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001 召喚と放逐

 


 酷い話もあったもんだ。




 その酷い中でも、交渉次第ではなんとかなるもんだな、と思えなくもない。

 アレが交渉と言える物かはさて置いて。



・・・・・・・・・・



 よくあるクラス転移というヤツに巻き込まれた。

 クラスと言っても全員ではなく、早めに登校していた生徒十数人ぐらい。


 今朝登校してクラスに入った途端に魔法陣っぽいモノが足元に現れ、あっという間に知らない場所。


 そして周囲を厳つい格好をしたおっさん達に囲まれている状況、っと。


 召喚直後の説明を俺の主観を元に簡単にすれば、俺達を召喚したのはローザング聖王国という胡散臭い国のトップである“聖王”自ら。


 その胡散臭い聖王が言うには現在、世界的に魔物が多く蔓延るようになり、各国の騎士団や冒険者、各村の自警団らの討伐では間に合わなくなってきており、魔物による被害が過去に類を見ないほど出ている。

 よって過去の文献や伝承にある異世界の聖女を、神託を得て複数召喚する事になった。この召喚は一方通行であり、還すことは出来ないが、代わりに何不自由ない生活をこの聖王国が保証する。


 というなんともヒリヒリする召喚。


 まず神託と言うのが胡散臭い。

 一人二人ならまぁ納得出来なくはないが、小さくても集団を異世界から“召喚”という言葉を使って「この世界の為に別世界からいっぱい誘拐して良いよー」とか神様が言うか?

 もし神様が神託で俺達を指定して召喚という名の誘拐をしろと言ったのなら現状、これほどまで危険な召喚は勧めないハズだ。


 俺達……と言うより、うちのクラスの女子はわが校でもなかなかに危険なお人らであるのに。

 これからの事を考えると、「今後彼女等と接しなくてはならないこの国のお人らご愁傷様です」という感想を抱いてしまう程度には、ガラも態度も精神攻撃もアレだ。


 なので神託ではないだろうな、とは薄々思ってしまう。


 で、神託ではなくこの人らの判断の下、俺らを召喚したのなら、聖王サマってのはこの召喚という行為によほど自信があるんだろうな。

 召喚されたヤツがとんでもないヤツだったらどうすんだよ。

 むしろこのとんでもないヤツが複数いるこの状況、どうすんだよ。俺知らないよ?

 ってのが今の状況。



 俺達が召喚されたこの空間は、“召喚の間”と呼ばれている広間。

 俺達はまだそこから動いてはいない。


 俺達がいるところから少し離れたところに居る、聖王だという、どこかヤな感じの雰囲気を放つおっさんの周囲は、全体的に白い装備で身を固めた騎士っぽい人だったり、魔法使いっぽい人だったりでガチガチに固められている。


 後で聞いた話によると、白い装備の人らは聖騎士と聖法術師とかいう人達だということだ。

 とりあえず聖ってのをつけたい感じの人らかな?


 その人らからの現状説明が軽く済んだところで


「聖女、こんなに要るか?」


 と、ごもっともな感想が、クラスの女子の中でもすこぶるガラの悪い久賀山(くがやま)ちなから出る。


「てかこれ、異世界的な誘拐だよね? どう責任とってくれんの?」


 久賀山の感想に相槌を打ちつつ責任問題を問うのは 久信(ひさのぶ)エイミ。


 ですよねー。

 どーしてくれんじゃワレ。


「当然帰還方法はあるんですよね? じゃなきゃこんなに堂々とバカみたいにこの人数、この世界と何の関係もない他の世界から誘拐したあげく、身勝手な要求などするわけないですものね」


 とは周防まひろの言葉。

 俺が聖王なら心が折れそうな感じだが、召喚された側からすれば言いたい事はよくわかる。


 あとさっき、「召喚は一方通行で帰る方法などない」という説明を受けた気がするんですけど、聞かなかった事にするのかな?

 周防って俺より頭いいからわかってない事は無いと思うんだけど。


 あ、いや、これたぶん脅しか。帰還方法を探せ、さもなくば正当性を持って暴れるぞ。というやつか。

 危うく言葉のまんま受け取るとこだった。

 恐るべし周防。大人な会話をしてらっしゃる。


「……って、おい、男子。黙ってねーでお(めぇ)らもなんとか言えよオイ」


 一連のやり取りにずっと黙っていた俺達に久賀山がガラ悪く話を振るが……。


 おほう。

 今更ながら異世界来てもパニくるとかもなく、マジ平常運転の女子たち。

 恐ろしいぜ。


 いや、おかげでこの異世界に召喚されるという、まさかなファンタジー状況下であっても俺が冷静でいられるのも確かだけれどもね!


