錬金術士マチルダ
私は錬金術士のマチルダと長話をしていた。
雑貨屋の亭主から、もう1つサイクロプスの眼球を売る相手として彼女を紹介された。
「まぁっ!?サイクロプスの眼球なんてしばらく見てないわね。高いからウチには入ってこないのよ。」
「なかなか手に入らないんですよね。しかし、錬金術士の方は、サイクロプスの眼球をどう扱うのですか?」
私は彼女の話から錬金術に対する興味が尽きず、眼球の対価は彼女の知識と、数冊の錬金術関連の本、という事で手を打った。
もっとも、本に関しては字が読めない。
少しだけ材料を使わせてもらったが、最初にしては良い薬が作れた。
香草と諸々の有機物があげる煙が、少し目に滲みる。
換気をしないと、具合が悪くなるかもしれない。
「最初は風邪薬、下剤、視力を上げたり、力が出てきたりする、簡単な薬から作ってみると良いかもしれないね。腕が上がれば、解毒剤、赤ん坊を堕す薬、麻痺毒や気持ちよくなれる薬なんかを作れるだろうね。」
「単純な組み合わせから出来る薬や、複雑な処理と配合が必要な薬など、なかなか面白いですね。」
私はこの錬金術という物の面白さに取り憑かれそうになったが、余りにも長居しすぎたと思う。
「それでは、そろそろ失礼いたします。とても面白いものを見せて頂きました。」
「日中はいつも空いてるよ。たまに居ないかもしれないけど、そん時はそん時だね。」
私は店を出た。
既に外は暗く、宿を探さなければならなかった。
フラフラと歩いてくる酔っ払い。
あの姿、見間違う筈がない。
「また会ったな!へへへ。」
物乞いのタロス。金の匂いを嗅ぎ付ける男。
「また会いましたね。ところで、飲み代はまだ足りますか?実は宿の予約を忘れていたんですよ。探してくれますよね?」
私はズッシリと重くなった巾着の中から銀貨を取り出して、親指で弾いて彼に渡した。
物乞いはニヤリと笑った。
「お任せあれですじゃ!」