3−12話:雪 side
「あっ! こっちこっち!」
指定されたファミレスへと行くと、春歌さんが手招きする姿が目に入った。
ただ、その場の雰囲気はあまりいい物ではなかった。
「ほら、高校生たち来たんだから機嫌がなおしなよ」
春歌さんのバンドは五人メンバーで、喧嘩してるのは顔を背けているお二方のようだ。お互いに、向かいの一番遠い席に座ってる。
「あ、テストお疲れさま。好きなもの頼んでいいよ」
「は、はい……」
「うん……」
「わぁー、何食べようかなぁ」
氷華はルンルンでメニューを見ていたけど、私と桜和さんはなんというか、その場の雰囲気を気にしてしまう。なんかすごいところに来てしまった……
「梨沙ちゃん、ね?」
「薺も、いい加減機嫌直しなさいよ」
他のメンバーが宥めるも、その、梨沙さんと薺さんはそっぽを向けたままだった。どっちも口を開かないし、話し合いをしたくてもできないって感じ。これは、進まないわけだ。
「お待たせしました。チーズインハンバーグのお客さま」
「あ、氷華の!」
運ばれて来た料理。氷華は美味しそうに、というか幸せそうに食べていた。
私は、隣の席の雰囲気のせいで、注文したカルボナーラがうまく喉を通らない……
「あ、あの……」
「ん?どうしたの?」
「私たちはなんで、その……呼ばれたんですか?」
「いい加減、話をまとめようと思ってね。ほら、メンバー内じゃまとまったりしないからさ……二人に来てもらったのよ」
「そう、なんですか……」
ちらりと視線を他のメンバーに向けるが、特に変わった様子はない。相変わらず、二人が顔を背けて、二人が宥めるという構図。
詳しい内容を春歌さんに聞くと、梨沙さんは”バンドだからかっこいい系がいい”と言っており、片や薺さんは”可愛い系の少し盛り上がるぐらいの曲がいい”と主張していた。他のメンバーは”両方を組み合わせたものがいいのでは”と結論付けたが、お二人は納得しなかった。
「私としても、できれば全員が納得したものほうがありがたいのですが……その、不満を持たれると……気分的に……」
「うん、わかってるよ。ごめんね雪凪」
「ほら二人とも。高校生ちゃん困ってるんだから、しっかり話し合おうよ」
「そんなこと言っても、私も薺も平行線なんだから仕方ないじゃん。言っとくけど、私は曲げる気ないから」
「薺も曲げる気はないから」
またしても二人は顔を背ける。春歌さんも他のメンバーも、こうなってはお手上げなのか、深々とため息をこぼす。
私もどうしていいか分からず、何かいい案がないかと俯いて考える。
「意見が違うのは当たり前のことでしょ」




