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歌詞(こころ)から掬いあげる言葉(きもち)  作者: 暁紅桜
3章:春過ぎて、来たる夏は彼女とともに
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3−31話:空 side

 花火までまだ時間がある。だけど、もう周りでは場所取りで屋台のある通りから外れる人が多く見られる。最初に比べたら人通りも少なくなってきた。


「もう一つぐらい回ってから花火の見える場所に行こうか」

「あ、はい」

「どこか行きたいところない?」

「えっ、と……」


 考えるそぶりを見せたけど、本当は何も考えてない。

 やっぱり先輩は私の方を見てくれない。ずっと前を向いて私に話してくる。さっきまであんなに楽しかったのに……なんだかそのまま足を止めて泣き出しそうだった。


 「あ……」


 私は思わず足を止めた。

 だけど、そのまま泣き出すわけじゃない。私が足を止めたのは、ある屋台の景品として置かれているぬいぐるみが目に入ったからだ。

 前に氷華ひょうかちゃんに勧められた、とあるアニメのキャラクター。


「欲しいの?」

「へ? あ、はい……」

「おじさん、1回」

「はいよ」


 まるで当たり前のように、先輩はそのまま屋台に近づいてそのぬいぐるみをとってくれようとした。

 屋台は”射的”。1回100円で五発まで撃てるみたい。ゲームは氷華ちゃんと遊ぶときにやる程度だけど、こういう撃ったりするのは苦手。


「先輩、こういうの得意なんですか?」

「まぁね。昔、ここじゃない射的屋で氷華と景品取りすぎて出禁になったんだよね」

「うぇ!?」

「今回は大丈夫だよ。あのぬいぐるみだけとるからさ」


 パンッ!と乾いた音をたてながら弾は打ち出される。

 一発目はぬいぐるみの右上の頭をかすった。その後の三発は当たることなく外れてしまった。


「難しいですね」

「くっそぉー……」

「あの、む、無理しなくてもいいですからね」

「いや、絶対とるから。この一発にかける!!」


 真剣な表情でおもちゃの銃を構える。

 何気なく目に入ったぬいぐるみだったけど、先輩がこんなに必死になってとってくれているのがなんだかすごく嬉しい。もし取れなかったとしても、私にはこれで十分だった。


「あ……」

「っし!」


 最後の乾いた音。打ち出された弾はそのままぬいぐるみのこめかみに当たって、後ろに倒れていき、ぽとりと落ちた。


「はい、おめでとさん」

「ありがとうございます」


 ぬいぐるみはおじさんの手から先輩の手に渡り、そして私の手に渡る。


「はい、桜和おうかさん」

「あ、ありがとうございます」


 少し大きめのぬいぐるみ。それを強く強く抱きしめる。

 すごく嬉しい……


「そろそろ場所取りにいこうか。人も少なくなってきたし」

「あ、そうだ先輩。これ、差し上げます」


 私はぬいぐるみを抱きしめながら、手にしている金魚の入った袋を差し出した。


「差し上げます」

「え、いいの?桜和おうかさんが捕まえたのに」

「はい。もともと先輩に差し上げるためにとってたので」


 うちにはきゅーちゃんがいる。ないとは思うけど、もしかしたら食べちゃうかもしれない。


「ありがとう。うちは外飼いの犬だからね、食べたりはしないし」

「あはは、そうですね。お魚は、鳥か猫ですもんね」

「そうだね。そういえば水槽……昔おばあちゃんが亀飼ってたから、聞いてみるよ」


 あぁこの感じ。すっごく幸せ……よかった。また、先輩が笑ってくれてる。私の方を見て、お話ししてくれてる。それだけで、すごく胸が苦しい……


「それじゃあ場所探ししようか」

「はい」


 互いに確認なんてしなかった。

 手は、自然と繋がれた…… 


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