5−41話:雪 side
先輩とのクリマスデートからあっという間に日が経って今日はもう年末。
残念ながら、あのデートの後、先輩とは一度も会えずにいた。
お互い色々と忙しくて、会おうにも会えずにいた。
そして今日は久々に先輩に会える!!ととても嬉しい。
お母さんがせっかくならと振り袖を出してくれて、綺麗にしてもらったけど……ちょっと気恥ずかしくてそわそわしちゃう。
「お待たせ」
「ふわぁー……」
聞こえた声に嬉しくなってすぐに振り返す。
私服姿の先輩が手を振って近づいてくる。その隣、大きなあくびをしながら先輩の腕にペッタリとくっついている氷華ちゃんがいる。
その様子を見て、高ぶった感情が下がって行く。
「お待たせ。わぁ、振り袖。すごく可愛い」
「あ、ありがとうございます」
「すごいなくーちゃん。寒くない?」
眠気まなこでそう言ってくる氷華ちゃんの服を掴み、私は引っ張って先輩から引き離そうとする。
「ん?なーに?」
「先輩から離れて」
「……え、くーちゃんヤキモチ?可愛いぃ」
「違うもん!」
ニヤニヤしながら言う氷華ちゃんに、その通りなんだけど素直にそうだとはいえずに否定をする。
だけど、当然私の反応ですぐにバレてしまうからあまり意味はないけど。
「空色はこっちおいで」
くすくすと笑う先輩が空いている方の手を差し出してくれた。
嬉しいけど、やっぱり逆側を氷華ちゃんに取られてるのは不服。
「欲張りさんだね、くーちゃん」
「だから違うもん!」
「はいはい、喧嘩しないの」
人並みに沿って、三人一緒に迷子にならないように参拝を済ませ、配られていた甘酒を飲んで、時間になるのは待った。
「うぅー、寒いよ雪ねぇ」
「氷華ちゃん!」
「空色もくっついていいよ」
「……失礼します」
ぎゅっと、反対側にいる氷華ちゃんと同じように体を寄せれば、先輩が腰に手を回して抱きしめてくれた。
最初は、歌詞でしか自分の気持ちを先輩に伝えることができなかったけど、いまは自分の口で、自分の気持ちを先輩につたることができるようになった。
歌詞は今でもたまに書いている。基本的に先輩の曲にだけ作詞をするようにしてる。
「そういえば、空色は何をお願いしたの?」
時間までのたわいない会話。それを聞かれると先輩のお願い事も気になってしまう。
だけど、私はよく先輩が私に向けるいたずらっぽい笑顔を浮かべる。
「お願い事を口にすると叶わなくなっちゃうから秘密です」
「あらら、それは残念」
私のお願いはたった一つだけ。
“先輩とずっといられるように”
「10、9、8……」
その時、カウントダウンが始まり、私たちも周りの人たちと一緒にカウントダウンを口にし始める。
数字が小さくになるに連れ、少しだけ胸が高鳴ってく。もうすぐ年が明ける。
「0!ハッピーニューイヤー!!」
あたりにいた人たちが大いに盛り上がり、深夜だと言うのに人の声がひどく響き渡る。
「先輩」
「ん?」
「あけましておめでとうございます」
「……うん、あけましておめでとう」
周りの声を聞き、お互いに新年の挨拶をしながら、繋いだ手をお互いに強く強く力を込める。
それはまるで、お互いに”離さないから”“離さないでください”と言っているかのように……
【完】




