3−33話:雪 side
「あの、先輩」
「…………」
「先輩?」
「ぇ、あ……ごめん、何?」
じっと桜和さんに見惚れていたせいで、ちょっと上ずったような声が出てしまった。平然を装ってるけど、うわぁ……めちゃくちゃ恥ずかしい……
「夏休みは、軽音楽部の練習に参加するんですか?」
「あぁうん。夏休み明けたら、文化祭もすぐだからね」
そういえば、さっきあんな態度取っちゃったけどみんな怒ってないかな……後で改めて謝罪しておかないと。練習に支障が出る……下手をすれば、抜けるように言われるかも。
「バイトとかは?」
「一応あるよ。バイトに練習、宿題はまぁ……ぼちぼちかな」
「私も宿題はぼちぼちです。今度、氷華ちゃんに一緒にやろうって誘われてます」
「写させないでね」
「大丈夫です。お菓子でどうにか誘導を」
「桜和さん、氷華の扱い慣れてきたね」
少し羨ましいという気持ちはあるけど、それ以上に妹にこんな素敵な友達ができたことが嬉しかった。あの子、あぁいう性格だから、中学の頃は一人でいることが多かったし……。
「軽音楽部の歌詞の方は、練習がある日に渡しますね」
「え、わざわざ学校まで来なくても……」
「いえ、私も学校に来る用事があるので、その時でも」
「部活?」
「はい。実は、顧問の先生に、お菓子のコンペに出てみないかって」
「出るの?」
「自分に、自信を持ちたくて」
少し意外だった。そういうのに、桜和さんは出ないと勝手に思ってた。確かに、なんていうか……好きだけど、とどこか自信がないように感じることは多々あるように思ってはいた。
「そっか、頑張ってね。応援してる」
「はい。頑張ります。なので、お互いに学校にいるときに歌詞をお渡ししますね」
「うん。その時は連絡して、取りに行くから」
「はい」
ちょうど、桜和さんが笑顔で返事をしたときに、夜空に花火が上がった。
私たちの視線は上を向き、色とりどりの、様々な形の花火を見つめた。
「雪凪先輩」
不意に名前を呼ばれ、私の視線は花火から桜和さんに向けられる。彼女も私の方を見ていて、お互いに視線が交わる。
「私の気持ち、全部込めます」
その言葉の意味がわからなかった。どういうことか聞こうとしたけど、桜和さんの視線はすぐに花火の方を向いてしまった。