 相手方の文官らしき人物が、軽くこの現状と場所の説明を終えたところですぐさま女子がマウント取りに掛ってくれたおかげでのんびり傍観していられたが、こうしてご指名掛るとさすがにうろたえてしまう。


 異世界の人にうろたえずにクラスの女子にうろたえる俺ってのもアレだがな!


 で、俺も含め男子が言い淀んでいる隙に、機を見た異世界の文官っぽいおっさんが、声を上げてた女子らに向かって気持ち悪い感じの爽やかさを装った笑顔で声をかけた。


「まあまあ、聖女様方。どうかお気をお鎮めください。聖女様方が不安になるのも、これは誘拐だと勘違いなさるのも分かります。確かにそのような捉え方もあるかと存じますので」


 俺はともかく女子たちが不安に思っているかどうか問われれば、疑問に思う。

 この状況にあってもうちのクラスの女子達は平常運転だし、むしろいい攻撃相手を見つけたとばかりにイキイキして見えるのは気のせいではないはずだ。


 そしてここで少し説明をすると、この場に召喚されたのは、クラスの女子9名と男子は俺を含め3名の計12名。

 男子率が低いのは、もともとうちの学校は男子が少なく、うちクラスにも男子は片手に収まる程度の人数だというのも影響していると思う。


 俺達が通っている学校は少し特殊で、専門性はないものの、社会科見学や校外学習が結構盛んなのが売りの私立校。

 学習内容も女子受けしそうなカリキュラムが盛りだくさんというのが女子率が高い感じになっている。


 で、なんでそんな学校に俺が入ったかと言えば、母さんがそれを望んだから。

 俺自身、とくに行きたい学校もなかったので、母におすすめされるままに進学したという、ただそれだけ。


 母曰く『社会に出てから為になる授業がたくさんあるし、進学するにしてもしないにしても、ここで少しでも社会に触れられるのはいいと思う』という理由らしかったのだが……。

 社会と言うか、このままじゃ異世界の社会に進出なんですけど。母さん、俺、どうすれば……。


 と、少し遠い目になったところで、現状に戻る。


 文官っぽいおっさんが『聖女様方』と呼ぶ女子達は、おっさんの言動にかなりイラついているご様子で、グイグイ言葉の揚げ足を取って責め上げている。


 そんな文官っぽいおっさんの様子を見て聖王と呼ばれるおっさんや聖騎士と呼ばれる真っ白な甲冑を着た人達も若干引いている風に見える。


 そんなやり取りを俺は冷静に静観する。

 決して状況(女子たちの召喚主に対する猛口撃)にビビって内心オロオロしているわけではない。

 状況把握に徹しているのだ。


 うそ、マジちょービビってるよ俺。


 どーしよ。うちのクラスの女子勇ましすぎるし、異世界召喚とかマジこんな事あり得るのかよ!? サラッと説明聞いた限りではもう家に帰れないとかマジ最悪あり得ないんですけどあれ? これもしかして夢かなオロオロ。


 オロオロしている視線の先、ふと隣を見れば俺と志を同じくした仲間達(メンズ)が俺と同じような挙動をしている。

 さすが同志だ。

 オロオロしている。


 異世界ビビるよねー。女子こわいよねー。

 どちらもいろんな意味で。


「というわけで―――」


 俺達がオロオロしている間に、割かしイケメンっぽい文官と騎士たちがさらに詳しい説明をするので、という理由で女子を伴い、ゾロゾロとどこかへ移動しようとする。

なにが「というわけで」に該当するかは分からないのだが、女子のもっともな口撃こうげきにこのままじゃ埒が明かないと適当に切り上げた感じがしなくもない。


 そんな集団に俺達もなんとなく付いて行こうとしたとき、横から真面目そうな文官っぽいおっさんが俺達男子三人の前に立ちふさがった。


「すまないのだが、あなた方は聖女召喚の際の手違い、もしくは事故で致し方なく招いてしまった方々。こちらに招いてしまった以上、元の世界に還す事は叶わず、心苦しいところではあるのですが、こちらとしても多数の聖女様をお招きした以上、聖女ではない余計な方々のお世話に予算も人も割く余裕はないのです。重ね重ね申し訳ないのですが、こちらの世界でひっそりと質素に生活していけるだけの費用をお渡ししますので、貴族街の片隅か下町で大人しく暮らすなり、どこへなりとも行くなりしてくださいませ。健やかなる生を。それでは出口はあちらになります」


