010 準備
昨日は色々ありすぎた。
まぁ、それは仕方ないんだけど。不本意ながら異世界に召喚されちゃった訳だし?
夕食後、シロネ達と話をした後も、俺達はまた少し話し合った。
というか、もう少し確認したいとマモルが言うのでそれにつきあった。
マモルとハルトが中心に現状の確認という話をしている中、俺は何の気なにしにスマホを出した。
時間が気になったってのもある。
そしたらなんとスマホが生きていた。
当然マモル達にも報告。
元の世界との通信は出来なかったが、俺達の間でのやり取りには使えた。
そこで早速、まだ充電が生きているうちに女子達と連絡をとった。
通話は相手が今どんな状況にあるかわからないが、SNSのグループチャットにこちら側の現状を、ハルトとマモルとで要点を掻い摘んで現状とこれからの要諦を適切に伝えていた。
そこに俺の入る余地は無い。俺が入るとグダグダになりそうだったので。
正解だと思ったのは、ハルトとマモルと周防のみがチャットに参加し、その他は既読に留めていたことだ。
チャットを見ている間もどんどん充電が減るわけだし、チャットを打っていればもっと減りは早まるだろう。
もしかして交代でチャットしていけば数日は充電が持つかもしれない。
いや、俺は既に充電が30パーセントを切っていた。
そこで何故そう思ったのかは分からないが、俺はスマホに【聖女の癒し】を掛けた。
そしたら普通に充電出来た。
じわっと7パーセントくらい回復した。
そこで今度は【聖女の慈雨】をかける。
充電100パーセントになるまでじっくり発動し続けると、10分くらいで充電が完了した。
それはしっかりとチャットを続けているハルト達に報告。
出来るヤツらはしっかりと短時間で検証し、聖属性、光属性、風属性で充電できることを突き止め、それをきちんと周知した。
思いがけず通信問題と充電問題、俺達とクラスの女子達との疎通問題も解決された。
女子達の方は、やっぱりかなりイラついているご様子だった。
『帰還方法を探すのは当然として、この国から受けた迷惑と精神的苦痛に対しての罰はしっかり受けて頂く所存です』
という周防の一文に「あー、始まったな。長くなるな」という俺達放逐され組の感想。
きっとこの国の王様から始まり此度の聖女召喚に関わったヤツら全員報復されるだろうな。
それも何万倍になって返ってくる訳だが…ご愁傷様という言葉しか浮かばなかった。
それとは別に、聖女様方はしっかり全員職業聖女だったので、追加で誰かが城から放逐されることはなさそうとのこと。
今後どうやって落ち合うかが俺達の課題となった。
とりあえずは俺達が先行してこの世界を見てまわることになる。
都度報告し合い、今後どうするかという作戦を練るという方針に決まった。
なんだかんだあちら側は女子達がマウントをとることに成功し、何不自由ない生活が送れそうだとのこと。
それぞれに豪華な部屋と侍女が数人付き、風呂にも入れてもらって髪も乾かしてもらい優雅に時を過ごしているらしい。
そんな感じでその日のお互いの報告を終え、俺達はと言えば、宿にシャワーも風呂もないという事実を知って絶望した。
しかたなく【クリーン】で全身を清めて無理に不快感を消したが、洗った感もシャンプーなどの香りも無く、納得できないまま寝ることになった。
自分の匂いも無くなった分、寝具や部屋の匂いが気になりだして、部屋全体に【クリーン】をかける羽目になった。
それでようやく寝ることができたのだが…。
「体が痛ぇ」
朝起きると全身が痛かった。
心身ともに疲れてすぐ寝入れたのは良かったのだが、ベッドも枕もあのままの状態だった。
翌日になって思い知る痛み。
これは本腰を入れて【異世界ショップ】のレベルを上げて布団や枕を手に入れなければ。
ベッドもひどかったがトイレもひどかった。
小をする時は気にならなかったが、大の時。
壺の上に空気椅子方式でいたす。
涙が出たね。
幸いにも【異世界ショップ】でトイレットペーパーは手に入っていたので、葉っぱか藁か何かで尻を拭くはめにならなくて済んだ。
トイレ内の角にそれらがあったので、たぶんアレで拭くんだろうけど、アレで拭いたら尻がクラッシュしていたこと間違いないな。
なのでトイレットペーパーはハルトとマモルに感謝された。
