4−19話:空 side
「えっと、ごっ、ご注文は以上、ですか?」
出し物の人気はそこそこで、誰かお客さんが出て行くと、入れ替わるようにお客さんが入って来て、常に満員状態。
何だかんだ、氷華ちゃんはテキパキやってる。それに比べて私はかなりオドオドしてるし、先輩やお姉ちゃんの事が気になってしまって、少しだけ挙動不審になってしまう。
「空色」
「っ!」
頭の中で色々考えていると、不意に名前を呼ばれて体が大きく跳ねてしまった。
慌てて振り返ると、丁度お姉ちゃんと先輩が教室を出るところだった。
「も、もう帰るの?」
「うん。雪凪がこの後本場前の練習らしいからね」
「そう、何ですね」
視線を先輩の方に向ければ、いつも通りの笑みを私に向けてくれた。
あぁ、すごく安心する。
「春歌さんはこの後どうしますか?」
「あたしはライブの時間まで適当にぶらついてるよ」
「そうですか」
「期待してるよ」
「ありがとうございます」
お姉ちゃんに肩を叩かれて苦笑いを浮かべる先輩。そうだ、次先輩と会えるのはライブだけど、話せるのはその後になっちゃう。今、少しでもいいから何か先輩に言わないと……
「あ、あの……」
「ん?」
込み上がる感情を必死に押さえ込みながら、私は先輩に視線を向けて言葉を伝える。
「観に行きます」
当然だけど、今の私の精一杯の言葉だ。
それを聞いた先輩は、さっきよりも優しくて、そしてどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。
「うん、待ってるね」
二人はそのまま軽く手を振りながら教室を出て行った。私もそれに応えるように手を振り返す。
先輩に声をかける事ができたのが嬉しくて、口元が緩んでしまう。
周りにバレないように、小さく俯いてしまう。




