペン」の所にデモンストレーションのようにボールペンで丸をつけた。
「ほおおおおおおおっ」
ゾーロさんのテンション爆上がり。
隣で見ていたミケロくんも驚きと興奮で瞳を輝かせている。
そしてわざわざそんなメモ書きがされているところを見せるシロネは既に商人だと思う。
「こ、これがメモチョウ、そしてこればボールペンというものですか!? そ、それにハチミツですと!? このタオルというのはいったい!?」
「あぁ、申し訳ありません。こちらはちょっと……」
「あぁ、そんな殺生な事を言わないでくださいませ!モノを見るだけでも、どうかっ」
「はぁ、まぁ、お見せするだけと言うのなら…でしたら」
シロネの手の上で転がされている歴戦の商人ゾーロさん。
この人ホントに大丈夫なのかな?
素人のシロネに良いようにされてるんですけど……。
こうしてシロネは昼までに金貨3枚の稼ぎを出した。
そして昼。
……なのだが。
「そ、それは!? セージ様、それは何でしょう? それを私にもお売りくださることは叶いますでしょうか!?」
俺が出すもの全てに興味を示しまくるゾーロさんが居た。
俺が昼食として出したのは、のり弁と豚汁。
日本人以外が食べるにはいささかハードルが高そうなメニューとなっているのだが、ビジュアルに臆することなく興味を示すゾーロさんは偉大な商人だと思う。
「日持ちしないものなので、転売などせず、当日中に本人が消費するのであればほぼ原価でお売りしますよ?」
マモルが答えた。
「おぉっ! では是非っ!」
といってゾーロさんは息子と従業員の分も買う。
のり弁1つ銅貨4枚、豚汁1つ銅貨2枚。
…のところを銅貨5枚、銅貨3枚と、少しだけ割高で売らせていただいた。
ハチミツやメモチョウ、ボールペン、タオルではぼったくりもいいとこだったが、今食べる食事として売るなら良心的な価格だろう。
「こ、これは……! まったく心当たりのない味なのに何故か美味い!? クセのある味なのにそれがクセになってもっと食べたくなる味! これで…これで銅貨8枚!? 驚きを隠せません……! ううむ……」
ミケロくんもジックさんも驚いているが、まずそうな顔はしていない。なんならガツガツと頬張っている。
そんな様子をみたのか、
「な、なぁ、セージ様、俺達にも売ってくれたりする……しますか?」
ハルトやマモルには気安く話しかけるのに、何故か俺にだけ緊張の面持ちで声を掛ける《煌めきの刃》の面々。
「はい。4つずつでいいですか?」
「ああ。あ、いえ、はいっ」
彼らの態度に釈然としないながらも、4つずつ売る。
俺はのり弁と豚汁を出すだけで、シロネが仲介して商品とお金のやり取りをする。
のり弁と豚汁を食べた《煌めきの刃》の方々も気に入ってくれたようで、うまいうまい言いながら食べていた。
ちなみにみんなマモルの作った結界椅子にしれっと座って食べている。
後でこっそりシロネが
「セージ様、昼食屋としても稼げそうッスね!」
と意気込んでいた。




