4−26話:空 side
「氷華ちゃん」
先輩のステージが終わった後、私と氷華ちゃんはお姉ちゃんとその場で別れて、そのままお互いの部活の方に向かった。
出していたケーキとかはほとんど完売してしまい、売れ残っているものではあったけど、それを持って美術部の展示スペースに行った。
「あ、くーちゃん。お疲れ」
「お疲れ様。差し入れ持ってきたよ。あんまり残ってなかったけど」
「わー、ありがとう」
だけど、流石にここでは食べられないかな。
他に見てるお客さんもいるし……後にすれば良かったかな……
「氷華ー」
「んむ、アリス先輩」
「裏で食べてきていいよ。今暇だし」
「え、いいんですか?」
「うん。なんかボーッとしてるし、糖分摂取しておいでー」
「うー、そう言いながらほっぺた突っつかないでくださいー」
なんだかこんな表情する氷華ちゃんは初めて気がする。この先輩が苦手なのかな……
そのまま氷華ちゃんに連れられて、二人で一緒に裏でケーキを食べた。
作業スペースのようで、部屋中にインクの匂いがする。「臭くない?」と気を使われたけど「大丈夫だよ」と言った。
持ってきたのは二種類。チョコのムースとベリーのタルトケーキ。
目をキラキラに輝かせる氷華ちゃんは、チョコケーキの方を手にとってくれた。
「んー!美味しい!」
「良かった、喜んでもらえて」
私も一緒になってケーキを食べるけど、ちょっとだけ無気力といか、一息つくようにため息をこぼす。なんていうか、ちょっとだけ夢心地な気分がする。
「大丈夫?」
「……うん、少し夢心地」
目元が少しじんじんする。さっきすごい泣いたからな……ステージであんなに泣くなんて、先輩に申し訳ない……先輩を悲しませてしまったかもしれない……
だけど、先輩は笑っていた。途中で苦痛の表情を浮かべていたけど、痛いほど気持ちが伝わったことがわかった。そして、先輩の気持ちがわかった。
現実味が湧かなくて、ふわふわと体が浮いているような気分。
「おーい、お二人さん。お客さんが来てるよー」
不意に、先ほどの先輩。氷華ちゃんがアリス先輩と言っていた人。
その人がひょっこりと顔を覗かせてそう言って来た。お客さん……誰のことだろう……。
そう疑問に思っていると、その人が姿を現した。教室に差し込むややオレンジ色の光を逆光に浴びながら、その人は……雪凪先輩は優しく笑みを浮かべていた。
「よかった、いた」
どきりと心臓が強くなった。その姿が、あまりにも綺麗だった。さっきも夢心地だったけど、先輩の姿を見たらまた、夢の中……現実とはまた違う世界にいるような感覚がした。
「話があるんだけどいいかな」
「……え、私ですか」
「うん。空色」
話……なんだろう。そう思うけど、なんとなく内容を察した。
私は何も言わずに頷いた。
そのまま椅子から立ち上がろうとした時、ポンっと優しく背中を押された。誰かはすぐにわかる。
振り向いた先、氷華ちゃんが控えめな笑顔で「頑張れ」と声をかけてくれた。
本当に、氷華ちゃんには敵わないな。
「ありがとう」
小さく頷いて感謝の言葉を口にし、私は先輩と一緒にその場を後にした。