 そう言うなり俺達三人それぞれに、ジャラリと音のする、金が入っていると思しき革袋を押しつける。

 押し付けられた革袋を無意識に受け取ってしまう俺達。


 これまた突然の事に何を言われているのかポカンとしていると


「おい、それはどういう了見だ? なんで男子をここで引き離す? てかウチらがなんで見も知らないおっさんらに大人しくついて行く前提なんだ? クソキモ!」


 久賀山のガラと態度の悪さはさておき、とりあえず俺がちょっと思った疑問とそれ以上の言葉を代わりに言ってくれるありがたさよ。

 こういうところ含めてうちのクラスの女子ってすごいなって改めて思う。

 こんだけ武装した集団の中においても、理不尽な異世界人に対する態度は変えない。それはとてつもなく危なげではあるものの、ちょっと感動してしまう自分もいる。突然の事に感情がマヒしてるってのもあるんだろうけどさ。


 ちなみに女子がこんな感じではあるものの、このクラス、他のクラスと違っていじめとかないのが不思議。

 こうしてわけのわからない状況でもなんだかんだ庇ってくれるところがある。

 ガラ悪いけども。


 と、脱線したところで現実を直視。


 周囲を白甲冑達に囲まれた聖王が、怒りを滲ませた慈愛に満ちた笑顔で女子達と文官のやりとりを静観するような眼差しを向けている。随分器用に表情筋を動かしてる。

 火に油注ぐじゃないけど、そういう視線と表情を向けても余計女子たちの癇に障るだろうな、と同情する。


 それでも賢明だと思えるのはそこで言葉を掛けないということだろうか。

 この状況で言葉を発したら文官やら騎士やら家臣なんかがいる前でボロクソこきおろされていただろう。

 寛容な態度をとっている風に見せてるけど、一筋縄ではいかなそうなガラの悪さや、態度の女子達を聖女として扱わなければならない事や、聖王的にはゴミ同然みたいな俺達への対応などで内心めちゃくちゃイラついているのが透けて見える。

 聖王サマなんてやってるくらいだから顔色を隠すくらい訳ないハズなのに、コレなんだから相当なんだろう。


 そんな聖王の顔色を窺い見て、代わりに文官が口を挟む。


「失礼ながら聖女様。我々の態度にご立腹であったなら大変失礼いたしました。こちらとしても急ぎ過ぎていたとは思いますが、じっくり説明するにしても別室でゆっくり腰を落ち着けてからと思ったもので……」


「で? それが何でコイツ等にカネ押し付けて追い出してウチラだけ別室という流れになるんだ?」


「それは……大変心苦しいところではあるのですが、この者達は召喚した覚えがない、という判断になるものでして」


「はぁ? なんだソレ? ふざけ過ぎだろ? 勝手に召喚しといてやっぱ違うから追い出すのか、あ? ナメてんのか? あ?」


「わ、我々は聖女様方に対しては敬意も時間も予算も人も掛けられます。しかし、必要のない者にまで掛ける事はできないのです。それでもこれだけの金子(きんす)を支払うだけでも充分な誠意を見せたと思うのですが。それにこちらにも沽券というものがございます。なんの役にもたたぬ者に対して、この聖王国が聖女様方と同様の対応と言うのは……」


「だからそれが勝手すぎんだろって言ってんだろ、オイ」


「というか、このやり取りをわたしたちとその人達でしているというのはどうなの? 当事者であるこの三人は黙ったままなのですが」


 久賀山と真面目な文官っぽいおっさんのヒリヒリするやり取りに口を挟むのは周防。


 うは。

 みんなの視線がこっちきた。


「あぁ? オイ、マジかよ、未だだんまりかよ、アホかよ? お前らもふざけてんのか? お前らの事だぞ? ウチがお前らを心配してやりあってやってんのによぉ」


 俺らを心配? いやいや、それをもっともな理由にしているけど、実際はイキイキ文官らの揚げ足取って責め立てていただけでは……?

