4−3話:雪 side
「ただいまー」
寄り道せず、まっすぐ帰れば、家には祖母と霜汰がいた。祖母は振り返って「おかえり」と言ってくれて、霜汰は私を見ると抱っこをせがんでるように手を伸ばしてきたので、そのまま抱きかかえてあげた。
「お昼、もうすぐできるからね」
「あ、ごめんねおばあちゃん。ありがとう」
「いいんじゃよ。手を洗って、着替えをすませておいで。おばあちゃんは、ご飯作り終わったら散歩に行ってくるから」
「うん。霜汰、お姉ちゃんちょっとお着替え行ってくるから」
「うー!!」
嫌と言っているのか、霜汰が離れてくれない。仕方ない、このまま連れていくか。
霜汰を抱きかかえたまま手を洗い、そのまま部屋に行って一旦霜汰をベットに下ろした。ここまでくれば、離れていかないと思ったのか、素直に降りてくれた。
着替えを済ませてまた抱きかかえてあげれば、甘えるようにすり寄ってくる。あぁホントにうちの弟は可愛いな。
「いただきます」
リビングに降りて、おばあちゃんの準備してくれたお昼ご飯を食べた。霜汰は隣で大人しくおもちゃで遊んでる。最近のお気に入りは、私がプレゼントしてあげたドラゴンのぬいぐるみのようだ。
「それじゃ、おばあちゃんは散歩に行ってくるよ」
「うん、気をつけてね」
「はいはい」
留守番することになった私は、お昼を食べ終えて、洗い物まで済ませるとそのまま部屋に向かった。もちろん、霜汰を一人にすることはできないから、一緒に連れて行った。
「うー」
「いい子だから大人しくしててね」
「あう」
返事をしてくれたのかわからないけど、とりあえず頭を撫でてあげた。
ベットに敷いたタオルケットの上でぬいぐるみと戯れる霜汰。そんな様子を横目で見ながら、文化祭に向けて新曲の練習をする。
詩をもらった翌日、完成した楽譜をメンバーに渡して、絶賛練習中。
みんないい曲だって褒めてくれて、すごく嬉しかった。
「〜♪ 〜♪」
この曲を歌うたびに胸がぎゅっと苦しくなって、顔が赤くなるのを感じる。
こんなんで、本番ちゃんと歌えるかな……。
「はぁ……」
ヘッドホンを外して少し一休み。
変な開放感を感じながら、ぼんやりと天井を見上げる。
「雪ねぇー、ただいまぁー」
聞き慣れた声が聞こえ、ノックなしで扉が開いて、氷華が入ってきた。
「おかえり」
「ただいまー。ねぇねぇ、ケーキたべよ」
「ケーキ?」
「そうそう。くーちゃんがコンテストで作ったケーキ。もらったんだぁ」
先日行われたケーキのコンテスト。
結果は、不採用だったと連絡がきたが、いいものが出来たとメッセージはきたものの、落ち込んでるんだなと、声を聞いたわけじゃないけど、わかった。
空色は、気持ちが沈んでる時は顔文字を絶対に使わない。だから、今回送られてきたメッセージに顔文字が書かれていなかったから、すぐにわかった。
私はただ一言、《頑張ったね》と一言だけ送った。空色が、それをどう受け取ったかはわからないけど、私なりの言葉の届け方だ。
「わ、美味しそう……」
「ねー。あ、お皿とフォーク持ってきたよ」
「あうー」
「霜汰はだーめ。氷華と雪ねぇのなの。大きくなったら、食べさせてあげるからね」
「ぶー」
拗ねているのか、不機嫌そうな顔をする霜汰は、またぬいぐるみと戯れ始めた。
氷華がお皿にケーキを乗せてくれて、私は一口口に運んだ。
甘酸っぱい、柑橘類の味。生地はふわふわでクリームもさっぱりしてて……
「おいしい……」




