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012 旅路1 ゾーロさんという人は……

 


 ゾーロさんの息子さんの名前はミケロくん。10歳。

 従業員さんはジックさん。


 護衛《煌めきの刃》のリーダーで剣士のカガクさん、サブリーダーで重戦士のゴートさん、狩人のエイルさん、魔法魔術師のチェザさん。

 そしてゾーロさん。


 この7人がこれからひと月近くを一緒に旅する仲間となる。

 ……と言うか、隊商全体が仲間とも言えなくもないんだけど。

 まあ、そんな感じだ。


 改めて皆で自己紹介をし、今はゴトゴトと馬車に揺られている。


 俺達が担当する馬車は、今はシュラマルが御者をして、荷車の上にはシロネとマーニが一応警戒にあたっている。


 ゾーロさんの馬車は従業員さんのジックさんが御者をし、その馬車の周囲を《煌めきの刃》の四人が馬車の速度に合わせて歩き、警戒にあたっている。


 王都を出発してから1時間が経っている。


 出発から馬車に揺られ、10分もしないうちに馬車に慣れない俺達は尻から背骨に掛けてヤられてしまった。


 ノーサスペンション・ノークッションは俺達にはハードルが高かった。


 異世界からの先人たちよ、なぜ馬車にサスペンションを完全装備させなかった!?


 カジノとかホテルとか広める前にまずそっちからだろう!?


 俺は10分で我慢できず、こっそりと【聖女の輝き】を輝かないバージョンで発動。


 荷車の床からちょっと浮く形で座っている。

 尻の下に【異世界ショップ】で買った100均仕様のブランケットを畳んでクッション代わりにしたので浮いているのはバレていないだろう。


 ハルトとマモルにも同様の処置を施した。

【聖女の輝き】は意外にも他者へも使うことが出来たのは新たな発見だった。


 馬車に乗り込んで尻問題に悪戦苦闘しつつも俺は、自分が乗りこみ、護衛を任された馬車を包むよう、きちんと【堅牢なる聖女の聖域】を掛けた。


 これで任意で解除しない限りこの馬車は安全だ。


「いやあ、速さは早歩き程度ですが、やはり実際歩いて移動するのと、こうしてゆっくりと馬車に揺られているのとでは心の余裕が違いますなー。いえ、むしろこうして我々が座っている空いた空間にまだ何か詰め込めるんじゃないのか、この空間はもったいないのではないかというある種職業病とも言える方の心の余裕は無いんですがね。こんな様子なので商人としてもう少し余裕を持って構えたいものなんですがねえ。そうしたらもっと商売をうまく回せるんじゃないかとも思うわけなんですよ」


 馬車の中は安全とは言えなかった。


 ずっとゾーロさんがしゃべり倒している。

 ときどき息子のミケロくんが合いの手のようなツッコミというか宥めというか制止を入れてくれるものの、トークは終わらない。


 ゾーロさん、話好きで話上手なので、ひとりひとりの顔をまんべんなく順々にみて話すので気が抜けない。

 といってもハルト以外、俺とマモル、シロネ達はローブのフードを目深にかぶっているので表情までは見られないだろうけど、それでも頷いたりして反応は示す健気な俺達。


「それにしてもハルトさん達は、旅は初めてだとおっしゃっていましたが、何故急に帝国へ行こうと? あ、いえね、お答えづらければお答えいただかなくても結構なのですよ? こちらとしてもその思い立ちのおかげでこうして予定以上に商品を買い込むことが出来たのですから、ありがたいことです。ただなんとなく気になっただけですから。なんとなくですよ?」


「父さん、それではみなさんに失礼じゃないですか? 聞かないならはじめから聞かないでいいではないですか」


 頑張れミケロくん。


「ミケロ、私は無理ない範囲で気になることは聞いておきたいのですよ。そしてこういうところに商機は転がっているものなのです」


「そうなのですか? でも失礼にはかわりませんよ」


「わかっていますとも。だから無理ない範囲なのです。よければ是非というところなのです。ちょっとした会話、それを無理ない程度に広げることで、商売の可能性は無限に広がるのですよ。ここで無理をすると、その可能性は一気になくなり、さらには全て無くなり破滅することもあるのですがね」


