3−6話:空side
「ただいまぁ」
授業と部活が終わって、特に寄り道することなく私は家へと帰った。まぁ途中、新しくカフェができていてちょっと気になったけど、ぐっと堪えて家へと帰った。
「おはへりー」
「あ、お帰りなさい、空ちゃん」
「あれ、お母さん」
リビングの扉を開いて、私は少し驚いた。お姉ちゃんはいつも通りだけど、台所にはお母さんの姿があった。
お母さんは料理研究家で、普段すっごく忙しい。朝早かったり、夜遅かったりと顔を合わせることがほとんどない。だから、今台所でご飯作ってるのはどれぐらいぶりになるだろうか。
「もうすぐご飯できるから、手を洗っておいで」
「う、うん。わかった」
「春ちゃん、ご飯前にお菓子食べないの」
「んー……」
お母さんとお姉ちゃんのやり取りを見ながら、自室に戻って部屋着に着替える。
「お母さんのご飯か……楽しみだなぁ」
ウキウキと胸を躍らせながら着替えをしていると、誰かからかメッセージが届いた。上を着ている途中だったので、慌てながらもしっかりと着てからメッセージの確認をした。
相手は雪凪先輩からだった。お昼の事を思い出して胸がドキドキしてしまったけど、相手が目の前にいるわけではないから、とりあえずいつも通り会話をする。
【桜和さんごめんね、今大丈夫?】
【はい、大丈夫です】
【実は軽音楽部の子から演奏のサポートと新曲の製作を頼まれたんだけど、作詞を桜和さんにお願いできないかなって】
文化祭。お姉ちゃんもそうだけど、やっぱりこの時期から音楽関係は準備を始めるんだなと思った。先輩の曲への作詞。しかも先輩直々のお願い。断るはずない。
【私でよければ是非】
【助かるよ、ありがとう。でね、なんかラブソングがいいって言われてね】
「ラ、ラブソング?」
つまり恋の曲?先輩が恋の曲を作るって事?先輩……好きな人いるのかな?とか思ったけど、文面を読み返して、“言われてね”って書いてあり、つまりは軽音楽部の人が先輩に頼んだと言う事。うん、早とちりした。
「ラブソングか……恋……か、書けるかな……」
今まで、自分が感じた事を歌詞にした。私の中にある恋心は、先輩に対するもの。それを素直に書いて、先輩に知られたりしたらどうしよう……。やっぱり、断るべきかな?
「恥ずかしいけど、挑戦してみたいな」
知られてもいい。隠したり嘘ついたりするよりも何倍もましだ。私は先輩に【頑張ります】と返信を返した。
【それと、春歌さんに、いまの状況を聞いてもらってもいいかな?】
と言う先輩のメッセージが送られてきた。
あぁそうか。先輩が曲依頼を受けたのは、お姉ちゃんたちへの曲作りがストップしてるからなんだ。
動画投稿はメインじゃないけど、先輩の中ではお姉ちゃんたちへの楽曲提供が最優先なんだろう。
【わかりました、ちょうど帰って来てるので聞いてみます】
【ごめんね、よろしく】
「空ちゃーん、ご飯できたよぉー」
お母さんの呼ぶ声が聞こえ、私は先輩に親指を立てたウサギのスタンプを送って、リビングへと向かった。




