2−6話:雪side
家に帰った後、私はベットの上で音楽を聴きながら、”水色の桜”こと桜和さんの作った詩を見つめていた。
学校のことを思い出すと我ながら恥ずかしいことを言ったなと思い、深々とため息を何度もこぼす。
帰り道は、駅まで送ってくれたけど一言も話せなかった。唯一口にできたのは、改札を潜る前に「またね」の一言だけ。
やっと会うことができた存在。桜和さんのことを考えるたびに胸の鼓動が激しくなる。
今回の事がきっかけで、下駄箱のやり取りは多分終わり。これから、ちゃんと話ができるか不安だ。また会ってくれるかな。逃げられたりしないだろうか。嫌な考えが頭の中を何度も何度もよぎってしまう。
「はっ……なんだか今の私って気持ち悪い? これじゃまるで、恋する乙女みたいじゃんか……」
今までの自分では考えられない思考に、流石に気持ち悪いと思ってしまい、ベットの上で頭を抱えて悶えていた。
コンコン
「雪ねぇ……って、何してるの?」
扉がノックされて、返事を返す前に氷華が入ってきて冷たい目を向けられた。
「返事する前に勝手に入ってくるなっ!」
「あ、まーい!!」
勢いよく枕を投げるが、ドヤ顔をしながらそれをキャッチする氷華。なんかすっごく頭を叩きたくなる顔……
「それで、雪ねぇはベットの上で何してたの?顔赤いし」
「別に何も……」
「ふーん……エッチなこと?」
なんて言ってきたのですかさず頭を叩いてやった。そんなことするはずないだろ。失礼だな……というか、どこでこの子はそんな知識を……
「で、本当は何があったの?」
「あー……まぁ実は、ですね……」
今日の出来事を、私は包み隠さずに話した。一応、氷華も事情を知ってるわけだし。話してる途中、氷華は頷くばかりだったけど、割って入ったりはしなかった。
「いやー、雪ねぇもくーちゃんもよかったよかった」
「やっぱり、氷華は知ってたのか……」
「イェス!氷華は両方とも知ってたよ。というか、くーちゃんに言わないでって言われてたからね」
それなら仕方ないな。なんてあっさり認めてしまった。まぁ氷華の大事な友達だしね、責めたりはできないな。
「あ、だからあの誘いだったのか」
「何が?」
「うん。実はくーちゃんから雪ねぇ宛にメッセージがきたんだ」
「え!」
「雪ねぇ LINE交換してないのぉ?……すごい前のめりだね」
気持ちが高ぶって思わずぐっと身を氷華に寄せてしまった。だ、だって私宛にメッセージってすっごく気になる……
「な、なんて?」
「えっとね、“明日うちにきませんか?”だって」
途端に私の思考は停止した。心臓も止まりかけたけど、なんとか動いている。
というか、今日お互いに顔を合わせたばかりなのに、やっと会う事ができた人物なのに、もう家って、早くないかな……いや、別に行きたくないとかではない。むしろ行きたい。
「なんかね、くーちゃんのお姉さんに呼ぶように言われたんだって」
多分、氷華に悪気はない。だけど、その情報は言わないで欲しかった。
なんか自分の中で膨れ上がっていた期待がしぼんでいく感じがして、そのまま肩が落ちる。
「わかった……行くって、伝えておいて」
「りょうかーい。あ、おばあちゃんがそろそろご飯だから降りておいでって」
「わかった……——————— あ、氷華待って!」
そのまま氷華が部屋を出ようとしたが、あることを思い出して私は引き止めた。
「ん?何ー?」
「私、桜和さんの連絡先知らないから、場所とかわかんないし……できれば一緒にきてほしい……」
「んー……わかったぁ。くーちゃんに連絡しとくね」
いつも通りのふわふわした笑顔で氷華は部屋を出て行った。
遠くなっていく足音を聞きながら、そのままベットの上に倒れこんだ。
さっきまで落ち着いていた心臓がまた激しさを増してきた。
「明日、何着て行こうかな……」