 親子仲良く、夢と現実を織り交ぜたかなりリアルな事をふわっと話している。


 ハルトは微笑ましそうに見ているが、マモルはそれを観察するように眺めている。


 俺はと言えば、外の景色を眺めているふりをして、どうにか話を振られないように、自分に出来うる限り、精一杯気配を消している。


 早く気配を消せるようなスキルが生える事を祈りながら。


「ところで、セージ様は回復魔法がお得意だと言うことでしたが、もし万が一のことがありましたら、私どもにもご慈悲をいただけませんでしょうか。もちろん都度程度によりけりでお支払いいたしますとも。どうでしょう、お考えいただけないでしょうか。いえね、このような隊商で回復魔法の使える御方がいるというのはなんと心強いかと思いましてね。もちろん護衛に加わって頂けることもとても心強いものがあります。しかしお互い護衛が怪我をしてしまえば、不安もありましょう。それに旅の途中病気にかかることも少なくありませんのでねえ」


 そのうち寝たふりをしてしまえば完璧だな。

 なんて考えていたからだろう。


 フラグが立ったのか、ゾーロさんに物凄い勢いで声を掛けられた。


「何かあったらお金払うから回復魔法頼めますか?」というだけの事なのに、ここまで言葉を付け足すことが出来るってある意味すげえッス。


 かなり引き気味だが、それでもなんとか返事をしようとゾーロさんに向き直ったところで、マモルが柔らかくも真剣な表情で口を開く。


「セージはまだまだ駆け出しなので浅い怪我や軽い病気程度しか癒すことができません。ご期待に添える程の回復力はありませんがそれでもよろしいのでしたら、そのご依頼もお受けいたしますよ」


 おまえ誰だよ。

 すげー賢者じゃん。


「おお! それはそれはありがたい! いやはいや、浅い怪我でもそこから病魔が入ることもありますし、軽い病気とて、放っておけば重いものとなりますので、早く治して頂けるのならそれに越したことはないのです。怪我も病気も軽いうちが早く治る秘訣でしょう。是非ともよろしくお願いいたします」


 マモルの言葉にえらく感動したみたいに、ゾーロさんがありがたがる。


 おかしいな。

 回復は俺の仕事となるのになんでマモルがありがたがられるんだ?


 何かの作戦か? 「軽い物しか治せない」とか言ってたし。

 きっとそうだな。


 よし。俺、このまま引き続き黙っとこう。




 そんな感じで馬車は進んでいった。

 隊商の馬車は普通の馬車よりもめいっぱい荷物を積み込んだ分進む速度は遅いが、俺達が召喚され、2日ばかり居る事になった王都と呼ばれていたところからはかなり離れたと思う。


 一度休憩を挟み、それから昼までまた移動を始めた。


 その間ずっとゾーロさんは話し続けていた。

 たまに息子のミケロくんが冷静に合の手のようにゾーロさんにツッコんだり、会話にブレーキを掛けたりして。


 その相手のほとんどをマモルがし、ハルトは早々に飽きて見回りと称して馬車から出て散歩のように馬車に付いて歩いたり、マーニ達としゃべったりしていた。


 俺はもちろん様子を窺いつつ寝に入った。

 いや、寝ているふりを始めていたらいつの間にか普通に寝てしまっていたってやつ。




「セージ、起きろ。昼休憩だってさ」


 ハルトに起こされた。

 いつの間にか荷車の中には誰もいなかった。


 外を見れば、ゾーロさん達は昼食の準備をしているところだった。


 まだ寝ぼけた頭で馬車を出ようとしたら囲いに躓いて落ちそうになったところをシロネに助けられる。


「気付かず申し訳なかったです。大丈夫ですか?」


 え、誰?

 シロネ風の誰か?


 しゃべり方が違う……と思ったけど、他人がいる前では従者の振りするんだったなと思い出す。


 まだ寝ぼけているようだ。


 改めて馬車から出る。

 旅慣れているゾーロさん達は軽い軽食程度で済ませるのか、パンと干し肉とワインで昼食とするらしい。


 他の商人を見渡せば、ゾーロさんと同じメニューの人が多い。


 あとは昼食を取らずにただ休んでいる人や、荷物の整理、馬竜の世話をしている人もいる。


 そんな風景を眺めながら俺もマモル達の所へ行く。

 ゾーロさん達から少し離れたところで昼食にするらしい。


 理由としては、ゾーロさんは自分達の分と《煌めきの刃》の分の昼食しか用意していないからということらしい。


「地べたに座るってなんか微妙だねー」


 既にマモル達はレジャーシートを敷いた上に座っている。


「マモルの魔法で椅子になるような物作ればいいじゃん」


「さすがセージ、そういうとこだよ?」


 なにが?


