表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百万一心の先駆け ~異伝吉川太平記~  作者: 一虎
天文一四年(1545) 尼子激闘
100/115

見据える先



一五四五年  毛利(もうり)安芸守(あきのかみ)隆元(たかもと)



吉田郡山城に帰ってきた。年が明ける前に城へ戻ってこれたのは僥倖だ。城下含めて安芸国は戦勝の余韻に浸っている。それほど毛利家にとって尼子家を滅ぼすというのは大きな一歩だった。


城に戻るとあややや母上(毛利美伊)、側室の光殿、留守居役に残っていた上野介(こうずけのすけ)志道広良(しじひろよし))など城に残っていた皆が出迎えてくれた。皆が笑顔だ。私も自然と笑みが浮かぶ。生きて帰ってきたのだと。勝って帰ってきたのだと。


屋敷に戻り鎧兜を脱ぎ、戦で汚れた体を清めて新しい着物を身に付ける。そうしてやっと人心地付いたような気がした。


長い戦だった。だが終わってみれば上々の結果だっただろう。何せあの尼子家を滅ぼし毛利家が出雲国、伯耆国を自領と出来たのだ。やはり尼子詮久を討ち取ったのが大きいだろう。尼子家は旗頭を失ったのだ。尼子家臣が敗戦に納得いかず抵抗しようにもそもそも寄る辺が無ければ集まれまい。

式部少輔(尼子誠久)殿、いや、式部少輔には感謝せねばならんな。


一応、戦への参戦は私から打診していた。新宮党の者たちにとっても尼子家は報いたい仇だった筈だ。

式部少輔からは参戦するという返事をもらったが動かない場合も多分にあるだろうと疑ってもいた。

当然だ。彼らも尼子家の者なのだ。長年我等とは争っていた間柄。敵の敵は味方、こちらに敵意がないなど楽観視が過ぎよう。


美作尼子家には尼子本家と毛利家が互いに潰し合い弱った所をあの新宮党の武力で蹂躙するという手も取れただろう。尼子領には鉄があり、毛利領には銭がある。両方に魅力があるのだ。

それなりに時間は掛かろうが漁夫の利を狙うことは可能だった筈だ。だから参戦すると言いいつつ一向に動きを見せない彼らを当てにするのは止めた。

だが結果として彼らは参陣し尼子詮久を討ち取る大功をあげた。機を見計らって最も効果的に奇襲したのだと次郎が言っていた。憎々しげであったが。それに美作尼子が来なければ吉川勢は破れていたとも。


父上(毛利元就)は美作尼子が大功をあげたことに対して感謝はしつつも迷惑そうにしていたな。当然か。次郎が死なずに済んだことに対しての感謝、毛利家ではない者に手柄を取られたことに対しては迷惑だ。どう報いるか頭を悩ませなければならなかった。


だが、頭を悩ませる必要もなかったな。

あの戦の後、式部少輔旗下、美作国が臣従を願い出てきた。主に式部少輔の意向が大きいらしい。美作守(みまさかのかみ)川副久盛(かわぞえひさもり))も賛成したことで臣従に不満を持った式部少輔の弟たちも黙ったようだ。

『独立して立っていられるだけの器量は俺にはねェ。好きに暴れられるなら毛利に下ってもいい』か。本当に身勝手で、羨ましいと思ってしまう。私が今そんなことを言い出したらどうなるであろうな。


だが渋らずに援助した甲斐があった。毛利家の経済圏に引き込んだのだ。簡単に離れることは出来なくなっただろう。それは備中の三村家も同様だ。貧困に喘ぐ国に惜しまず援助をし毛利家無しでは苦しむように徐々に浸食していく。やり方はあくどいが戦をして血を流すよりはずっといい。


今回、美作の管理と引き換えで元新宮党の武力が手に入る。彼らの面倒を見ればその力が手に入るのだ。決して悪い取引じゃない。従えられるか、という不安が無い訳じゃないが式部少輔と話す限り、話せない男ではなかった。


