4−35話:雪 side
いつも通り。ただ、環境が私の部屋だというだけ。それだけの筈なのに心臓がバクバクする。
この激しい感情を必死に抑えるように、話を盛り上げて、平然を装う。
私だって年頃の女の子だし、好きな子と自分の部屋で二人っきり。
普通だったらイチャイチャしたいところだけど……
「そうなんです。だから、オススメですよ」
なぜか空色にはそういうことをしちゃいけないような気がする。
そんなことをしてしまったら、私はきっと罪悪感に襲われそうな気がする。どうしてかはわらない……なんて言えばいんだろう……
「先輩?」
例えるならば、綺麗な曲を衝動的にめちゃくちゃに壊す。そんな感じ。
だから今、私は必死で理性を保とうとしてる。
「空色の髪は、ふわふわで可愛いね」
「え、そうですか?癖っ毛で、手入れが大変です」
「女の子らしくていいと思うよ。私も、巻いたりしてみようかな」
触れる口実は、何気ない会話。そして、長時間は触れない。長く触れれば触れるほど、理性が崩れる……だから欲求を少しずつ満たす。たった一瞬触れるだけでも、心のグラスが満たされる。
「きっと先輩似合うと思います。美人さんですし」
さっきまでの緊張が嘘のように、空色が笑顔を浮かべる。
(あぁ、可愛いな)
しみじみと内心でそう呟いてしまう。ある意味冷静のはずなのに、衝動が込み上がってくる。今すぐ空色を抱きしめたい。
「そうだね。次のライブにでもやってみようかな。もちろん、一番に見せるのは空色だけど」
「楽しみにしてます」
「うん。あ、そう言えば」
頭をフル回転させながら私は頑張って話題を出す。氷華が戻って来れば三人で話ができるから色々と大丈夫だろう。それまでに何といつも通りできれば。
「あはは。そうなんですね」
だけど、感情というものはやっぱりうまく制御ができない……。
「せん、ぱい?」
無意識に、私はテーブルに乗っている空色の手に自分の手を重ねた。
驚いた空色と目があい、しばらくの間お互いに見つめあった。
自分の心臓が痛いくらい激しくなるのを感じる。
「あ、あの……」
きっと、空色も同じだと思う。私が握っている手とは逆の手で自分の胸を抑えている。
あぁ今すごくそういう雰囲気だ。
流されちゃダメだと思っていても、その雰囲気に抗うことができない。
ゆっくりと、私も空色も自分から顔を近づけて行く。
「ただいまー……あ?」
バンっ!とノックなしに勢いよく扉が開いて、散歩から帰ってきた氷華。
びくりと私も空色も体が跳ね上がった、顔を真っ赤にしたまま氷華の方を向く。
お互い、三人揃って顔を見合わせたまま沈黙だった。
「ふむ……お邪魔しましたー」
「「お邪魔してないから!!」」
空気を読もうと氷華はその場を去ろうとするけど、寧ろ逆効果。
氷華が来たことで自分たちが今さっき何をしていたのかを冷静に考えさせられて、すっごく恥ずかしくなる。
(あーもう!私のばか!)