 とは突っ込む前に、早速マモルは何かの魔法を展開し、透明な箱を人数分つくっていた。


「結界魔法を応用してみましたー。なかなかいい感じじゃない? あ、これ硬度変えたらクッション代わりになるかも。魔法って奥深いねー」


 満足してらっしゃる賢者に感謝し、結界魔法の応用で出したと言われた椅子に座る。

 ついでに出されているローテーブル風結界の上に、昼食を出していく。


 朝は歩き朝食でおにぎりと水だったので、もう少し栄養に気を使って蒸し鶏のサラダと幕の内弁当にしてみた。


【異世界ショップ】で買ったお弁当は既にレンチンされた状態。

 変わり種のおにぎりやパンも、レンジすればおいしいと思える物は大体程良く温まっている。

 奥深いスキルである。


 日中で汗ばむほどの気温なので飲み物は冷たい緑茶を出す。


「豪華ッスね」


 俺達以外には聞こえないくらいの声量でシロネがぽつりと漏らす。


「ま、まあ町から出て数時間ですし、まだ言い訳は立ちそうですよね」


 それにマーニがしっかりと返している。

 仲良くしているようで何よりだ。


「シュラマルってさー、このくらいの食事量で足りるの? そう言えばシロネやマーニもだけどさ」


 早速幕の内弁当をパクつきながらマモルが寡黙なシュラマルに話題を振っている。

 仲良くしているようで何よりだ。


「わがままを言えば……体を維持するには足りません」


 全く我がままなことなんてないですからね!?

 そういうことは言って下さいよ!


「これならどのくらい?」


「腹八分とするなら3つは」


 俺に合わせて食事出してたけど、ホントごめんね。

 弁当1つじゃ全然足りてませんでしたね!


 そしたら獣人のシロネ達は……?


「わたしはお昼としてはこの量でも満足ですが、夜となるとこれで2つくらいで腹八分でしょうか」


「自分もそのくらいっス」


 腹八分……。


 そうか、獣人と人間じゃ食事量も違うのか。


 気配りできなくてごめん。


 謝罪の意味も込めて俺はそっとシュラマルにもう一つ幕の内弁当を渡し、全員にクリームが乗っているプリンを配った。


 ハルト達は当然顔だが、シロネ達は驚きと感動を持って食べてくれたので良かった。



 昼の休憩は小一時間ほど。

 俺たちが食休みしている間、俺達が担当する馬車の馬竜の世話は全てゾーロさんとこの従業員、ジックさんが全部してくれた。

 その点はちょっと安心出来た。



 休憩が終わり、また移動が始まる。


 その間ゾーロさんの話につきあう以外、何事もなくあっさりと、夕方には宿をとる予定の町に辿りつくことが出来た。


 勇者と賢者がいるんだからきっと厄介な事件が起きるんだろうなと気構えていた自分がいたので、予想に反して予定通り事が進んだことに安心した。


 宿はゾーロさん達と同じ宿。

 ちょうど6人部屋があったのでその部屋を一部屋とった。


 何の事はない、ちょっと広めの部屋にベッドが6つ置いてあるだけの部屋だった。


「あーーーーーー、疲れたー」


 と、一番何もしていない俺が率先してベッドに寝転がる。


 やはり板に薄い毛布と麻のシーツを敷いただけのベッドだったが心構えがあったので大したダメージは受けずに済んだ。


「自覚あると思うが、お前が言うなってやつな」


「バーカ、俺が一番気を張ってたっての。いつ話を振られるかとか、勇者と賢者(お前ら)がいるんだから何かあるんじゃないかとか気を揉んだりしてたんだからな」


「あー。確かに僕とハルトが揃ってたらなにかフラグ拾ってもおかしくないもんねー」


 ご自覚なさっていたようで何よりです。


「にしてもお前はほとんど寝たふりしてただけだろーが」


「いや、ちゃんと寝てたし?」


「余計アレだわ!」


「うーん。でも一応セージの結界は機能してたみたいだねー。マーニはどうだった?」


 寝ててもきちんと【堅牢なる聖女の聖域】や【聖女の輝き】(輝かないバージョン)を張っていた俺をきちんとフォローしてくれる心優しい賢者。


 そんな賢者が一日中馬車の上で警戒にあたっていたマーニに確認を取る。


「はい、すごかったです! 遠くに魔物の気配があったのですが、隊商から逃げていくように離れていきました。それに盗賊のものと思しき矢も飛んできたのですが、それも弾くと言うか、当たった矢が結界に沿って転がり落ちたと言うか」


