2−1話:空side
「はぁ……」
「おーい、くーちゃーん」
翌日の月曜日。私は朝からぼんやりしてた。
昨日のライブ、そしてその後の先輩とのやりとりがまるで夢の出来事のようで、すっごく夢心地。
先輩、マカロン食べてくれたかな。喜んでもらえたかな……やっぱり、手作りのお菓子って重いかな……
「くーちゃん」
「うにっ!」
急に目の前にいる氷華ちゃんに頬を引っ張られた。すっごく不機嫌で……あ、私全然話とか聞いてなかった。
「ご、ごめん氷華ちゃん」
「もぉー、くーちゃんぼんやりして酷い」
「だ、だって昨日のこと思い出したらもぉ!頭ん中真っ白っていうか、ふわふわして……」
高ぶる気持ちにまた周りが見えなくなりかけており、向かいにいる氷華ちゃんは少し呆れながらも「うんうん」と頷いていた。
「それでね!」
「氷華ー」
不意に聞こえた声に、私の体も言葉もピタリと止まる。
ガタガタと震え、錆ついで動きが鈍くなったおもちゃの人形のように、まるでギシギシという音がなっているかのように、私は教室の出入り口に目を向けた。
「あ、雪ねぇ」
軽く手を振っている先輩は、そのまま氷華ちゃんの側まで来ると軽く頭を叩き、机の上に手にしていたものを置いた。お弁当、かな?
「忘れたでしょ」
「おぉー、ありがとう」
「まったく……毎朝ちゃんと確認するように言ってるでしょ」
「申し訳ない」
目の前で繰り広げられる姉妹の会話は、私とお姉ちゃんの物とは少し違う。だから、なんだか少しだけ不思議な感覚。
なんて思っていると、不意に先輩と目があって体が強張る。追い打ちをかけるように笑顔なんて向けられれば、恥ずかしくなって目なんて合わせられない。な、何か話した方がいいのかな?でも、何話せばいいんだろう……
「昨日はお菓子ありがとう、すっごく美味しかった」
「えっ、あ、その……よ、よかったです」
「いいなぁ。氷華もお菓子ほしぃー」
「あんたはもう少し我慢を覚えるべき。毎回もらおうとしない」
心臓がすっごくドキドキする。先輩がこんなに近くにいる。美味しいって言ってもらえた。どうしよう、すっごく嬉しい。
「あ、チャイムなっちゃった」
「それじゃあ私は行くね。氷華、授業中に寝ないようにね」
「え、雪ねぇなんで知ってるの?」
「担任と仲良いから。それじゃあね」
ニッと、どこか見た目のクールさとは裏腹に、いたずらっ子のような笑みを浮かべて先輩はそのまま教室を出ていった。
しばらくの間は扉の方を見ていたけど、私はそのまま大きく息を吐き出しながら机に突っ伏した。
「よかったね」
私の頭を撫でながら氷華ちゃんがそう言った。何がとは聞かなかったけど、氷華ちゃんはわかっているみたいだった。
多分今、私の顔すごく赤い……体も暑いし、心臓もバクバク。
「氷華ちゃん……お菓子何が食べたい?」
「……んー、パウンドケーキかなぁ。作りすぎたらちょうだいね」
「うん……」