彼らは自分のスキルの検証を優先させているために【異世界ショップ】のレベルをそこまで上げていなかった。
俺は【異世界ショップ】のレベル上げをするために、日常で使えそうなものをまとめ買いしていたのでそれを二人に渡していた。
それが役に立ててよかった。
朝食は昨日の夕食方式を持って摂ることができた。
アメリが俺達のテーブルに朝食を並べ終わったところでマモルが【隠蔽魔法】で他から俺達が見えないようにし、俺がまたタッパーを用意してそれに詰め込んでから【アイテムボックス】に収納。
それから【異世界ショップ】で朝食を用意。
飲料各種パン各種おにぎり各種。
【異世界ショップ】も慣れてくると色々試したくなる。
で、試した結果、【アイテムボックス】と連動出来た。
【異世界ショップ】で買ったものはそのまま【アイテムボックス】に入れることが出来たし、【アイテムボックス】に入れていたお金を【異世界ショップ】で引き落として使うことが出来た。
いちいち入金の魔法陣や商品出現の魔法陣が出なくなるので比較的穏便に商品が買えるのはありがたい。
アレ、地味に恥ずかしいんだよな。
そう考えると【聖女】スキルを使った時の地味さったらないな。それがありがたく思えてくる不思議だ。
朝食をとりながら今日の予定を話し合った。
「じゃあ、商業ギルドで商隊がいつ動くか確認して、ダメだったら個人で馬車買って移動ってことで」
ぼんやりしてたらそんな感じに決まってしまっていた。
商業ギルドで商隊の話を聞けたら聞いて、2~3日以内ならついて行かせてもらうように頼みこむ。
ダメだったら馬と荷馬車を買って北大陸側の港まで行く。
俺個人としては馬と荷馬車を買って移動した方が早いし気疲れとかしなさそうで良いんだけど、シロネ達は早さより安全と情報収集が大事だと言う。
なによりハルトとマモルが商隊に便乗する事に乗り気だった。理由が「異世界っぽい」「こういうイベントは一回経験しときたい」とかいうノリ。
たぶん後から「飽きた」とか「もうしんどい」とか言うと思う。そうなっても俺は知らない。
朝食を食べ終えたなら早速商業ギルドへ。
ギルドギルドと何げなく話題にしていたが、ぽいよね。
異世界っぽい。
微妙にワクワクしちゃうよね。
宿を出る前に、シュラマル達からステータスを見せられた。
結局聞いていなかった俺達だったのだが、奴隷になった以上今後何かあっても困るので、自分たちの能力を理解していてほしいと言われたので、きちんと見ることに。
よく出来た奴隷さんである。
―――――
焔鬼の重魔戦士 シュラマル Lv.68
HP 1112
MP 144
スキル 教養 苦痛耐性 騎馬術 騎竜術 護衛術 重装備 大剣術 戦斧術 長槍術 大盾術 拳闘術 戦術 火魔法 土魔法 咆哮 夜目 鬼化
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スカウト マーニ Lv.22
HP 345
MP 59
スキル 識字 計算 索敵 忍足 脱兎 苦痛耐性 身体強化 短剣術 双剣術 槍術 弓術 罠術 半獣化 解体 薬学
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歌劇役者 シロネ Lv.30
HP 453
MP 77
スキル 教養 苦痛耐性 騎馬術 騎竜術 歌唱 演劇 変化術 幻術 短剣術 暗殺術 護衛術 半獣化 索敵 夜目 解体 木工 細工 裁縫
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思った以上にすごいスキルを持った人たちだった。
それをみんなで確認した上で、どうのと言うのはなかった。
ハルトとマモルも「そうなんだ、すごいな」くらいしか言わなかったし、俺にしてもそう思ったくらいでどうコメントしていいかわからなかった。
「なので、護衛とかがんばれます! 索敵も出来ますので魔物の接近とかも気付けます!」
マーニがとてもやる気に満ちている。
シュラマルも重く頷いているし、シロネは…ニコっとしている。
「うん、じゃぁ、その時はお願いしますねー」
マモルは適当に流してるけど、いいの?
なんか言わなくて。
やる気出してる人にそんなんでいいの!?
かと言って俺も言えないけどね!
