4−23話:雪 side
「あ……」
ステージ袖で、スタッフの合図があるまで待機をしていると、ステージ下のところに空色と氷華の姿があった。
どうして予約席にいるのかは分からないけど、それでも一番前にあの子達が……空色がいることがすごく嬉しい。
「後輩ちゃん来てるね」
小声で、他のメンバーもステージ下を覗きながらそう言った。
みんな、私が空色に対して特別な感情を抱いてることを知ってるから、純粋に「よかったね」と言われた。
「はぁ……緊張する」
観にくてくれたのは嬉しいけど、空色の目の前で演奏すると思うと緊張してしまい。なんというか、二つの感情が入り混じって、口元はにやけているのに心臓は痛いくらいに脈を打っている。
「はぁ……はぁ……」
徐々に、周りの音が聴こえなくなってきて、自分の心臓の音だけが鮮明に聞こえる。こんなにも、緊張するのはいつぶりだろうか……
「雪凪」
不意に、誰かに肩を叩かれ、ビクリと体が跳ね上がった。
振り返ると、少しだけ驚いた表情のメンバーの姿がった。
「大丈夫?」
「あ、あー……うん。なんか緊張しちゃって……」
「雪凪先輩が緊張するなんて、珍しいですね」
確かにそれは、自分でも思った。やっぱり、今日が特別な日……だからかな。
「大丈夫だって。たかが文化祭のステージ。失敗して死ぬわけじゃないんだから」
「いや、話が極端すぎ」
「それに、今日は特別なんでしょ?変に緊張していつもの表情が死んじゃうと、心配する子が出てくるでしょ」
また、愛華が私の肩を叩いて笑みを浮かべる。
「楽しんで行こう」
「……そうだね。それに、ちゃんと伝えないと」
「軽音部の皆さん、ステージの方にお願いします」
スタッフの誘導で、私達はステージの上に立つ。
事前に自分の立ち位置は決まっていて、最初の演奏はギターだけなので、観客から見て左側の位置に立つ。
(あ……)
ふと顔を上げると、一瞬だけ空色と目があった。
“ちゃんと見ててね”という意味を込めて、私は空色に笑みを浮かべた。




