3−9話:雪side
「あっ」
「ふわっ!?」
練習が終わって、軽音楽部員より一足先に部室を出た。
時間も最終下校の十数分前で、人の数も授業が終わったときと同じぐらいになっていた。
そして、ちょうど昇降口にたどり着いたときに、バッタリ桜和さんに会った。
「今帰り?」
コクコクと少し激しめに頭を上下に振る桜和さん。その様子が可愛くて、思わず笑ってしまった。
「もし迷惑じゃなかったら、途中まで一緒に帰らない?」
「あっ、はい! ぜ、是非!」
「よかった。じゃあ、靴履いてくるね」
軽く手を振って自分の下駄箱へと向かう。
少しだけ胸が高鳴った。口元も緩んでしまい、早く顔を見たいなと思っていつもより少し慌てて靴の履き替えを行った。
「それじゃあ行こうか」
「は、はい」
私は電車通学。桜和さんは徒歩通学。GWでの出来事から一緒に下校することもあったけど、その時はいつも氷華がいた。二人っきりになるのは随分久しぶりな気がする。
「最近氷華どう?」
「えっと、一番前なのに堂々と寝てます」
「はぁ……あの子は……期末近いのに……だから夜更かしするなって……」
「でも、氷華ちゃん成績いいですよね」
「だから先生も怒るに怒れないって言ってた。まぁ生活態度悪いと成績落ちるから注意はするけどね」
最初はお互い無言だった。私の自意識過剰かもしれないけど、多分桜和さんも久しぶりに二人で帰るから緊張してるかもしれない。
なるべくこっちから話を振って会話をする。会話が盛り上がれば、桜和さんは結構饒舌だから、とっても楽しい。
「詩の進捗はどう?」
「ちょっと苦戦してます」
「私も。今月は期末あるし、曲とか詩に専念できないか、ら……来月、少し話さない?」
「あ、はい。大丈夫です」
「ありがとう。是非ともその時は桜和さんのお菓子が食べたいな」
「が、頑張って作ります!!」
気合の入った一言に、流石に吹き出して笑ってしまった。なんで笑われたのかわかってない桜和さんはすっごく慌ててたけど、その様子が可愛くて、あえて笑った理由を口にしなかった。
「ありがとう、駅まで送ってもらっちゃって」
「い、いえ!いいんです」
桜和さんにとっては駅までの道のりは少し遠回り。だけど、いつもここまで一緒に歩いて、見送りまでしてくれる。
いつもなんだか申し訳なくなって謝ったりするけど「運動になるので」と言ってくれる。そんなに太ってないのに。
「あ、そうだ先輩。これよかったらどうぞ。今日の部活で作ったお菓子です」
「わ、ありがとう。これ……クッキー?」
綺麗に包装された袋の中には、たくさんのクッキー。だけど、前にもらったものとはなんだか少しだけ違うけど……
「ロシアケーキっていうんです。二度焼きしたクッキーに、ジャムとかクリーム、チョコを塗ったり、ナッツを載せたりしたクッキーなんです」
「へぇーそうなんだ」
「ロシアンクッキーの別名で呼ばれてるんですけど。あっ、ロシアンクッキーっていうのが……ハッ!すみません、わ、私……」
夢中でお菓子のことを話す桜和さんは、一緒に会話してる時以上に饒舌だった。そっか、桜和さんはお菓子の話が好きなんだ。知れてよかった。
「気にしないで。そうだなぁ……じゃあ、さっき話した来月の打ち合わせ、その時にさ、そのロシアンクッキーを用意してくれると嬉しいな」
「あ、はい!せっかくですし、ロシアンクッキーとロシアケーキの食べ比べしてみますか?」
「あ、いいね。なんだかちょっと楽しみになった」
その後は、また少しお話をして改札で別れた。
改札をくぐって振り返ると、まだ桜和さんはいた。大きく手を振れば、彼女は少し控えめに手を振ってくれた。