それに意外だったのは今回の手柄を以って尼子詮久の助命を願ったことだ。

実は尼子詮久は生きている。式部少輔との一騎討ちで当初は死んだと思っていたが私が駆け寄った時にはまだ辛うじて息があった。だから急いで降伏を取り纏めた救おうと思った。

医学の何たるかは私には分からないが相当な負荷や重圧に悩み碌に寝ていなかったらしい。次郎は過労と言っていた。そこで式部少輔との一騎討ちで死を覚悟し、後を式部少輔に託したことで緊張の糸が切れたそうだ。全身にも酷い傷が出来ていたが命に別状はなかったらしい。人騒がせな話だがなんにせよ救えて良かった。座頭衆の角都には次郎に続き世話になった。


私としては生かしておけば毛利家の手で改めて斬首にして責任を追及することも出来ると思ったし、尼子家に属している家臣達の怨恨を和らげることも出来ると思ったからまずは救わねばと思った。戦死では国を守る為に命を懸けたと英雄視される恐れがあったからだ。それだけは避けるべきだと思った。だが式部少輔がその命を救う事に動くとは。


当初、父上や次郎(吉川元春(きっかわもとはる))は詮久の助命は危険だと反対した。尼子が再興を目指す恐れがある。詮久の嫡男共々血筋は断っておくべきだ、という意見だ。

私と三郎(小早川隆景(こばやかわたかかげ))は尼子本家の血筋を毛利が握っておくべきだと主張したことで意見が二つに分かれた。


父や次郎の言い分は尤もだったがそれでも毛利はまだ敵を多く作るべきでは無かった。もし尼子詮久を殺した場合、これから出雲国人衆を懐柔する上で禍根を残す可能性は大いにある。それに口にはしなかったが裏切るまでは信じてやりたいという心情があった。

一度目を覚ました詮久殿と話をした。彼の中で何があったのかは分からないが既に武士でいることに未練は無く、御随意になされよと言っていた。願わくば家族の命だけでも助けて欲しいとも。

父上は憑き物が落ちたようだと言っていた。それを見て詮久殿が既に野心がないと思い助命することとした。


次郎は私と三郎の言い分に納得したが父は最後まで裏切る可能性があるのなら憂いは先に取り除くべきだと主張していた。恐らく尼子家に個人的な恨みもあったからだろう。私が生まれる前に安芸国は尼子家にいい様にやられていた。父上自身も苦汁を嘗めさせられただろう。

私はその時こそ私が責任を持って裏切り者を処罰するから一度目の降伏は許してやりたいと説得してようやく納得して貰えた。父は私に任せると言ってくれた。


だから私はその言葉通り、今回尼子との戦役で備後で尼子方に付いた山名(やまな)豊後守(ぶんごのかみ)理興(ただおき)を中心とする反毛利に傾き裏切った国人衆は斬首、ないし追放処分とした。二度も甘い顔を見せるつもりはないという意思表明だ。内外に知らしめることで謀反の抑止、降伏を受け入れる度量があることは示せただろう。



最終的に詮久は仏門に入ることになった。そして詮久の家族は毛利家で面倒を見る。

まだこの城に詮久殿は匿われているが快復したら竺雲恵心(じくうんえしん)に預けられることになるだろう。

恵心は毛利家の菩提寺である、興禅寺の住持である策雲玄竜(さくうんげんりゅう)に師事している僧だ。私の友でもある。託すに相応しい人物だ。

それにいざ詮久殿が再び野心を持ったとしても家族を人質にすることが出来ていれば何も恐れることはない。取りたい手段ではないが。まあ、詮久殿が最優先にするものは家族だと言うのは話をしていて良く伝わった。今更野心を持ってまで家族を危険に晒すことはないだろう。

それに詮久殿の家族を軟禁するつもりもない。望むのであれば詮久殿の嫡男を元服させることも検討していい。あくまで毛利家の家臣の一家としてだが。


だがまだ終わりじゃない。戦は勝ったから終わりでは済まないのだ。手に入れたものをどうするか、功をあげた者にどう報いるか。戦で死んだ者の家族をどうするか。考えることは山済みだ。だがやらねばならん。それに私自身試したいことがあった。

