3−23話:空 side
「くーちゃんどこか寄る?」
「んー、どうしよっか?」
その日の放課後、昇降口で氷華ちゃんとお話をしていた。
今日は全部活お休みのため。一緒に帰ろうということになった。特に寄るところもないけど、せっかくなら何処かに寄ろうと話しているところだった。
「氷華、桜和さん」
不意にもう聞き慣れた声が聞こえて振り返った。
「先ぱ……」
「雪ねぇー!!」
私の方が先に声をかけたはずなのに、氷華ちゃんの方が被せるように返事を返して、そのまま先輩に抱きついていった。いいなぁ……
「雪ねぇ聞いて!六限目席替えだったんだけど、また一番前になった!」
「まぁ、監視だね。寝ないようにね」
「雪ねぇ酷い!」
泣きながら強く先輩を抱きしめて、そんな氷華ちゃんをあやす雪凪先輩。姉妹だからその光景は当たり前なんだけど……
「いいなぁ」
無意識にそうつぶやくほどには、羨ましいと思った。
「桜和さんはどうだった?」
「へ?」
突然声をかけられて、素っ頓狂な声をあげてしまった。
ニコッと笑顔を浮かべて、私の返事を待つ先輩。
「あ、えっと……廊下側の窓際の席になりました」
「あぁ窓際っていいよね。壁にもたれかかれるから」
「そうですね」
「うぅ……くーちゃん羨ましい」
グスッと泣きながら氷華ちゃんはそういうけど、私はその状態が羨ましいよ。できることなら変わってほしいぐらいだよ氷華ちゃん。
「そういえば、五時間目の授業って何だった?」
「五時間目ですか?古典でしたけど……どうしてですか?」
「私のクラス、五時間目は体育だったんだけど、グラウンドから桜和さんが見えたから」
「ふぇ!?み、見てたんですか!?」
「うん、すっごく綺麗な横顔だったよ」
見られてたなんて、すっごく恥ずかしい。しかも、ちょうど朗読してたところだったなんて……うわぁ、あそこ見られてたんだぁ。
「聞いて見たかったな……」
「へ?」
「え……あ、いや……」
先輩の口からこぼれた思いもよらない言葉に驚いてしまった。先輩自身も思わずって感じで、すぐに口を塞いでいた。顔も赤い。
「雪ねぇ……?」
「ご、ごめん。じゃあ私先に帰るね。二人とも遅くならないようにね」
「あっ、先輩!!」
先輩はそのまま慌ててその場を後にしていった。
取り残された私と氷華ちゃんだったけど、私は言われた言葉と先輩の反応に嬉しさと恥ずかしさで、顔を覆いながらその場に座り込んだ。
「よかったね」
と言いながら氷華ちゃんが肩を叩いてくるけど、よかったのかな?よかったって思っていいのかな?




