5−38話:空 side
会場は満員で、私はなんとかステージの一番前に行くことができた。
先輩たちのバンドの前に数組のバンドが演奏して会場は大盛り上がり。
私一人でステージを見上げている。氷華ちゃんも来てるとは思うけど、どこにいるかはわからない。
不安な気持ちを感じながらも、じっと、祈るようにステージを見上げる。
(あ……)
しばらくしたら、先輩たちがステージに盛り上がった。
先輩たち目的のお客さんの歓声が上がる。
大勢いるお客さんの中で、ステージにいる先輩と一瞬目があった。瞬間、先輩が笑みを浮かべる。
あぁ、このステージで、見上げる先輩が私にこうやって笑いかけてくれるのは初めてだ。
「えー、どうもこんにちは。聖夜にライブにきてくれてありがとうこのやろう」
いつもボーカルをやっている人、確か前に先輩が圭人さんと言っていた人がマイクを手にとってそう言った。
その後も、なんていうか妬みツラミを口にするけど、段々自分にダメージがいっているのか、泣き始めてしまった。
観客からは「頑張れー」とか「泣くなー」「僻むなー」とかそんな言葉が飛んでいる。
「うるせー!だから今日は全力でかっこいい俺を見せてやる。精々彼女が離れていかないように頑張れ男ども!」
叫ぶように口にし、アイコンタクトをメンバーに向ける。なびくドラムのスティック音。そして始まる演奏。
会場は盛り上がる。そんな中で、私の視線は常に先輩に向けている。
長い髪をなびかせながらギターを弾く先輩。
何度も見たその姿は、何度見ても惹かれてしまう。
記憶の中でまるで最近のように蘇る光景。
会場の一番後ろで見た、初めて先輩の演奏を見たあの日。
会場の一番前で、氷華ちゃんと一緒に先輩の演奏を見て、初めて会話をしたあの日のこと。
三度目の今日、あの人違うのは、私と先輩が恋人同士になったということだった。
————— 自分の恋人は誰よりもかっこいい
不意にお姉ちゃんの言葉を思い出した。
うん、その通りだよ。先輩は、誰よりもカッコよくて素敵だ。
ステージに立ってる姿も、私といる時の先輩も、いつもいつも先輩はカッコよくて、でもたまに女の子らしい可愛い一面もある。
とても素敵な人。
「ありがとうございました!!別れちまえー!!」
演奏はあっという間に終わり、アンコールも終わって本当にライブはおわってしまった。
お客さんはまだ演奏の余韻に浸っているのか、かなりの人数がエントランスに残ってる。私も、まだ帰りたくなかったから、先輩にラインをして駅まで一緒に帰りたいとお願いをした。返信は「すぐ行く」と送られてきたので待っていた。
すると……
「急ごう!」
「へ?」
誰かに突然手首を掴まれ、それが先輩だと気づく頃には、すでにどこかに向かって走っているところだった




