1−5話:雪side
「ただいま……」
祖母の用意してくれた美味しい晩御飯を食べてる途中、ぐったりと疲れた様子のお母さんが帰ってきた。
「おかえり」
「おかえりぃー」
「あーう」
「今日は帰ってこれたんだね」
「なんとかねぇ……」
力無いピースをしながら、お母さんはそのまま床に座り込み、机に突っ伏した。
祖母はお母さんの分の食事の準備を。氷華はインスタントではあるが珈琲を入れてあげていた。完全に出遅れてしまい、そのまま霜汰を抱きかかえ、疲れたお母さんに渡して肩を揉んであげた。
「あぁそこ……あー……ぎもじぃ……」
「あぅ、あー」
「お母さん、はい。珈琲だよ」
「ありがとう氷華」
「お疲れだね」
「結構つめつめだったからねぇ」
お母さんは、デザイナー。というか、アニメの背景などの美術担当をしている。仕事柄定時に上がることはできないし、早朝から仕事先に行くこともある。だから、こうやって顔を合わせるのも結構珍しいこと。たまにこうやって早く帰ってきたときは、こうやって疲れたお母さんをみんなで癒してあげている。
「あぁ、子供達が私の癒しー、元気でるわー」
「お母さん、そんなに霜汰を抱きしめないの」
「お姉ちゃん羨ましいんだ」
「別にそんなんじゃない」
「なんだ雪凪、お母さんに甘えたいのかい?」
「はいはい」
「冷たいなー」
「お母さん、氷華もぎゅーしてー」
「良いわよ。おいでー」
「わーい」
なんだかこの感じ久々だな。
家の中がこんなに賑やかなのはいつ以来だろう……お父さんはいないけど、お母さんがいるとホント家の中が明るい。
お父さんお仕事頑張れ……
「あ、そうだ氷華」
「んー?」
「またサポートでライブやるけど見にくる?」
「あー、それねー。さっき友達に誘われたから行くよー。チケットもその子が二枚もらったってー」
「え、そうなんだ」
たまにギターサポートをするとあるバンドから「またお願い」と頼まれ、自分がバイトをしているライブハウスとは違うところで演奏をすることになった。いつも氷華にチケットを渡すために2枚もらってるのだが……どうしたものか。
「あ、なら私がもらうよ」
「え、会社の人にあげるの?」
「何言ってんの?お母さんが見に行くのよ」
「でも、仕事忙しんじゃ……」
「たまには可愛い娘のステージを見に行かせてくださいよ」
少し乱暴に私の頭を撫でるお母さん。正直すごく嬉しい。
昔からお母さんは仕事が忙しくてあまり行事とかに参加してくれなかった。幼いながら、お母さんの仕事の大変さを私も氷華も知っていた。それに、お母さんの代わりに祖母やお父さんが行事に参加してくれたから、不満なんてなかった。だけど、やっぱりお母さんが来てくれることがすごく嬉しかった。
「でも、霜汰の面倒……」
「おばあちゃんもいるし、なんならお父さんにやらせれば良いわ」
「お父さん可哀想だねぇ」
「それに、高貴君夫婦もその日来るし、お父さんがダメならお願いするしね」
こういう所が母のいいところであり、悪いところでもある。お父さん、高貴おじさん。申し訳ない気持ちはあるが、一日だけよろしくお願いします。
「もう一人は誰誘うのぉ?」
「苺を誘おうかなって思ってる。あの子、日曜日は基本お休みだって言ってたし」
「苺ちゃん来るんだ。楽しみ!!」
ということで、私のチケットはお母さんによって消化することができました。
その後は途中だった食事を終え、そのまま自室に戻ってライブ曲の練習と新曲の作曲作業。
「ららららら〜」
ライブは当然楽しみ。知り合いがたくさんきてくれるから、サポート役でも頑張りたいと思う。
だけどそれ以上に、早く今作っている“水色の桜”さんの今日を弾きたくて
口元が緩んでしまう。