3−30話:空 side
「あ、やった」
「おぉー、嬢ちゃんうまいね。頑張れ頑張れ」
軽音楽部の人たちと別れたあと、少し離れたところにあった金魚すくいの屋台に足を運んだ。
というのも、先輩はそのまま通り過ぎようとしたけど、私が引き止めて「やりたいです」ってわがままを言った形。
袖を濡らさないようにしながら頑張って金魚をすくっていく。久しぶりにやるけど、破れないようにするのは結構難しい……
「あ……」
「ありゃりゃ、破れちゃったね」
お椀の中には王道の小さな赤い金魚と黒い出目金。頑張ってすくった二匹はお椀の中で仲良く泳いでいた。
私はお椀を屋台のおじさんに渡し、金魚を袋の中に入れてもらった。
その間、私は隣にいる先輩に目を向けた。
視線は斜め上。ぼんやりとした表情を浮かべていて、こっちを見てはくれなかった。
「ほら、嬢ちゃん」
「あっ、あ、ありがとうございます」
おじさんから金魚の袋を受け取ると、私は先輩の服を軽く引っ張った。
「先輩、終わりました」
「あ、うん」
その短い返事だけして、そのまま立ち上がった。
私も一緒に立って、横に並んで歩いた。最初みたいに手は握ってくれなかった。
「次はどこ行こうか」
私は先輩の顔を見ていた。だけど、先輩は私と目を合わせることなくそう口にした。
先輩は多分、別に悪気があったわけじゃなかったのかもしれない。たまたま私の方を見なかったのかもしれない。
だけど、なんだか酷く苦しくて悲しくて……目頭が熱くなりそうだった……




