3−2話:空side
みなさんこんにちは、空色です。現在私はソワソワしてます。
先ほど四時間目の授業が終わって、お昼休みになりました。そして、もうすぐ雪凪先輩が来るのです!!どうしよう緊張する!!
「……くーちゃんさ……初めてでもないのになんで緊張してるの」
ぼーっと私のことを見ていた氷華ちゃんが、首を傾げながら心底不思議そうにそう尋ねてきた。
「初めてじゃないけど、それでも緊張しちゃうの!」
「雪ねぇだから?」
「うん、そう!」
これでもまだ、初めての時に比べたら落ち着いてる。初めて一緒に食べた時は、緊張で体はほとんど動かない。会話らしい会話もできない。お弁当もまともに食べられないと散々だった。うぅ……今思い出すとかなり恥ずかしい!
「何度味わっても……好きな人と一緒っていうのは緊張するものだよ」
「氷華はよくわかんないけど、そういうもんなんだね」
のほほんとしながらそういう氷華ちゃん。というより、私のことよりもお弁当の方に夢中だ。いつの間にかもう食べ終わっちゃってるし……ホント、氷華ちゃんは欲望に素直だな……こういうところは素直に尊敬する。
「失礼します」
開けられていた扉から声が聞こえて、胸がどきりとする。もう何度も聞いた、先輩の声。振り返った先には、お弁当を持った先輩が手を振りながらこちらにやって来る。あぁやばい。すっごいドキドキする。
「あ、雪ねぇ」
「氷華、あんたさっきの授業寝てたんだって?」
「ハッ!なぜそのことを……」
「さっき廊下で宮田先生に聞いた」
「うぅ〜、だって古典わかんないんだもん」
「古典に限らないでしょ、あんたの場合は」
と、目の前で繰り広げられる如月姉妹のやりとり。先輩に頭を叩かれる氷華ちゃんを見て“いいな”なんて思ってしまった。
不意に、先輩と目が会う。収まっていたドキドキがまた込み上がってきて、心臓を掴まれるような息苦しさを感じてしまう。
そのせいか、まるで金魚のように口をパクパクさせてしまう。何を話そう。何か言わなくちゃ……
そんなことを考えていると、氷華ちゃんがガッツポーズをしてきた。目から「頑張れ」と言っているのがわかり、私は何度か深呼吸をする。
不思議そうにしている先輩の前に、私は家庭科の授業で作ったお菓子を差し出す。
「こ、これ!授業で作ったので、よ、よかったら先輩、どっ、どうぞ」
「桜和さんが作ったやつ?」
「は、はい!」
「ありがとう。大事に食べるね」
もう死んでもいいと思えるほど、十分に嬉しい言葉。あまりの嬉しさに涙が流れそうになって顔を覆った。
「氷華は?」
「食べた」
「うん、知ってた。ちゃっかりお弁当も食べ終わってるし。待てもできないのかね君は」
「ヒエムス以下というわけです」
「こらこら否定しなさいよ」
という会話が聞こえてくるけど、いまはそれよりも嬉しさでお腹いっぱい……食欲ではないです。幸福欲です。
「桜和さん、ご飯食べよう」
「雪ねぇちょーだい」
「もうあんたは食べたでしょうが」
優しい声。私の大好きな声が私に向けられている。それだけで、私は幸せだった。
「はい。私も、氷華ちゃん見てたらお腹減っちゃいました」
「きゃー、くーちゃんに食べられちゃうー」
「へっ!そ、そういう意味じゃないよぉ〜!!」




