3−34話:空 side
「今日はありがとうございました」
「いいよ。私もすごく楽しかったし」
花火が終わり、そのまま私たちは家へと帰った。
時間帯も遅いので、今回は先輩に家まで送ってもらうことになったけど、特にお互いに会話はなかった。
私はずっと俯いていて、先輩は空を見上げていた。
辺りに人の姿はなくて、私の歩くたびになる下駄の音と虫のさえずりだけが響いていた。なんていうか、夏って感じがする。
「金魚、大事にするね。名前考えないとだね」
「いい名前をつけてあげてください」
今更だけど、あの子たちはこれから先輩に飼ってもらうのか……一緒に暮らすっていう点に関しては、ちょっと羨ましい……。
「桜和さん?」
「え? あぁごめんなさい。って、なんかすみません引き止めてしまって……私はそろそろ中に戻ります」
「そっ、か…………詩、楽しみにしてるね」
一瞬、残念そうな表情を浮かべたような気持ちたけど……気のせい、かな?
「はい。頑張りますね」
笑顔を浮かべ、私はそのまま先輩のことを見送る。
私に背を向けて一歩踏み出して、そのままその場から離れて行こうとする。やっぱり、少し寂しいな……
「先輩?」
だけど、先輩は背中を向けたままその場で止まっていた。不安になって声をかけると、ゆっくりと私の方に振り返った。
「おやすみ、空色」
悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべた後、「じゃあね」と軽く手をふってそのまま駆け足で離れていった。
何が起きたのかわからなかった。ほぼ停止状態の頭で、さっきの光景を思いだそうとした。
—————— 空色
「っ!」
自分でもわかるぐらいに顔が赤くなり始める。
頭の中で何度もなんども先輩の言葉が繰り返される。ぎゅーぎゅーって胸が苦しくなる。
「んー?空色帰って来たの?」
慌てて家の中に入って、部屋に駆け込んだ。
「皺になるから、早く脱ぎなよー」
下から聞こえるお姉ちゃんの声。だけど、胸のドキドキのせいで今は何もしたくない……いや、できない気持ちになっていた。