私室で休ませていた身体を持ち上げ立ち上がる。側に居たあややが立ち上がった私を見ておっとりと首を傾げた。


「どうなさいましたの?」


「父上の下に行ってくる。今後の事を詰めなければならんからな」


「まあ、もう少し休まれたら宜しいのに」


私の言葉に困ったように眉尻を下げながら私を見上げてくる。苦笑が漏れた。


「心配事は早く片付けたい質なのでな、それに先程、其方に話したことも父上に話しておきたい」


「本当によろしいのですか?」


あややが確認するようにもう一度尋ねてきた。私は深く頷く。


「ああ、いつまでも父上に甘えている訳にもいかん。あややにはいつも苦労を掛けてしまうな」


「…仕方ありませんこと。私のことはお気になさらず。私は山口の地で太郎様の真面目で誠実な姿勢に魅かれたんですもの。これくらい気にすることもありませんわ」


あややの言葉に焦ってしまう。どうにもこう、好いた女子に面と向かって好意を告げられると返答に困ってしまう。いかん、顔が熱くなってきたような気がする。実際顔が赤くなっているのだろう。あややが楽しそうに笑った。また揶揄われてしまった。


「返答に困ってしまう。あまり揶揄わんでくれ」


「揶揄うなどと、ふふ。私の言葉自体は本音ですわ。揶揄いたい気持ちが無かったとは言いませんけれど。さ、どうぞ。行ってらっしゃいませ」


「…行ってくる」


敵わんな。好意が感じられる手前言い返せん。羞恥心から逃げるように部屋を出た。あややの方が歳は下なのだがな。やりくるめられてしまう。悔しい気持ちもあるが嫌では無いのもな。男とはこんなものなのだろうか。いや、浮ついていてどうする。父上の部屋に辿り着くまでに切り替えなくては。


私の屋敷から出て先触れを出す。父の屋敷もこの城内にある。歩いてすぐだ。父の屋敷に付くと志道金太郎が玄関先で待っていた。上野介の孫だ。まだ年端もいかぬのにしっかりとしている。すぐに案内された。私室に案内されるらしい。部屋に付くと案内してくれた金太郎が部屋の中に声を掛ける。声が幼い。だがはっきりとした物言いだった。上野介の孫らしい。


「殿、若様が参られました」


「うむ、入ってくれ」


襖が開かれると中には父上と母上、側室の光殿が中にいた。白湯を飲んでゆっくりしていたらしい。相変わらず三人の夫婦仲のよろしいことで。

母上の腕には妹の(さち)がいた。毛利家に、そして幸自身に幸多からんことを、と願われて名付けられた。光殿が産んでくれた子だ。私の妹でもある。可愛らしい。

私も近いうちに父親だ。今あややの腹には私の子がいるらしい。まだ腹は大きくないが後数ケ月もすれば生まれるのだという。楽しみだ。


「お休みのところ申し訳ありませぬ。少しばかりお話したいことがありまして」


三人の前に座ると頭を下げ挨拶をする。話したいことと私が言ったことで政治的な事だと思ったのだろう。母と光殿が遠慮するように立ち上がろうとした。


「母上お待ちを。光殿もそのままに、いて下さって構いませぬ」


「え、良いのですか?」


立ち上がりかけた光殿が不思議そうに私を尋ねる。母上も不思議そうだ。二人に再度頷く。


「光殿は父上の室、言わば家族です。それにそれ程、政の話という訳でもありませぬ。お二人も聞いて下さって問題ありませぬ」


「そうなのですか?」


私が再度止めると光殿の視線は母と父に向けられた。母は早々に座り、光殿の視線に二人が頷くと光殿が改めて座り直す。丁度母上にあやされていた幸が光殿の方に手を伸ばした。母上が幸を光殿に返す。母上は少し寂しそうだ。その母が口を開く。


