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歌詞(こころ)から掬いあげる言葉(きもち)  作者: 暁紅桜
1章:春、送られてくる彼女の心
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1−2話:空side

 私、桜和おうか空色くしなは高校に入学してから、とある人にあるものをずっと送り続けています。

 一つ年上の如月きさらぎ雪凪せつな先輩。

 長くて綺麗な黒髪をポニーテールにしている、クールでかっこいい先輩。私の憧れで、想い人です。


 先輩との出会いは、私が中学三年。その秋のことです。



「空色。今日暇? うちのライブハウスでライブあるんだけど、見にこない?」

「えぇー……」

「そんな不服そうな顔しないの。受験勉強の息抜き。というか、まだ行くところ決めてないの?」

「お姉ちゃんには関係ない……」



 この時の私は進路に悩んでいた。お菓子作りが好きだけど、そういう専門的なことが学べる学校は家からじゃ遠いし、お金もかかる。なんて、いろいろ言い訳を言って、今までズルズルと進路希望調査票を空欄にして提出していた。


 ライブが行われる時間帯、結局私はお姉ちゃんがバイトしているライブハウスに足を運んだ。何度か見かけたけど忙しそうにしていたので、声はかけず、私は受付をすませると会場の一番後ろの壁際に寄りかかってライブ鑑賞をしていた。


(楽しそうでいいなぁ……)


夢を持っている、キラキラとしている姿に羨ましいなと想いながら私はじっとステージを見ていた。私は人見知りだから、あんな風に人前で何かするというのは苦手だ。だけど、何かを目指して、それに向かってる姿がなんだか羨ましい。私は、怯えて一歩を踏み出せないのに。


♪〜


 不意耳に入ってきた声に、私は顔をあげた。

 いつの間にか次のバンドが始まっていて、会場は大いに盛り上がっていた。

 だけど、私の耳に周りの声は聴こえなかった。聴こえて来るのは、彼女の歌声だけ。私の目は、ひどく彼女に惹かれていた。


 あの日の感覚は忘れられない。

 黒いポニーテールをなびかせながらギターを弾き、会場に響き渡る心を撫でるような声音に、ぞくりと体が震えた。

 

 目が離せない。心臓がばくばくする。どうしてだろう……なんだろう、この感覚……今まで感じたことがないその感覚の答えは、ライブが終わってすぐにわかった。


「ありがとうございました」


 汗をかきながら、笑顔で手をふる彼女。会場に溢れる観客からの拍手。


 あぁそうか。これが、【恋】なんだ……。


 私はお姉ちゃんに頼んで、先輩の通っている学校を教えてもらい、そこを受験した。

 【輝夜かぐや高校】は地元でも有名な女子校で、文化部の実力が高いことで有名で、お菓子作りをする製菓部もあるので、とりあえず充実した高校生活は送れそうだった。


 無事に輝夜高校に入学することができ、これで先輩と仲良くなれる。そう思っていたが、最初の方でも話した通り、私は人見知りで気持ちをうまく伝えることができない。そのため、先輩を見かけても声をかけることができなかった。

 ただ物陰から先輩を見つめるだけ。それは、はっきり言ってストーカーみたいで、自分でも何やってるんだろうと思った。


 そんなある日、私は先輩と同級生のとある会話内容を耳にした。


「雪凪はさ、なんで自分の曲歌わないの?」

「いや、私作詞は苦手でね。どうにも言葉が出てこないんだよ」

「せっかくいい曲も作れて、声も綺麗なのに勿体無い」

「あははっ、褒めてくれてありがとう」


 それを聞いて、私は「これだ!」と思った。

 なんども言いますが、私は人見知りで気持ちが伝えられず、ずっと胸の中に感情を押し込んでいることが多々あった。それがとっても苦しくて、たまにポエムというか、歌の歌詞みたいに書き起こすことがあった。


「んー……これじゃあんまり歌詞っぽくないな……別の言い回しないかな」


 勉強やお菓子作り以外でこんなに調べ物をしたことはなかった。でも、全然苦ではなかった。楽しかったし、なんだか胸がすっごいドキドキした。


「できた!!」


 初めて書き上げた歌詞は、今思えばちょっと拙いかなって思うけど、その時はすごく“早く先輩に渡したい”って気持ちでいっぱいだった。


 だけど、残念ながら私は人見知りだし相手は想いを寄せている先輩。声をかけることすらできなかった。


「……仕方ない。下駄箱に入れるか……」


 手渡しがいいんだけど、どうしても勇気がでない。それに、自分のことを知られるのが少し恥ずかしい。

 そう思うと、送り主のところに水色の桜マークを添え、私は先輩の下駄箱に手紙を入れた。マークの意味は、苗字の桜。名前の空を組み合わせたもの。


 それが、入学して最初の一週間の出来事。それ後も、私は先輩に手紙……と言う名の歌詞を送り続けた。


「くーちゃん今日部活?」

「ううん。あっ、そうだ。これ、よかったら食べて」

「わぁ〜、くーちゃんのお菓子だぁ」


 手紙のことを知ってるのは、お姉ちゃんと友達の氷華ひょうかちゃんだけ。それ以外は、誰も知らない。


「お姉ちゃんにも渡すね」

「あ、うん。気に入ってもらえるといいな」

「大丈夫だよ。お姉ちゃん、くーちゃんのお菓子大好きだから」


 今日の分の手紙はお昼中に下駄箱に置いた。先輩は帰宅部で帰るのが早いから。


(今回の、気に入ってくれたかな……)


少しの期待と不安を抱きながら、氷華ちゃんと教室を出ていった。


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