 とは言えないので、これもまた黙って苦笑いで流しておく。


「フン、聖女様に庇われていいご身分だな」


 少し離れたところで下っ端っぽい文官からぼそりと漏れ聞こえる悪口。

 これまたいい口撃相手を見つけたと言わんばかりに今まで様子をうかがっていた女子、日下(くさか)日和子(ひよこ)が汲みとってしまう。


「ねぇ。それって、あなたの方がこの三人よりご身分が上って事?」


「え? いや、それは……」


 自分の発言に急に女子から返答があってビビる下っ端っぽい文官。


「あなたは王族かなにか?」


「いえ、そんな恐れ多い身分ではございません……」


「じゃぁそんな恐れ多いご身分の彼らにどうしてそんなことが言えるの?」


「へ!? か、彼らは王族……!?」


「違うけど」


 突拍子もない事をいいつつ、平然と違うと言い放つ日下。

 俺もそうだが、下級っぽい文官もさらに混乱している。

 なんだよこのカオス。


「なっ……」


「知らないであんな事言ったの? この国大丈夫? 適当にアタシたちを召喚してそれがもし、その世界に置けるロイヤルやセレブだったらどうするの? それでなくともこちらの了承も得ずに身勝手に召喚するとか色々頭おかしくない? 信用できないなー。アタシたちを適当な言葉で言いくるめて良いようにコントロールしようとしてるのはわかるけど、それにしてもこっちをバカだと思って見下してる感が隠しきれてないって言うかー、最悪武力行使で言うこと聞かせようとしてるのが予想できるって言うかー」


 マジか、そこまで感じ取れていたのか。

 さすが聖女として召喚されただけあるってことか?

 それとも地頭の良さか。

 ……後者だろうな。

 全然自慢にはならないがうちのクラス、自分に正直者が多すぎて素行は退学ギリギリモノでかなり悪いのだが成績だけは他のクラスの平均よりかなりいいからな。

 そんなクラスの平均を下げているのは、他のクラスの平均を取っている俺というのは肩身が狭いのだが。みんな、ごめんよ。


「そ、それは……」


 いよいよもって下っ端っぽい文官が言い淀んでいると、別な文官がフォローに入った。


「聖女様、この者が大変失礼いたしました。いえ、私もですね。そちらの方々や聖女様方のもともとの身分も知らず対応しておりました。今後このようなことが無いように気をつけましょう。……今後があればですが。しかし、実際高貴なる身分ではないとのこと。こちらとしては何の落ち度はなかったというわけでございます」


「へー、そういうスタンスは崩さないってわけ。そうだよね、こっちに召喚されちゃったら元の世界の身分なんて知ったことではないもんね」


 日下の目が据わり、いよいよ舌戦でもはじめようかとしているなか、他方では周防が先ほど久賀山が噛みついていた文官に追撃を掛けている。


「沽券と野蛮を履き違えてもらっては困ります」


 金だけ手渡されて放逐されそうになっている俺達に流し目しつつ、文官を見据えて言う。


「こちらとしては勝手に誘拐しておいてやっぱり違ったからと金銭のみを渡して放逐というのはいささか野蛮が過ぎると思わざるを得ません」


「なっ……我々を、野蛮と!?」


「かといってそちら側にとって不必要な者を何も居座らせろとも言ってませんけど」


 自分等の状況は受け入れている感じに言ってるのはどうなの周防。

 聖女するのは受け入れるのか? そんな素直だったっけ? それともまたなにか企んで、気に入らない大人でも引き摺りおろすとかか?