 はじめは【堅牢なる聖女の聖域】を、自分たちが任された馬車にだけかけていたのだが、マモルにコソっと言われて隊商全体を包むようにかけていた。


 検証も兼ねてそうしたが、特に苦もなく出来てしまった。


 30以上の馬車の連なる隊商をすべて【堅牢なる聖女の聖域】で包み込んでも限界らしい限界もなく。

 聖女スキルなだけにMP消費もないし。


 町に入ってからは自分達の荷馬車にだけ縮小して掛けたままに、今もそのスキルで荷車を守ってある。


 寝ていても自発的に解除しない限りは掛けたまま維持できるのはよかったと思う。


「効果があって何より」


 てか魔物とか盗賊とかマジでいるんですね。

 めっちゃ怖いんですけど。

 ……めっちゃ怖いんですけど!?


「え、お前そんな事してたの? なんかごめんな?」


 俺達3人の中では割かしピュアな部類に入るハルトが素直に謝る。


 なんとも後ろめたい。


「いや、良いんだ。俺がスキルを使っている間、お前もゾーロさんの相手してくれていただろ? 俺、スキルに気を取られてゾーロさんの話とかロクに聞けてなかったからさ。俺の方こそありがとうな」


「セージ……お前ってやつは……」


 ハルトが感動してる風な顔でこちらを見ている。


「で? 他には何してたの?」


 うまくハルトを騙せるかと思っていたら、マモルから鋭い質問が飛んできた。


 俺とハルトのバカ話につきあう気はないようだ。


 ちなみに現在、部屋に入って早々にマモルが室内に防音の結界を施し、俺も【堅牢なる聖女の聖域】を張っている。

 このスキル、二つ同時展開も出来るようだ。


「もちろん【異世界ショップ】のレベル上げもしてたよ?」


「え?」


「あ?」


「ん?」


 俺の言葉に驚いた顔でマモル。

 次いでなにに驚いてんだ? といった感じでハルト。

 何か驚かれる事を言いましたか? と俺。


「結界張りながら他の魔法も使えたの?」


 マモルはそこに驚いていたらしい。


 ゲームでもしているのかと思っていたのか?

 もちろんそれもしてたよ?

 ずっとレベル上げも飽きるからね。


 ……っていうのは言わないでおこう。


 ローブの中にスポッと入ってしまえばゲーム出来ちゃうんだよね……。


「あぁ、そういう……」


 ハルトは意味がわかって納得顔。

 俺もそれで驚いていたのね、と納得。


「そう言えばそうだな。気付かなかったが出来ていたな」


「魔法の同時展開って結構集中力と技術がいるんだけど……」


 と、そこから何やら考え込むマモル。

 それを聞いて「うわ、マジかよ、お前すごい事してたんだな」とボソッとつぶやくハルト。


 え、あ、ゴメン。

 そんなんじゃないと思う。


 MP消費がない聖女スキルはたぶん普通の魔法の使い方とは違う気がするんだ。


 これが【特殊魔法】のどれかと【異世界ショップ】だったら同時に出来てないと思いますよ?


「まぁいいや。で、ちなみに【異世界ショップ】のレベルはどのくらいまでいったの? どんなものが買えるようになった?」


 とりあえず棚上げしておくらしく、話をすすめるマモル。


「レベル15までいって、魔道具化された家電とか買えるようになった。こっちでも使えるように魔改造されたやつだな。そして今すぐ使えそうなのがマットレスとか枕とかフワモコの毛布だとかシーツやカバー、クッションだ」


 俺はベッドから立ち上がり、自分の使う予定のベッドの上にどんどん置いていき、快適なベッドを作り上げた。


 この国、昼間は暑いクセに朝晩は冷えるからあたたかな毛布は大事なんだよ。


「おいおいマジかよ!? すげぇ! 俺達にもはよ出してくれ!」


「うん。もちろんそれは出してもらうとして、そのレベルまでの経緯はどう?」


 冷静にマモルがたずねるので、ちょっと得意げだった気持ちを引き締めることが出来た。


 調子に乗ってすみません!


 ドヤ顔でベッド整えて恥ずかしいです!




 てことで経緯。


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