4−25話:雪 side
スタンドマイクからスピーカーを通じて、観客に歌が伝わる。
だけど大勢に伝えたいわけじゃない。伝えたい相手は一人だけ。
(あぁ、本当に初めて読んだ時もそうだったけど、口にすると黙読するよりも胸が苦しくなる)
空色が紡いだ言葉を私の声で伝える。なんだかとても不思議な感覚だ。
歌詞を口にするたびに、私の中に言葉が流れ込んできて、空色の気持ちが歌うたびに伝わってくる。
(本当に、胸が苦しいよ)
今にも泣き出してしまいそうなほどに、今すぐにでもステージから降りて、私を見上げて聴いてくれている空色を抱きしめたい。
そんな衝動にかられながら、苦痛の表情を浮かべながら私は必死に最後まで歌いきろうとした。
一瞬、観客の方に目を向けた。空色が今どんな様子なのかが気になった。
「ゥ……ウ、ふ……ヒグっ」
泣いていた。口元を手で覆いながら、メガネの向こうで涙をボロボロ流していた。
驚きはもちろんあったけど、それ以上に伝わっているってわかってひどく嬉しかった。
苦しい感覚がスッと消えて、無意識に表情は笑顔に戻る。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
気がつけば、もう歌い終わってしまった。
巻き上がる歓声は遠くから聞こえるように感じる。
一瞬「あれ?」と思ったけど、すぐに「あぁ終わったんだ」と思って、そのまま頭を下げる。
「ありがとうございました」
一瞬だけ、空色に目を向ける。
もう、彼女は私のことを見てない。俯きながら、両手で顔を覆って泣いている。
そんな彼女を、隣にいた氷華が慰めている。
「雪凪」
愛華に呼ばれ、私はそのままステージ袖に下がった。
「いやー、最高に気分が良かったよ!」
「この後どうしますか?」
「そうねぇ……」
他のメンバーが話す中、私は舞台袖から泣いている空色を見つめる。
どんな理由であれ、私は彼女に喜んで欲しかった。
伝わってるのは嬉しいけど、私は笑ってる顔が見たかった。
「よし、終わったことだし、文化祭を楽しむぞー!!」
「雪凪先輩も行きましょう」
「……そうね」
今はそっとしておこう。
そして、会いに行こう。終わったし、ちゃんと伝えないと……




