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歌詞(こころ)から掬いあげる言葉(きもち)  作者: 暁紅桜
3章:春過ぎて、来たる夏は彼女とともに
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3−38話:空 side

「んー……もう少し何か手を加えてもいいかも」


 今日はお盆前の最後の学校開放日。私はコンテストの試作品作りで学校に来ていた。

 先生にいくつかアドバイスをもらい、今日の作業はそれで終わり。片付けと戸締りを任され、私は今、第二家庭科室に一人でいる。

 片付けも済ませた。あとは帰るだけなのだが、その前にやらないといけないことがある。


「うぅー……緊張する……」


 今日、先輩が学校にいる。事前に氷華ひょうかちゃんや先輩に学校にいるかの確認を取っていた。私は今日、先輩に完成した詩を渡す。軽音楽部が文化祭で演奏するラブソングの歌詞。私の素直な気持ちを込めた……私の感情そのもの。

 詩ができて、今日渡すことはさっき先輩に連絡した。ここで待っていることを伝えれば、先輩は《わかった》と返信をしてくださった。

 酷くソワソワしてしまう。先輩、まだかな……もうこっちきてるかな……小さな声で、自然と口から言葉がこぼれる。

 この歌詞は、何度も何度も書き直して、形を変えながらできたもの。

 高まる鼓動はあの時と同じ。初めて先輩の下駄箱に詩を書いた手紙を入れた時のドキドキと同じ。


「ぁ……」


 不意に、近づいてくる足音が聞こえる。そして、ガラガラと音をたてて教室の扉が開いた。


「待たせてごめんね」

「い、いえ!大丈夫です!」


 少し息をあげながら苦笑いを浮かべる先輩に、私は勢いよく椅子から立ち上がってしどろもどろにそういった。

 声、上ずったりしてないかな……

 先輩がゆっくりと私の前までやってくると、テーブルに置いていた詩の入った封筒を渡した。昔、下駄箱に入れていた手紙と同じように。


「ありがとう」

「いえ、お待たせしてすみません」

「気にしないで。それだけ一生懸命考えてくれたんでしょ?私も曲、頑張らないと……読んでも、いい?」


 笑顔を浮かべていた先輩は、少しだけ恐る恐ると言った感じでそう尋ねてきた。流石に内容が内容だから、目の前で読まれると恥ずかしくて死にそうになってしまう。


「わっ、私がいないところで読んでください」

「あはは、そうだよね。それじゃあ、あとでゆっくり読むね」

「はい」

「今日はもう帰るの?」

「はい。部活も終わったので。先輩は?」

「午後練があるから」

「そうですか。演奏、楽しみにしてます」


 先輩とは、教室の前で別れた。

 私は鍵を職員室に返した後、少しだけ軽い足取りで家に帰った。


「曲、楽しみだな」


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