3−19話:空 side
「あ、あの!今度は先輩の家族のこと、教えてください!」
公園に来て、空いているベンチに並んで腰掛け、買ったタピオカを飲んだ。
少しだけぬるくなったけど、別に美味しくなくなったわけではないので、ゴポゴポと音を立てながら飲んでた。一気飲めるものではないので、休憩しながら。
また、少し頑張って話題を振った。さっきは私の両親、父の話をした。今度は先輩の家族のことを聞きたかった。
「んー……うちはなぁ……お父さんは普通のサラリーマンなんだ。でも、音楽が大好きなの」
「お父様が先輩の音楽のきっかけ、なんですよね」
「うん。お父さんのおかげで今の私があるから」
どこか誇らしげに、自信満々な先輩。その横顔はとても綺麗で、かっこいい。
「お母様は何をされてるんですか?」
「デザイナーだよ。アニメ背景の美術担当」
「アニメ……私はあまり見ませんね」
「私も。そっちは氷華の方が詳しいよ。あの子、お母さんがきっかけで絵を始めたから」
そっか。先輩も氷華ちゃんも、両親の姿を見て自分のやりたいことを見つけたんだ。私も、もしかしたらお母さんの姿を見て、お菓子作りを始めた。それと一緒だ。
「後は、さっき話したお婆ちゃんがいて、氷華がいて、弟の霜汰がいて、氷華が溺愛している愛犬のヒエムスがいるの」
「ヒエムス?」
「うん。氷華がすごい溺愛しててね。ヒエムスがいるから、猫が飼いたくても飼えないんだよね。亀とか金魚とか小さい生き物なら大丈夫だけど」
「うちも、お父さんが猫アレルギーなので飼えないんですよね……」
お互いに猫が好きなのに、それぞれの理由で飼えなくて、二人同時に溜息を零した。流石にこれには驚いて、お互い、思わず笑ってしまった。
「桜和さんは?」
「へ?」
「お父さんのことは聞いたけど、お母さんや他に兄妹がいるのかとか」
「え、えっと……」
少しあわあわしながら、先輩に話をした。
家族のことはもうほとんど話すことはなかった。お姉ちゃんとキューちゃんには会ってる。お父さんのこともさっき話したから、そうなるとお母さんのことになる。
「母は、料理研究家なんです」
「へぇー、すごいね。両親共に専門職」
「そうなんです。多分、お姉ちゃんはお父さんがきっかけで音楽を始めたと思うんですが、私のきっかけはお母さんだったんです」
初めて作った、と言っていいのかわからないけど、父の誕生日の日にケーキのデコレーションをしたのがお菓子作りのきっかけだった。
ぐちゃぐちゃのデコレーションケーキ。お姉ちゃんには笑われたけど、お父さんもお母さんもすごく褒めてくれた。もっと上手に作りたい。もっといろんなものを作りたい。そういう気持ちから、お菓子作りが大好きになった。
「そっかぁ。やっぱりみんな、両親の姿が影響してるのかな」
「かもですね。私もお母さんみたいに作りたいって、駄々をこねたこともあったんです」
「わぁー、それ絶対可愛い」
「え!そ、そんなことないですよ!」
わ、また余計なこと言っちゃった……うぅ……すぐに調子に乗っちゃう。私のばか……。
「でもそっか。じゃあキューちゃんも合わせて桜和さんは五人家族なんだね」
「はい。でも、両親は仕事で忙しいので、家事とかは私がしてるんです」
「うちはお婆ちゃんがほとんどしてくれるけど、なるべく私もやるようにしてるの」
「先輩、料理されるんですか?」
「うん。でも、お婆ちゃんのご飯が美味しくて、あんまりやらないんだ。後、編み物も上手なの。たまにバザーとかにも出してるんだよ」
「女子力高いですね」
「女子力って」
くすくすと笑う先輩。なんかすごく楽しくて、私も思わず笑ってしまった。
それにしても、先輩の手料理か……すっごく興味ある。どんなの作るんだろう……やっぱりお婆ちゃん仕込みで、和食とか?
「どうかした?」
「へ?い、いえ……その……先輩の作る手料理に、きょ、興味があって……」
「なら、今度うちに来る?」
「え!?い、いいんですか?」
「構わないよ。喜んでもらえるかはわからないけど、頑張って作るよ」
あまりの嬉しさに、私は思わず手を合わせてしまった。
そんな姿に、先輩は不思議そうにしていた。




