4−24話:空 side
ステージに上がった先輩と目があって、どきりと胸が高鳴った。笑顔を向けられた瞬間、恥ずかしくなって視線を逸らしてしまった。
少しだけ寂しい気持ちもしたけど、それ以上にほんの一瞬でも目があった、先輩が自分を見つけてくれたことがとても嬉しかった。
「みんなー!!盛り上げってるかー!!」
ボーカルの先輩の言葉に、会場が沸く。
軽音楽部が、学校でも人気なのは知っていた。入学したときの、部活動紹介でも、二、三年から歓喜の声は上がっていたし。
雪凪先輩は軽音楽部には所属してないけど、たまに演奏のサポート役で入ることもあるから、特に誰だろうって声はなかった。
むしろ、そこにいるのが当たり前といった感じだった。
「早速、二曲続けて演奏しちゃうよ!!」
最初の二曲は知らない曲だった。
先輩が新しく作ったとも思えないし、軽音楽部の持ち歌なのかな……ということ……セットリスト的に、あの曲は最後なんだ……
心の中でそう思いながら、私は目の前にいる先輩を見つめる。
ギターを弾く先輩は普段とのギャップすごい。カッコ良くて、熱くて、激しくて……酷く目を惹かれてしまい、そして……私の感情を高ぶらせる。
ドキドキと期待と緊張で胸を高鳴らせながら、私は最初の二曲の演奏を聴いた。
「ありがとうございます!では、今回のメンバー紹介をします」
曲が終わった後、MCコーナーが始まって、ボーカルを担当している先輩が、一人一人、合間にちょっとした冗談を交えながらメンバーの紹介をした。
同級生の子もいるけど、他クラスだから関わりは全くない。普段、先輩とどんな話をしてるんだろ……
「そして、最後。部員じゃないけど、よくサポートをしてくれる、ギターの如月雪凪」
紹介された先輩は軽くギターを弾き、そのまま挨拶に頭を下げた。
歓声と拍手。顔を上げた先輩とまた目があって、思わず顔をそらしてしまった。
「いやー、ホント今日までに色々あったよね」
紹介ごの軽い雑談。今日までの練習のことだったり色々。
私の知らないことが先輩や、他の人の口から聞かされる。知らないことを知れるのは嬉しいはずなのに、少しだけ胸がモヤモヤする。
「さて、残念ながら次の曲が最後になります。いやー、練習期間はあんなに長かったのに、本当にあっという間ですね」
残念そうな声が会場から聞こえる。
もっと聞きたいと、そんな感情の困った駄々っ子のような言葉。
「最後の曲は、サポート役の雪凪が作曲をした曲。そしてそれを、彼女には歌ってもらいます」
ボーカルが変わり、中央のマイクの前に先輩がギターを持ったまま立つ。どこか緊張したような、だけどなんだか気恥ずかしそうな顔をしてる。ちょっと可愛かった。
「えっと、改めて如月雪凪です。最後に歌うこの曲は、私にとって大切な曲です」
また、先輩と目があう。にっこりと笑みを浮かべた先輩は、また視線を外して、今この会場にいる人に目を向ける。
浅く、深呼吸をした先輩は、笑みを浮かべた。その表情はとても優しくて、そしてとても目を惹かれるものだった。
「これを歌うことで、私はある人に全てを伝えようと思います。聴いてください」
それは私の素直な、伝えたい……
「"affectus"」