なんとなく気まずいまま商業ギルドへと辿りつく。
ハルトが道行く人に商業ギルドの場所を聞いてくれたのですぐに見つけられた。
この建物も石造りでとても大きかった。
中に入ると横に長く、奥行きのないスペースが広がる。商業ギルドってくらいだから奥が倉庫になっているのかもしれない。扉もいくつかあるから商談に使える部屋もあるのかも。
手前の受付っぽいとこにハルトが早速突撃をかける。
頼れる勇者ってこういうのだと思う。
マモルはハルトを見て大丈夫そうだと判断したのか、建物内に目を向けている。賢者だし、きっと見渡すだけで色々なことがわかるんだろうな。
俺は待ち合いスペースのベンチに座ってコツコツと【異世界ショップ】のレベル上げに勤しむ。
ハルトみたいに率先して人と話せないし、マモルみたいに観察して何か情報を得ることも出来ない。
だったら俺が今できる事と言えば【異世界ショップ】のレベル上げだな。
今買える範囲の日常で使えそうなものとか、物々交換の足しになりそうな物を買いまくる。買うのは簡単だけど、チョイスが難しい。いらない物を買いまくっても【アイテムボックス】の肥やしになるだけだし、だったら使える物がいいよな。
それにレベル上げだけの為にずっと買いまくってたらお金無くなるし、売れそうな物選んで買っとかないとだ。
【異世界ショップ】はレベル4までは買える商品のみズラズラと書かれていたのだが、レベル5の段階で
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【異世界ショップ】Lv.5
おおよそ100均で買える物
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とステータスには記載されるようになった。
スキルから選べばそのまま買い物画面となる。
で、現在はそこからさらにレベルが上がり、
―――――
【異世界ショップ】Lv.9
100円以内で買える物
―――――
となった。
これには生鮮食品も含まれる。
もっと詳しく確認すれば、100円以内で買えるサラダや総菜、果てはアプリまで買えちゃう事になっていた。
今後アプリがどう関わるのかは分からないが、【異世界ショップ】の守備範囲は広そうだ。
そして当然【異世界ショップ】のレベルが上がるごとに、レベルが上がるまでのMP消費も増えるので、なかなか面倒だ。
未だ個人のレベルが1なので、MP366とMP半回復効果の【聖女の慈恵】でやりくりしている。
こんな感じでせっせと【異世界ショップ】のレベル上げをしていると、
「マジッすか! ありがとうございます!」
とハルトのテンション高めな声が、さっきまでいた受付の方向じゃないところから聞こえた。
さっきまで受付で商隊のこと聞いていたと思ったら、出入り口扉の脇の窓際でおっさんと話していた。
そのおっさんに礼を言って別れ、笑顔でこちらに向かってくるハルト。
「おい、やったぞ! 丁度明日発つ商隊に入ってる商人の人が居て、交渉出来た! 連れてってくれるってよ!」
うちの勇者、仕事が早い。
「さすがハルトだねー」
マモルも素直にハルトを尊敬のまなざしを持って褒める。
さすが賢者だ。
「おう! 野営道具や食料は自分たちで用意、見張りも交代で出すことと、自分の身は自分で守ることと、荷車二つ分の荷物の運搬に、荷車1つ守ることが条件だってよ」
「これって普通?」
ハルトが出された条件を言うと、マモルはすぐに奴隷3人に常識を聞く。
「荷車二つ分の荷物の運搬以外は常識の範疇かと思われます」
「ゆるい感じの護衛、ですかね」
俺達は冒険者でもないのに、なぜ護衛役としてついて行かせてくれるのか。
ちょっと心配になるな。
「良い条件というわけではないッスけど」
「そっかー。初めてにしては無難に商隊についていけるってことかな?」
「だな! 荷車二つ分の運搬に関しては報酬が貰えるぞ。それは俺が運ぶから大丈夫だ」
その後のハルトの説明によれば、「【アイテムボックス】が使える」と言ったことで交渉出来たらしい。早速の暴露でマーニはオロオロしたっぽいが、何かあっても自己防衛出来るとハルトは判断して交渉したとか。
その運搬の仕事に関してはハルトに任せることにした。
【アイテムボックス】を持っていると知られるといろんな人から声をかけられると聞かされた俺とマモルは黙っている方針だ。
基本人見知りなので。
それからハルトが商隊の商人から聞いた話では、ここから北の隣国、サイネラ王国まで7日、そのさらに北の国、シャローロ・ラ・スヴィケまで10日、そのシャローロ・ラ・スヴィケの北側の港町まで7日掛る。
そこから2日、航路を辿れば北の大陸の港町がある帝国に着く事が出来る。
それまでの道のりでは最短距離をはかりつつも出来る限り町や村に寄るらしく、そこで水や食料を買うことも出来るのでそんなに多くの食料をここで準備する事もないだろうということだ。
見知らぬ世界で1カ月近くの慣れない長旅。
ハード過ぎないかい?
とマモルを見れば、キラキラと目を輝かせていた。
勇者と賢者の好奇心がエグい。
当男子高校生には不安しかないんですが。
「では、この町では数日分の水と食料を買えば充分、ということでしょうか?荷車ということは馬車ですよね?馬用の水や食料はどうするのでしょう?」
「馬用の水や食料はあっちで用意するって。オレらの食料は…」
「この町ではいらないかなー。自分たちで食べられない物をわざわざ買ってもねぇ」
「ここまで来る間屋台とかあっただろ?そこは?」
チャレンジャー悠聖、勇者してる。
「あまりお勧めできない匂いではありますが…」
マーニが控えめに忠告をくれた。
にもかかわらず、このあと勇者は好奇心を抑えきれず、撃沈していた。