「お話は宜しいのですが太郎、少しはゆっくりしてはどうです?あやや殿はずっと貴方を心配していたのですよ?」


手が空いたせいで矛先が私に向けられたらしい。部屋に入って早々、私が話し出す前に母上から説教をされてしまう。失敗したか。こうなると母は話が長い。助け船が欲しくて父をちらっと見た。


「まあ、そう説教をしてやるな美伊。太郎の事だ。あやや殿には話を通しておろう。それに二人の仲が良いことは其方も分かっておるだろう?ならば太郎の話を聞こうではないか」


「…そうですね、ですが太郎。あやや殿をしっかりと労わって差し上げなさい。初めて子を宿したのです。心細い思いもしていましょう、良いですね?」


「はい、話が終わりましたらあややと共にいるつもりです。労わりたいと思います」


父が制してくれたおかげで小言だけで済んだ。母の言葉に深く頷いた。ほっとする。父に小さく会釈をした。


「それで、太郎。話と言うのはなんだ?美伊の言葉ではないが長い戦だったのだ。今日くらいはゆっくりしても良いのだぞ?」


「性分ですのでこればかりは」


「性分か。ふ、なれば仕方ないの。その真面目さは其方の良い所だからな」


そこで侍女が私の分の椀を持ってきてくれた。白湯が入っている。暖かい。話をする前に口を湿らそうと一口飲んだ。そっと持っていた椀を置く。


「話は出雲国・伯耆国の件です。父上は誰を置くおつもりか伺いとうございます」


「成程、その件か…」


尼子を下し現在は弥三郎(宍戸隆家(ししどたかいえ))と左京亮(さきょうのすけ)赤川元保(あかがわもとやす))を月山富田城に残してきた。毛利家で城を確保しておく意味もあるが出雲国の内情を知るための書類を確認するためだ。あれがあるのとないのとでは復興の際の手間が大きく変わる。改めて調べ直すにしても目安となる物がなければ。

だがそれは戦が終わったばかりの緊急措置で落ち着き次第、あの城に城代を任命する必要がある。それが誰になるか。父の考えを聞いておきたかった。


「太郎の中では何かあるのだろう?其方は毛利の次期当主だ。儂に憚る必要はない」


父の考えを聞きたかったのだが先に促されてしまった。身を改めてから父を見た。


「であれば、出雲国、伯耆国を私に任せて頂きたく」


「ほう、それはどういった考えだ?」


母が何か言いたそうに口を開いたが父が手で制した。私はさらに続ける。


「はい、これから毛利は更に領土を拡大していくでしょう。父上や家臣達が懸命に頭を、身体を働かせ築いてきたものです。いくら私が父上の跡取りとはいえその努力の積み重ねを引き継ぐのはどうかと思いました。父上の跡を継ぐのであれば私も相応の苦労を重ねなければ父の跡を継げませぬ。それ故に尼子が領していた地で私も藻掻いてみとうございます」


「…成程な。其方の考えは良く分かった。だが、其方自身も言ったように出雲国、伯耆国は元尼子領。伯耆国はそこまでではないが出雲は特に尼子の色が強い。国人達も今は戦に敗れ消沈しているから大人しくしているが正直奴らは面従腹背だろう。毛利が不利となれば毛利憎しで平気で裏切る者も出てくるような場所だ。当然だが簡単ではないぞ。それを分かった上でなお、其方は出雲に行くと申すか?」


「はっ、尼子家臣等と腕を競いたく。それを以て毛利家当主として父上の跡を継ぎたいと思います」


「試練じゃな。それを敢えて自分に課すか。ふ、毛利も贅沢になったものだ」


そうだ、試練だ。今このままではまたどこかで父と自分を比べてしまう。私は私の力で何かを成したのだと言う自信が欲しい。だが贅沢か。そうだな、この試みも安芸国が豊かで安定しているからこそ言えることだ。それを分かった上で私は父を見つめた。しばし沈黙の時間が流れる。だが父が相貌を崩した。


