3−26話:空 side
「先輩!」
先生と別れた後、少し急いで昇降口に向かった。
まだ何人か生徒がいる中、先輩はスマホをいじって時間を潰していた。
「すみません、お待たせして。氷華ちゃんは……」
「まだ来てないよ。長引いてるみたい」
辺りを見渡すが、氷華ちゃんの姿はなかった。どんな内容で呼び出されてるかはわからないけど、怒られてなければいいな……
「んー、桜和さんのお菓子楽しみだなぁ」
「そ、そんな……な、なんかハードルが上がります」
「そんなに萎縮しなくてもいいよ。自身持って!」
ガッツポーズを取る先輩を見て思わず笑ってしまう。
家に帰る前にジュースを買いたいと伝えれば、了承をもらった。後は、氷華ちゃんを待つだけ。本当に大丈夫かな……
「あ、そうだ。今のうちに音源渡しておくね。家で渡してもいいけど、すぐに話ができるように」
「あ、はい。ありがとうございます」
先輩からデータを受け取ると、私は目をキラキラと輝かせる。だって、詩のついてない先輩の音源て結構レアもの。それを持ってるなんて感動。
「あ、詩ができたら私の方から直接お姉ちゃんに渡しておきます。振り分けはお姉ちゃんたちに任せようかと思って」
「わかった。でも、私もみたいから、詩ができたら私にも頂戴」
「わかりました。ちょっと、恥ずかしいですけど」
もう何度も渡してるけど、こうやって改めて「頂戴」と言われる何だか恥ずかしい……
「軽音楽部の方はどんな感じ?」
「えっと、もう少し待って欲しいです」
「大丈夫だよ。あっちには言っておくから」
いつものように優しい笑顔。その顔を見て、私は心の中で決心する。
「あ、あの先輩……実は一つ、お願いがあります」
「ん、何?」
声が少し震える。胸がドキドキする。だけど言わなきゃ。頑張れ私……。
「あ、明日の花火大会、一緒に行きませんか?」




