密告
おかしい。
突然、この自称太った行商人が、巨人『サイクロプスの眼』を3つも売りに来た。
こんな高い品買えるか!
しかし、行商人はこのバカ高い品をまとめ売りときた。
ウチにそんな金あってたまるものか!
サイクロプスは頑丈な身体、屈強な力、広い視野を持つ。
そして視野を確保する唯一の眼。
冒険者達はサイクロプスの眼を欲しがるが、土壇場になって眼を潰す。
サイクロプスはまさしく巨人。
その怪力を抑え切れず、倒す為に眼を潰してしまうのだ。
首を斬り落とすなんて真似が出来たら、英雄だ。しかも3体。
この商人何者だ?
よほど売り急いでいるのか、眼球2つを大容量アイテムボックスの魔法が付与されたカバンと、金貨25枚でと交渉したら、言い値で売ってもらった。
残りの1つは私が懇意にしている近所の錬金術師に売る為に、顔合わせさせてもらった。
雑貨屋には錬金術に使えると知らずに材料を売る者もいる。
サイクロプスの眼はまさに、ハンティングトロフィーとしても、錬金術の材料としても、魔導具、武器の強化など、貴重なもの。
大いに恩を売れるだろう。
彼は顔を隠している。名前も分からない。
マントを着ているし、笠を外しても頭巾は取らなかった。
これほど怪しくなければ、手放しで喜べるのだが、彼によれば堂々と正門を通ってきたらしい。
頭巾を外さずに?
彼は私にドラグニール家について聞いてきた。
聞いてどうする?
ドラグニール家について聞くのは、この国について知らないという事だ。
普通、王家については親から教わる話だが、この商人はそれが何なのか知らなかった。
最近ドラグニールの貴族がこのシルバーピーチを通って、近隣国との戦いに出たが、何か関係があるのか?
我々を高級品で抱き込み、情報を引き出し、この平和なシルバーピーチに争いの種を持ち込むのならば、私は首領に報告する義務がある。
ここで商売を続けたければ、首領に嘘は付かない事だ。
錬金術師マチルダの所で彼は話し込んでる様だ。
適当に挨拶した後、とりあえず酒場『シルバーダンス』に行き、何か噂がないか調べようと思ったがその必要性は無かった。
物乞いのタロスが先程の商人の事を吹聴していた。
『巨人みたいにデカい身体』『羽振りの良い旦那』『物乞いを救う高潔な商人』『愛想の良い商売』
タロスは路銀に縁の無い男だったが、きちんと銀貨を出して酒を飲んでいた。
きっと、あの商人から貰った金だ。
タロスの話からは悪い印象は聞こえない。
しかし、あの物乞いの事だ。
騙されているに違いない。
私は急ぎ首領の元へ赴き、事の次第を話した。