「だが面白い。頼もしくなった。そこまでの覚悟があるならば旧尼子領を確と制してみせよ」


「!…はっ、この身に誓ってやり果せてみせまする…!」


父から許可が下りた。嬉しかった。これは父の目から見ても私には果たせると思ってもらえたという事だろうか。いや、この際理由は何でもいい。父の言った通り一から始めるのだ。困難なことが続くだろう。だが私は凡才だ。父のように非凡な才はない。だから一つ一つ確実にモノにしていこう。


「だが嫡男に他国を任せるのは体裁が悪いの」


顎鬚を撫でながら父がそう零した。そして私を見つめる。何故か分かるか?と問うているようだった。


「親子の仲が悪く、嫡男を他国へ送ったのだと思われかねないという事ですか?」


「うむ、よう見ておるな。その通りよ。そのような噂が流れるのも外聞が悪いし余計な手を出されかねん」


その通りだ。これだけ領土を広げて手に入れたばかりの地に私を送ったとなれば他所がどう思うかを考えていなかった。自身の要求に考えが行き過ぎていてそこまで考えが回らなかった。情けない。


「ふむ…、家督を其方に譲るか」


「なっ!」


私が自身の浅さを悔いていると父上が事もなげに、それこそ散歩にでも行くかとでも言っている様な調子でとんでもないことを口にした。私も母も光殿も目を見開いて驚いていると父が更に口を開いた。


「何を驚くことがある。いずれは其方が跡を継ぐのは既に決定している。其方がこれまで国を富ませるために働いてきたことは儂を含め家臣達も認めておるところじゃ。それに此度の尼子との戦では総大将として確りと役目を果たした。経験は足りないじゃろうがの、それはこれから積めばいいことじゃ。儂も隠居するつもりはないからの。それに次郎も三郎も其方を押し退けて家督を欲しがるような馬鹿ではない。寧ろ二人とも其方を慕っている。否やはないじゃろう。どうじゃ太郎?」


「はっ…!謹んでお受け致します…!」


嬉しかった。それだけ期待してくれていることが。父の耳に入っていた私の家中の評価が。認められていたのだと分かってどうしようもなく嬉しかった。だがここからだ。これからは跡継ぎとして認められるのではなく毛利家の当主として認められなければならないのだ。父の影に隠れてはいられない。父等が積み上げてきた毛利の名を私が更に輝かせるために励まねば。私は深く頭を下げた。


「うむ、では年が明けた後、皆へ布告致そう。励めよ太郎。失敗を恐れず励め。儂がいるうちは幾らでも支えてやる。だから恐れるな。毛利は昔のように周りの顔色を窺いながら神経を研ぎ澄ませなければならない小さき存在ではなくなったのだからな」


父が優し気な笑みを浮かべながらそう言ってくれた。頼もしかった。だがそれに甘えていい訳では無いだろう。失敗してもいいと言うがだからといって失敗前提で動く訳にはいかない。私は私の歩幅で一歩一歩、皆に支えられながら進んでいく。


「御目出とうございます、太郎殿」


「ありがとうございます、光殿」


光殿がそう祝ってくれた。素直に嬉しかった。自然と隣にいる母上に目が行った。


「太郎。御目出とう。気を付けるのですよ。そしてしっかり励むのですよ」


「はい、母上。精進致します」


笑みを浮かべているが何処か不安そうだった。母上にとってはまだまだ私では心配らしい。いつか母上にも頼もしいと思ってもらえるように励まねば。


「ふむ、試練か…。良いな…」


「今、父上何か仰られましたか?」


私と母が話していると父上がぼそりと何か呟いた。


「あぁ、いや、何でもない。独り言じゃ。太郎、話はこれだけか?ならば早うあやや殿のもとに帰ってやれ。寂しい思いをさせてはならん」


「?はい、聞いて頂きありがとう御座いました。これで失礼致します」


「うむ」


そう言って部屋を後にした。だが父は何を呟いたのだろう。あれは何かを思い付いた顔だ。少し不安だ。毛利の益にならぬことはしないと思うが…。なんにせよこれで出雲行は決定した。私も身を引き締めねば。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