4−15話:空 side
「あ、空色」
文化祭前日。今日はクラスの方の出し物の手伝いは殆ど出来なくて、ずっと部活の方の手伝いをしていた。
大変だったけど、たくさんお菓子が作れてすごく満足。
そのまま帰ろうと思って昇降口に来た時に、たまたま先輩とあった。
「お疲れ様です。先輩も帰りですか?」
「うん。空色も?」
「はい。部活終わりです」
「そっか。……ん?」
すると、先輩が近づいて来て、鼻をスンスンしてきた。
え、先輩何して……というか、ち、近い……
「甘い匂いがする」
「え……あぁ、部活でお菓子作ったのでそれでかもです」
「へぇー、そうなんだ。楽しみだな」
いつもの笑顔。やっぱり、何度見ても胸がすごくドキドキする。
今にでも、自分の気持ちを口にしたい衝動に駆られてしまう。
「折角だし、一緒に帰ろう」
「はい!」
断る理由もなく、寧ろ嬉しくて少しだけ気合いの入った返事をした。
「空色の出し物楽しみだなぁ」
「クラスの装飾すごいことになってますよ、氷華ちゃんが気合い入っちゃって」
帰り道は、お互いの出し物の話や、先輩のバンドの話。
ただ、先輩のクラスの出し物についての話題はなるべく避けた。
実は私、お化けとかホラーとか苦手で、お化け屋敷とか絶対に無理!!先輩には申し訳ないけど、絶対に行きたくない。
「ん?どうした?」
「へ?い、いえ!な、なんでもないです」
先輩と帰るのは、もう当たり前というか……最初のような緊張はなくなった。
こうやって自然と話せるようになるって、春先は思ってなかったな。
「さて、それじゃあまた明日ね」
あっという間にたどり着いてしまった最寄り駅の改札口前。
先輩との楽しい時間はこれで終わり。何度味わっても、やっぱり寂しいな……
「はい、また明日」
いつもみたいに先輩を見送るのも寂しくて、私はそのまま先輩に背を向けた。
「空色!」
不意に呼ばれて、そのまま先輩に手首を掴まれた。
ゆっくりと振り返ると、すぐ目の前に先輩の顔があって、ドキリと胸が高鳴り、痛みを感じた。
顔に熱が集まるのを感じて、思わず勢い良くうつむいてしまった。しかし先輩は、そのまま私の耳元に口をよせて、小さな声で囁いた。
「ちゃんと聴いててね」
ゆっくりと手首から先輩の手が離れて、そのまま距離が離れて行く。
顔を上げた時には、先輩はすでに改札をくぐっており、階段を登っていた。
「うぅ〜〜〜っ!」
激しく心臓がバクバクと動いて、私はその場にうずくまる。
あまりの高揚感に叫び出しそうになる気持ちを必死に抑え込んだ。
本当に、先輩はずるい人だ……




