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ステータスALL1

「それでは、ハヤトさん。これより、貴方(あなた)のステータスとスキルを【鑑定】致します。心の準備は(よろ)しいですか?」


「は、はい。よろしくお願いします」


「いいでしょう。では、いきますぞ? ……むむっ、むむむぅ……」


胸の前で手を組んだ神父は、神妙な顔で目を閉じて、何やら(うな)りだす。


おそらく【鑑定】のスキルを使ってるんだろうけど、こんなに集中しないと駄目なのか?


だとしたら、クラスメイト全員分って、結構な負担になりそうだな。


そんなことをぼんやり考えていると、やがて神父は(ひたい)に汗を浮かべて、閉じていた(まぶた)を開いた。


「失礼。どうやら、貴方(あなた)のスキルは前例の無い未知のスキルだったようです。【鑑定】のスキルは未知の存在に対しては消耗が激しくなりますのでな。時間が掛かってしまいました」


「は、はぁ。それは、お手数お掛けしました」


なるほど、道理で様子が変だと思った。


でも、未知のスキルって事は、使ってみないと効果が分からないって事か。


前例のないスキルなんて特別感があって、テンションが上がるけど、別に強力なスキルだって確定した訳じゃないもんな。


もしかしたら、歴史に名が残るくらいショボいスキルかもしれない。


とにかく、後は使ってみての、お楽しみだな。


貴方(あなた)の固有スキルの名は【能力値リセット】。効果までは判断できませんのでな。ご自分で解明して下され。そして、ステータスですが……」


何故(なぜ)か、そこで言い(よど)む神父。


その浮かない顔を見れば、誰だって嫌な予感に襲われるだろう。


そんな不穏な空気が伝わったのか、今まで騒がしかった教会内がシン……と静まり返る。


俺を含めて、誰もが神父の次の言葉に耳を傾けていた。


「その……誠に申し上げにくいので、ご自分で確認して頂けますかな? 【鑑定】が終われば、いつでも自由に能力を確認できますので。心の中で【ステータス】と念じてみて下され」


「わ、分かりました」


突き刺すような周囲の視線に耐えかねたのか、こちらに話を投げる神父。


その言葉に従って、【ステータス】と念じた俺は、あまりの驚きに目を見開いた。


目の前には、俺にだけ見える文字と数字が浮かび上がっている。


ただし問題は、その現象ではなく、内容の方だ。


その数値は、(あらかじ)め聞かされていた目安よりも遥かに低い数値だったんだから。


「……ねぇねぇ。ハヤト。どうだった?」


俺を心配し、気遣(きづか)っているような声音が隣から響く。


しかし、振り向いて見た、サユリの笑顔からは感情が全く読み取れなかった。


俺は、この顔を良く知っている。


サユリが他人を値踏みする時の顔だ。


「あっはは……。なんか、俺のステータス、大した事ないっぽい。まいったな、こりゃ」


とはいえ、嘘なんて()いた所で、サユリは確実に見抜く(はず)だ。


俺は正直に自分のステータスを告げた。


その誠実さが、きっと自分の身を救ってくれると信じて。


――けど、


「あっそ。じゃあ、ここで、お別れだね」


「……えっ?」


俺は誰よりも知ってたハズなのにな。


サユリが、どんな人間かってことを。


「いやぁ、お人好しのハヤトとツルむのも悪くなかったけどさ。やっぱり、これからは強さがモノを言う訳じゃん? だ・か・ら、無能になったハヤトは、お役御免(ごめん)ってこと。恨むなら自分の無力さを恨んでね〜」


そんな残酷(ざんこく)な言葉を突き付けているにも(かかわ)らず、サユリからは悪意というものが全く感じられなかった。


むしろ、その笑顔は純真(じゅんしん)無垢(むく)な子供のようで。


今までに見た、サユリのどんな悪人ヅラよりも、おぞましく見えた。


「は……ははっ……。で、でも俺には、まだ希望が残ってる。俺には未知のスキルが……」


「えー、でも未知のスキルなんて、怖くて使えなくない? 下手したら使った途端(とたん)に死んじゃうかもよ?」


「そんな訳あるか! いいから黙って見てろ! 俺だって……俺だってなぁ!」


そして、俺は、ヤケクソ気味にスキルを発動した。


その瞬間、まるで世界が停止したような感覚を覚える。


それと同時に体から力が抜けて、思わず(ひざ)を付いてしまう。


「な、何が……」


「うわっ、本当に危ないスキルなんじゃないの? ていうかソレ、他人にも移ったりするんじゃない?」


サユリだって、スキルの内容を知らないんだから、何の根拠も無い発言だ。


だけど、それは、俺も同じ。


反論できる根拠なんて持ち合わせていない。


その結果、


「ウッソ、マジで!? ヤバいじゃん離れようぜ!」


「おい、無能! 俺達は、この世界の未来を担う英雄候補様だぞ! 近寄って足を引っ張ったりしたら、ぶっ殺すからな!」


「うーわ、カワイソ〜。せっかくの異世界なのに、こんな目に合うとか」


「じゃあ、アンタ助けてあげれば? アタシはゴメンだわwww」


サユリの言葉を信じた(あるいは万が一のリスクを恐れた)クラスメイト達が、一斉に距離を取っていく。


その目は、どれも同情や(あわ)れみ、嫌悪といったマイナスの感情一色に染まっていた。


……もう、この場所には居られないし、居たいとも思わない。


俺は、ふらつく足取りで何とか教会を後にした。


だけど、それから更に大変な事に気付いたんだ。


なんせ、改めてステータスを確認した時、その数値は全て1になっていたんだから。

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