4−34話:空 side
「あ、ちょっとジュース取ってくるね」
「は、はい!お構いなく!」
「くつろいでていいからね」
パタリと扉が閉まる。
遠くなって行く足音に聞き耳を立てて、聞こえなくなった瞬間に緊張の糸がプツリと切れて、私はそのまま机に突っ伏した。
ご両親に挨拶するのも緊張した。もちろん、先輩の家にいる時点で胸がドキドキして仕方ない。
「って、今更だけど私……い、いま先輩の部屋にいる……」
初めて入った先輩の部屋は、当然私の部屋とは全然違う。
たくさんのCDと機材。楽器もあるし、楽譜とかもあったりする。本当に、音楽が好きなんだなって、そう思う部屋だ。
「……すごい、先輩の匂いがする」
胸がドキドキする。まるで、先輩に包まれているみたいな、そんな感覚。
どうしよう……頭の中がぐちゃぐちゃになりそう……私、今日先輩の家に泊まるんだよね……大丈夫かな、死なないかな……
そんな考えてる時に、不意にある場所が目に入った。
他のものとは違う、少しだけ華やかなスペース。
何だろうと思って近づくと、そこには随分と可愛らしいものがたくさん置かれている。量は他のものに比べて少ないけど、ちょっとだけ女の子らしい先輩の一面が見れて、思わず笑ってしまった。
「お待たせー、適当に持ってきたけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
とりあえず何事もなかったかのように、さっきまで座っているところにいると、先輩がお菓子とジュースを持って戻ってきた。
お茶菓子はおせんべいとか話のものが多かった。おばあさんが好きなのかな?」
「空色のお菓子は、ご飯の後にみんなで食べよう」
「はい。あ、おせんべいも全然私好きですよ」
「よかった」
部屋に来たからといって、特にやることはなかった。というか、変に意識してしまったり、恋人らしいことがよくわからない。だから、いつもの調子になってしまう。
「それでですね」
「うん」
普通に過ごすのも、私は全然好きだ。家にきたからって、何か特別なことをしないといけないとかはそんなことはない。だって元々、私はお休みの日も先輩と一緒に痛い。ただそう思っていたのだから。だから今、こうやって先輩とお話しできるだけで十分幸せだ。
それに、1時間もすれば散歩から氷華ちゃんが戻ってくるだろうし。氷華ちゃんのことだから、そのまま凸してきそう。
「あはは、そうなんですね」
「あ、信じてないでしょ」
「そんなことないですよ」
それまでは、先輩との二人っきりを楽しもう。




