1−8話:雪side
「お疲れ様ー!!イェイ!!」
無事にライブは終わり、控え室に戻った瞬間に圭人さん、南さん、春樹さん、胡桃さんのテンションが一気に上がった。特に圭人さんと南さんのテンションがすごい……。
「それじゃあ、いつも通り今日も春樹の車で打ち上げに行きましょうか!」
「何食べようかぁ」
「お腹にたまるものが食べたいよね!!」
と打ち上げの内容を話している大学生たちに苦笑いを浮かべる。ライブ後なのにすごく元気。
ちょうど圭人さんと南さんが「焼肉!」「お寿司!」と言い争いをしているときに、氷華から通知が来た。
《お外にいるけど、出てこれる?》
そうだ。今日は氷華以外にも、お母さんや苺叔母さんも来てた。バンドの方に集中していてすっかり忘れていた。
「すみません。家族がきてたので、ちょっと声かけてきますね。すぐに戻ります」
「あ、雪凪。お前は何食べたい?」
控え室を出る前、春樹さんがそう尋ねてきて全員の視線が私に注がれる。
「んー……お肉がいいです」
少し考え、笑みを浮かべてそう答えて部屋の外を出た。ちょうど扉を閉める時、圭人さんの喜びの声が聞こえたが、私は足ばやに出入り口へと向かった。
*
すっかりお客さんは会場を後にして、残っているのは演奏の余韻に浸っている人ばかり。
「ごめん、遅くなった」
ライブハウスの出入り口付近に固まっている女性軍団に声をかける私。お母さんや叔母さん、氷華は私を見るなり「おつかれ」と笑顔を浮かべながら感想をいってくれた。
ただ私はその中にいる見覚えのない女の子に目がいった。小柄で可愛らしい女の子。氷華が誘われたという友達だろうか。
「こんばんは」
「こっ、こんばんは!で、です!」
なんかすっごいアワアワしてるけど……声かけないほうがよかったかな?
「あ、あの!」
「ん?」
「かっ、かかかっこよかったです!!」
その子は、勢いよく頭を下げながら私に紙袋を渡してくれた。差し入れ、かな……なんかすっごい甘い匂い……お菓子?
「あ、もしかしてよく氷華にお菓子くれる子?」
コクコクと頷くその子は、顔はどうなってるかわからないけど、髪の下から姿を出している耳は真っ赤になっていた。
これを用意してくれたってことは、もしかして私目当てで来てくれたのかな?
「ありがとう」
紙袋を受け取り、中身を確認すると可愛くラッピングされた色とりどりのマカロンが入っていた。
「わぁ、マカロンだ。ありがとう」
「い、いえ……」
「雪凪、晩御飯どうする?母さんたち、これからみんなで食べに行くけど」
「あー……ごめん。これからバンドの人たちと打ち上げだから」
私がそう答えれば、母も叔母も残念そうにした。氷華も不服そうな顔をしながら私にしがみついてくる。
そろそろ四人とも片付けを済ませて出る準備をしているかもしれない。私は改めて、来てくれた四人にお礼を言って、ライブハウスに戻った。
*
「やっきにくー!やっきにくー」
「圭人うるさい」
「うぅ……お寿司ぃ……」
「南ちゃんよしよし」
春樹さんの車に乗り込み、全員で打ち上げ会場に移動。大きな車で、私は一番後ろの席に、積み込まれた楽器と一緒に乗っていた。前の座席で先輩たちは楽しそうに話をしていた。たまに大学の話とかもしていたから、私は大人しく窓の外を眺めながら話を聞いていた。
少しだけ小腹が空き、ご飯前だとわかっていたけど、氷華の友達がくれたマカロンを一つ口に運んだ。
「美味しい……」
今まで誰が作っていたか知らなかったけど、氷華にあんなに可愛い友達がいたなんて知らなかった。しかも、こんなにお菓子が上手な子だったとは。
いつももらうお菓子はどれも美味しかったし、もしかして製菓部なのかなとは思っていた。帰ったら、少し氷華に聞こうかな。
「今度お礼言わないと」
同じ学校でも明日会えるかもわからない。次、ちゃんと顔を合わせたときにお礼言わないと。
そう思いながら、私は再び窓の外を見つめる。全く意識していなかったけど、窓に映っている私は、口元を緩ませて笑っていた。