「で、では……」


 野蛮と言われたことに今にもブチギレそうに青筋立てているが、ギリギリで耐え、対応する文官。

 頑張れ。


「彼らにそのお金の他に生活に必要な物を誠心誠意取り揃えた上で放逐するのであれば少なくともそちらは招かれざる客人に対して礼をつくした事になりませんか?」


 俺らの放逐は容認する、と。

 釈然としないでもないが、周防が言うと、なにか策でもあるのかと受け入れてしまう程度の信頼はある。

 周防ってばクラス委員長だしな。


 周防の思惑はさておき、おかげで金だけ渡されて放逐は免れられそうだ。


 この世界の知識も常識もないまま急に放逐されても困りますー。


 で、野蛮扱いされた国側の重鎮たちが、ボソボソと話し合い、とりあえずやっぱり女子と男子は離される。

 久賀山たちがそれには文句を言うが、周防が押さえ、とりあえず詳しい話は聖女とされる女子にしか話さないと言うならば一応受け入れましょうと場を収めた。


 ここで女子と男子を執拗に分けようとしている聖王国に対して様子を見ようとしているのかな。

 俺としてもこんな状況でここに留まろうとは思いづらいので、少しでも慰謝料を上乗せされるのは願ってもないことだ。


 女子と引き離されてしばらく。

 俺達男子三人は召喚の間でしばし待たされ、文官がどこかから持ってきた茶色い肩掛け鞄をそれぞれに渡し


「それではこちらの騎士が出口まで案内する。聖女様方の心遣いに感謝し、出ていけ。この国で面倒を起こしたのなら即座に消えてもらうからな」


 イライラを隠しもせず、そんな事を言い放ち背を向け行ってしまう。

 そこまで邪険にしなくてもなー。

 あと消すって……え、暗殺されんの俺達!?


 そんな不安を抱えつつ大人しく、これまた感じの悪い騎士にすごすごとついて行き、召喚の間を出て、城っぽい敷地から追い出されるように放逐された。






 ここまで召喚されてから1時間とちょっと。


 状況に流されここまできてポイされるとは思わなかった。

 人生何があるかわからないね。


 とにかく、状況的には泣きたいわけだが。


「なぁ、オレらってさー」


 改めて言葉を発したのは、ずっとここまで黙っていた男子その1、勇希(ゆうき)悠聖(はると)が茫然とした面持ちでぽつりとこぼす。


「……そうだねー」


 それに相槌を打ったのは男子その2、賢聖寺(けんじょうじ)真守(まもる)がぼんやりと同意。


「まだなんも言ってねーけどな」


 そんな二人のやり取りに、男子その3こと俺、聖園(みその)清司(せいじ)が気の抜けたツッコミをいれる。


 ハルトは俺よりも少し身長が低く、「可愛い」の許容範囲くらいのぽっちゃりした体形(幼児体型とも言える)で、比較的誰にでも可愛がられる見た目をしている。

 本人はそれを充分理解した上で、女子が多い我が校の学校生活をうまくこなしている。


 マモルは俺より身長が高く、ガリッとしている、いわゆるヒョロガリ系。見た目通り体力はないが、割と顔は整っているし、性格は温厚。あまりに細い為、女子に「隣に並びたくない」と理不尽なクレームを受ける事しばし。その割にはモテる不思議。


 そして俺だが、良くも悪くも中肉中背の普通顔。目つきと背筋と発声と発言がひねくれ気味なために、ときどき他人からはゴミを見るような目で見られることがある。


 自己紹介でまた涙が出そうになった。

 危ない危ない。


「んー、アレだな。これからどうする」


 僭越ながら俺が仕切りだしてみる。


「だな。こちらの生活事情など全く聞けることなくほぼ理不尽に放り出された感じだし。唯一理解出来たのは、オレらはヤツらにとって不要な人材でただただ異世界誘拐された上に捨てられただけの人間ってことだな。泣けるな」


 そうだな。泣く時は俺も共に泣こうと思う。是非とも誘ってくれ。


 ふわっと仕切り出した俺に反応を返してくれたハルトの説明に全てが集約されてしまった。


「こう……アレだよね」


「アレだな」


 ハルトの説明を聞き、ゆっくりと天を仰ぎながらしみじみと感慨深げに中身のない言葉を発するマモルに、謎の同意を示すハルト。


 仕切りもなにも必要が無いほどの情報量の少なさに、どうしていいかわからない状況。


「とりあえずアレだな。このままじゃアレだし、今日泊まるホテルでも探すか」


 仕切りがハルトに代わった。

 “アレ”の連呼に誰も突っ込めないくらいには現状しっかりと動揺しているし、混乱している俺達。

 ここで騒いだりしないのが草食系男子クオリティーなのだ。たぶん。

 混乱に身を任せて騒ぎ立てる勇気もないしな。ははは。


「だな」


「だね」


 俺とマモルはハルトの案に乗ることにした。


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