2−9話:空side
「急で申し訳ないんだけど、空色と一緒に一曲作って欲しい」
「んぶっ!」
お姉ちゃんの突然のお願いに、私も先輩と同じように咳き込んでしまった。
「え、大丈夫?」
「雪ねぇ大丈夫。ほら、トントン」
氷華ちゃんは先輩の背中を。元凶であるお姉ちゃんは私の背中をさすってくれた。誰のせいだと……
「ケホッ、ケホッ……えっと、どういう……」
「大学の学祭で新曲を披露したくて。二人の実力を高く評価してるからこそお願いしたいの。もちろん、二人のペンネームの方でクレジット表記するし、なんならネットに上げてもらっても構わないから」
いつもにも増して必死なお姉ちゃんの様子に疑問を抱きながら、私は先輩の方を見た。
「私は別に構いませんよ」
少しタジタジしながらも先輩はそう返事をした。氷華ちゃんも、ネット投稿していいと聞いた時に、絵が描けると喜んでいた。
「空色はどう?」
あとは私の返事だけ。正直あんまり乗り気ではなかった……けど、先輩がやると言っている。なら、答えはもう決まってる。
「雪凪とやれるよ(小声)」
私が答えを口にする前にお姉ちゃんが耳元でそう言ってきた。
勢いよく振り返って顔を見れば、すっごくニヤニヤしていた。そんなこと言わなくたっていいよ。というか、わざとだ。絶対お姉ちゃんわざとやったんだ!ホント意地悪!
「わかった、やるよ!もう!お姉ちゃんのばか!」
少し怒鳴りつけるようにいうものの、お姉ちゃんは特に気にした様子もなく、にっこりと笑みを浮かべて「ありがとう」と白々しくいう。
「それじゃあ、話もまとまったことだし、雪凪には私たちのバンドの曲を聴いてもらわないと」
「そうですね。参考があれば助かります」
「ということで、このまま私の部屋へご案内」
「「え?」」
お姉ちゃんはそのまま先輩の手を引いて、部屋へと向かった。
「ちょっ、お姉ちゃん!まっ……」
私の制止の声も虚しく、お姉ちゃんは先輩を連れ去ってしまった。
その場に取り残された私と氷華ちゃん。私は手を伸ばしたまま固まってしまっていたが、氷華ちゃんはもぐもぐとお菓子を食べていた。
「くーちゃん、ケーキもう一個もらうね」
「……うん。好きなだけ食べて……」




