3−3話:雪side
「そういえば、春歌さんから何か聞いてる?曲のこと」
数名の生徒がいる1年生のクラス。そこで一つの机を囲みながらお昼を食べる私たち。若干一名、氷華だけはすでに食べ終わっているが。
「……バンド解散の危機です」
「え!」
「なんかメンバーの中で主に二人の人が揉めてるみたいなんです。音楽性の違いってやつで……」
「うん、私もそれは聞いたけど……まだ揉めてるんだ……」
こればっかりはどうしようもないなぁ……バンドやってれば、いつか必ず通る道と言っても過言ではない。
「間に合うかな……」
「私の方からお姉ちゃんに言っておきますね」
「ごめん。そこは任せるよ」
とは言っても、正直心配だ。春歌さんたちが練習することも考えれば、なるべく早く話をまとめて欲しいと思ってる。
桜和さんも同じことを考えたのか、私たちはほぼ同じタイミングで深い深い溜息を零した。
「……ところで雪ねぇ。この絵見て」
わずかに流れる重い空気と沈黙の時間。
それを破るように、氷華がふわふわとした声でお絵かき用のタブレットを見せてきた。
「わぁ、綺麗」
デジタル水彩画で描いた雨のイラスト。神秘的な森の中で青空の絵が描かれた傘をさす獣人の幼い子供の絵。
「この前聴かせてもらった雨の曲。あれから連想して描いた」
「さすが氷華」
「1時間耐久で、作業用BGMにしたら?」
「んー……確かにそういうのもありだな」
静止画動画にはなるけど、今までになくてこれはこれでいいかもな……。
まぁこの子は絵が描けるならなんでもいいんだろうな。
「さすが氷華」
「えっへん。もっと褒めてくれていいんだよぉ」
「さすが私の妹ー」
わずかに棒読みでそう言いながら頭を撫でれば「言葉に心がこもってない」と不満を言われるが、それでもなんだかんだ嬉しそうにしてるのでよかった。
「ん?桜和さん」
不意に、桜和さんが羨ましそうにこっちを見ていた。何に対してだろう……としばし考えて私は思った。きっと、氷華にだけ曲を聴かせたからだ。
「今度聴かせてあげるよ、曲」
「え、あぁ……ありがとうございます」
あれ、違ったかな?なんだか少し悲しそう……?でもお礼言われたし、間違ってない、よね……
「あ、口についてるよ」
本当になんの下心もなく、普段氷華にするように口元についてる食べかすを取ってあげた。
その時は特に気にしてなかったけど、ポカーンとしている二人の顔を見て、自分が何をしたのかを改めて認識した。
「あ、ごっ、ごめん!!無意識に!!」
「い、いえ……」
「雪ねぇのえっち」
「違う!ほ、ほんとごめん……つい、いつもの癖で」
「だ、大丈夫です。わ、わかってますから」
とは言われても、顔真っ赤にしてるし……嫌だったよね。うん、そうだよね……姉でもないのにこんなことされて……
と、その時予鈴のチャイムが鳴る。私は少し慌てながら荷物を片付けて椅子から立ち上がる。
「そ、それじゃあ私教室に戻るね。お菓子ごちそうさま!」
私は逃げるように教室を出た。
途中先生に「走るな」と言われ、歩きに変えるけどほぼ早歩き。階段の影に隠れて上がった息を整える。心臓がひどくドキドキしてるけど、きっとこれは走ったり早歩きをしたからだ……




