5−34話:空 side
しばらくして、ステージの方ではリハーサルが始まった。
エントランスに設置されているモニターにはその様子が移されていて、先輩の姿が映っている。
ライブが始まる時間までまだ随分と時間がある。エントランス内はガラリとしていて、人の出入りは会場のスタッフだけ。
「ほい、カフェオレ」
「あ、ありがとう」
お姉ちゃんが差し出してくれたカフェを受け取ると、一口だけ口に運ぶ。
暖かなカフェオレは、少しだけ暖房がついているここでは熱く感じる。
「仕事はいいの?」
「少しだけ休憩もらったから大丈夫大丈夫」
自分用にと用意した珈琲を飲みながら、お姉ちゃんはモニターの方に目線を向ける。
「いい表情してるね、雪凪」
「そう?いつも通りだけど」
「幸せオーラ出まくってる感じ。随分楽しかったみたいね」
「……うん、楽しかったよ」
少しだけ歯切れの悪い私の返答に、お姉ちゃんは首をかしげる。
楽しかったのは楽しかった。だって、先輩と一緒だったんだから。でも、すれ違うカップルを見ていると、本当に自分でよかったのか。そう思ってしまって不安に感じた。
そのせいで、結局プレゼントも渡せなかった。
「……でも、好きなんでしょ」
「うん、大好き」
不安を感じているもの、それでもやっぱり先輩が好きなのは変わりない。
その言葉に、お姉ちゃんはは「答え出てるじゃん」と言って、私の頭に手を乗せた。
「なら、落ち込まなくていいよ。好きなら胸張って、自分が一番なんだ。誰にも奪わせない!そんな気持ちでいな」
優しく頭を撫でられる。とても久しぶりにお姉ちゃんに撫でられた気がした。不思議と、先輩とは違う落ち着きを感じる。
「それに、自分の恋人は誰よりもかっこいい。そう思えば、男なんかよりも魅力的に相手を見れるよ」
不思議と、その言葉には説得力を感じた。
というよりも、それはまるで……
「お姉ちゃん?」
私が何か感じ取ったのに気づいたのか、お姉ちゃんは苦笑いを浮かべながら話してくれた。
誰も知らない、当人同士だけが知ってる、若気の至りという名の、儚い恋……




