4−10話:空 side
「あ、氷華ちょっとトイレ行ってくる」
お姉ちゃんのクラスのお店を出た後、もう少しだけ中を回って今はメインステージに向かってる途中。
ちょうどトイレの前を通った時に、氷華ちゃんがそう声をかけた。
「うん、行ってらっしゃい。空色は?」
「私は平気です」
「待ってなくていいよ。先に二人で行ってて」
「人も多いし、慣れない場所だから一緒の方がいいでしょ?」
確かに、先輩のいう通り。それに、お姉ちゃんたちの演奏が聞ければいいし、別に前の方にいかなくても大丈夫。
「待ってるよ、氷華ちゃん」
「くーちゃんまでー!子供じゃないから大丈夫だよ!スマホもあるし!」
不満マックスという感じで、氷華ちゃんはほっぺたを膨らませて怒っていた。
どうしようかと、先輩の方をみると、深々とため息をついていた。こういうときの氷華ちゃんのことは、先輩が一番わかってるみたいだった。
「わかった。ちゃんと連絡するのよ」
「はーい」
「後、知らない人についていかない。惹かれるものがあっても、そっちにいかない。いい?」
「ラジャです」
敬礼ポーズをとって、そのままトイレに向かおうとした。
「あ、そうだ」
まるで何かを思い出したかのように、くるりとまた私たちの方を向いて、そして私と目があった。
にっこりと笑みを浮かべる氷華はこっちに近づいてきて、私の耳元で囁いた。
「多分遅くなって後ろの方だから」
「え?」
「じゃあ行ってきまーす」
何事もなかったかのように、そのまま氷華ちゃんはトイレに向かった。
言われた言葉の意味がわからずに、私は考えた。
氷華ちゃんが戻るまで二人っきり。誰と?私のそばにいるのは……
「氷華になんて言われた?」
「へ?い、いえ別に。大したことじゃありませんから」
心の中で私は納得した。それと同時に、嬉しさと恥ずかしさで顔が赤くなる。
つまり氷華ちゃんのトイレは嘘。私と先輩を二人っきりにするための行動らしい……
ホント氷華ちゃんは……こんなことされたら、もっと氷華ちゃんのこと好きになっちゃう。
「そう?じゃあ、先行ってようか」
「あ、はい」
「ん?顔赤いけどどうかした?」
「い、いえ!な、なんでもないです!!」
ありがとう氷華ちゃん。
ヤキモチ妬いちゃってごめんね。やっぱり氷華ちゃんはいいこだな」




